「はぁ……」


一つ溜め息をつきながら廊下を歩く。
今、俺は深刻な問題を抱えていた。


「足りない……」


土方さんが足りてないのだ。



俺が片思いで恋仲になるまでは互いに忙しくて顔を合わせなくてもそこまで悩んだりはしなかった。
しかし恋仲になってしまえば想いは大きくなるだけで、今現在互いに忙しい毎日を送っているため俺は土方さんに会えなくて悩んでいる。
悪く言えば苛ついている。
また溜め息をついて廊下の角を曲がるとどん、と誰かにぶつかった。


「と、すまな……ぁ」
「すまねぇな斎藤、余所見しててな」


目線を上げると苦笑してる土方さんの姿があった。
今の今まで土方さんのことを考えていたため思考が停止してしまう。


「斎藤?」
「あ、いえ、あの、何でもないです。すみません、俺も余所見をしていたもので……」


何とか頭を回転させ頭を下げて謝るまでにいたったが、顔を上げると土方さんがきょろきょろと辺りを見回していた。
可愛い……ではなく、不審な行動に首を傾げる。
心なしか顔も少し赤い気が……。


「あの、ひじか、」


土方さん、と呼びかける前に身体に重みがかかる。
目の前では黒髪が宙を舞っており、全身が何かに触れていて、背中には細いものが着物を掴んでいるように感じた。
つまり、俺が土方さんに抱き締められていると考えが行き着いたのは舞っていた黒髪が土方さんの背中に落ち着いた頃だった。


「ひ、ひじかた、さ、ん」
「少しだけ……」


小さく呟いて肩に顔を埋めてくる土方さんに身体が固まってしまった。
バクバクと心臓が動いて、多分土方さんにも伝わっているだろう。
しかし、その上からも自分とは違う早い鼓動の音が刻まれていて、土方さんも同じように緊張している事が分かった。
背中越しに伝わってくる僅かな震えに気付かれないよう喉を鳴らし、俺もまた背中に手を回して肩口に顔を埋める。
落ち着く匂いと温もりが全身に染み渡っていくようで、はぁ、と息を吐き出すといきなり肩を掴まれ身体が離された。
驚いて目を丸くさせたまま俯く土方さんを見つめる。


「……あの、」
「い、今は駄目だ!」
「え……?」


訳が分からず聞き返すが土方さんは口ごもったまま顔を上げようとしない。
どうしようか困り果てているとぼそぼそと小さい声が聞こえてきた。


「どうしました?」
「だから、その……足りなくてだな」
「…………」
「最近お前と二人になれてなかったから、だから、お前に触りたかっただけだ……!」


顔を真っ赤に染め上げて涙目になって恥ずかしさの極みと言ったところだろうか、そんな表情を浮かべて最後には。


「また、後でな」


唇に土方さんのそれが重なった。





───────





土方さんが去った後、違う方向から足音が聞こえてくる。


「……え、一くんこんなとこに転がって何してるの?しかも耳真っ赤だし」


総司に指摘された通り、俺は先程の土方さんからの一撃で転がっていた。
というか悶えていた。
赤くなっているであろう顔を両手で覆っていたのだが、どうやら耳まで至っていたらしい。
しかしそんなことどうでもいい。
あの表情が、言葉が、感触が頭から離れない忘れられない。



可愛い、可愛い可愛い可愛い可愛い!!



「可愛すぎる!」
「…………は?」















ときめく

(この胸の高鳴りをどう抑えれば……!)
(一くんきもちわるい)




















変態な斎藤さんと乙女度が当社比三割増しな土方さん^p^
このお題じゃなくてもよかったかもなーなんて今更思ったり←
ちなみに今は駄目だ、の土方さんの台詞は斎藤さんの吐息があまりにエロ過ぎてその気になってしまったんじゃねぇかと思っての台詞です。
この土方さんの読みは当たりだったりする。
斎藤さんは無意識のうちに欲情してしまったようです←
無意識ですよ(大事な事なので二回言いました)


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