「こんにちは土方さんお仕事ご苦労様です突然ですが僕に付き合ってください」


一息で言い切ると土方さんは訳の分からない、というより理解しきれていないといった顔をして唖然と僕を見上げた。


「…………なに?」
「だから、僕に付き合ってください」


同じこと言わせないでくださいよ、て言うと凄い形相で睨まれる。
でもそんなもの怖くもなんともないから笑って受け流すと大きい溜め息をつかれた。


「お前だって知ってるだろ。今は構ってる暇もねぇんだよ」
「嘘」


間髪入れずに答えると土方さんは目を見開いて僕を見た。
それを気にせず言葉を続ける。


「見た限りじゃ今日の夕方までには片付きそうだし、だったら僕を構ってくれたっていいでしょう?」


ちらりと前より少なくなった書類の束を見ながら告げると土方さんは僅かに眉を動かした。
予想が当たったらしい。


「ね?」
「…………断る」


キッパリと、言われてしまった。
少し傷付いたなぁ。


「僕がそんなの聞くとでも?」


不敵に笑みを浮かべて、土方さんに手を伸ばす。
あと少し、土方さんの頬に触れようとすると、


「っ……!」


真横に風が吹き抜ける。
見開いた目の前には土方さんはいない。
しばらく唖然としていた僕だったが、状況を理解して慌てて立ち上がる。
さっきのは正に風の速さで土方さんが僕の横を通りすぎたんだ。
というより逃げたんだ。


「ちょ……土方さん!」


その後を急いで追いかけると全速力で駈ける土方さんの後ろ姿を見つけた。


「土方さん!何で逃げるんですか!?」
「っ、く、来んな!」
「なっ、待ってくださいよ!」


土方さんは来るなの一点張りで逃走し続ける。
最早僕は捕まえて相手をしてもらう事よりも、逃げた理由を聞くことを目的に追い掛けた。
しかしこの状況、普段なら僕が追い掛けられる側だからなかなか見物なんじゃないだろうか。
それを証明するかのように、いつもと逆の立ち位置の僕達を新八さん達がポカンと間抜け面して見ていた。
すぐ通り過ぎたからよくは見れなかったけど。





そうこうしてるうちに土方さんは道場内に入っていって、それを絶好の機会だと思った僕は全速力で距離を詰めた。
もぬけの殻だった道場内に足音が響く。
土方さんは僕が近づいてきたのを感じ取ったらしいけどもう遅い。
腕を掴める位になる頃には既に隅へ追い詰めていたんだから。
まさに、袋のネズミだ。
土方さんはそれでも逃げようとしてくるりと僕の方を向いてきた。
すり抜けられるより先にバン、と大きい音をたてながら顔のすぐ横に手をつく。


「逃げる必要は、ないでしょう?」


そう優しく問いかけたのに目を逸らされて苛ついた。
手を伸ばして顎を掴み、逸らした顔を戻して上を向かせる。


「そんなに僕を怒らせたいんですか?」
「ち、がう」


揺れる瞳に目を細める。


「じゃあ、教えてくださいよ」


一段低い声を出して無表情のまま問い掛けると土方さんから息を呑む音がした。
じっと見つめていると、しばらく土方さんは目を泳がせていたが、やがて小さく口を開く。


「ぃ、嫌だったんだ」
「それはさっきも聞きました。僕は理由を聞いてるんですよ、土方さん?」
「…………」


無言。
土方さんの様子からしてちゃんとした理由はあるようだが言うか考えあぐねているようだった。
何だか可哀想になってきちゃったなぁ、とか思っていたら、


「…………笑うなよ」
「はい?」
「……今、疲れてるだろ」
「……はい」
「だから、その、そんな状態でやったら……り、理性が飛んじまいそうだと思ってだな」
「…………」
「がっついてると思われたくなかったんだ」


一通り話し終えたのか土方さんは恥ずかしいというように俯く。
耳から首まで真っ赤な土方さんに僕は頬が緩むのを我慢できなかった。


「へぇ……土方さんそんなこと考えてたんだ」
「っ……うるせぇ!」


からかわれたことに怒っているのか噛みつかんばかりに声を上げてきた。
そんな土方さんの腰に手を回して引き寄せ、顎に添えたままだった手で上を向かせる。


「そ、」
「僕としてはその方がいいんですけどね」
「なっ!?」
「僕に抱かれてぐちゃぐちゃになる土方さん。見たいなぁ」


ニヤリと口角をあげれば土方さんは身体を強張らせる。
そんな反応したら拍車をかけるだけなんだけどな。


「総司っ……!」


懇願するような声音に苦笑を浮かべる。


「分かってますよ」
「え……」
「その代わり、待たせる分は貰いますね」


土方さんが喋る前にその口を塞ぐ。
ビクリと跳ねさせた肩に気を良くして開いていた歯の間に舌を差し込んだ。
そのまま口内を蹂躙すると縋るように手が腕を握り締めてくる。


「ふっ……ん、ぅ…っ!」


土方さんのくぐもった声を聞きながら、とんだ据え膳だと内心一人ごちる。
ふるふると震えだした身体に気づいて唇を離した。


「じゃ、確かに頂いたんで」
「は、ぁ……」
「夜は覚悟しててくださいね。その前までにちゃんと寝るでも何でもして疲れ取っといてください」
「っ、お前……!?」
「僕の優しさに感謝してくださいよー」


驚いてる土方さんを後目に手を振りながら背を向けて歩き出す。
余裕綽々といったふうに振る舞えば悔しそうな声と共に土方さんが近づいてくる気配がした。















追い掛ける

(追ってよかったから、次は逃げてみようか)



















お題あってるー?(´・ω・`)
裏の指定なかったから普通の甘々にしちゃいましたけど、何かありましたらどうぞ。

雛菊様、リクエストありがとうございました。



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