目の前を歩く浅葱色の羽織を着た人物に斎藤は思わず呆然としてしまった。


「副長……」
「何だ、斎藤か。どうした」


呟いた呼称に土方はくるりと振り返る。
未だに頭の整理がついていない斎藤だったが土方はそれに気づかず己と同じく浅葱色の羽織を纏っていることに一つ目を瞬かせた。


「そうか、今日はお前達の隊と巡察か」
「っ、副長!まさか、あんたも出るのか……?」


やっと戻った思考に斎藤は声を上げてしまった。
そんな斎藤に土方は訳の分からないというように眉を寄せ顔を顰める。


「そうだが……俺が出ると何か問題でもあるのか?」
「問題はないが……、」
「ならいいだろう。おら、さっさと行かねぇと隊士を待たせちまうだろ」


普段通り凛とした姿勢で踵を返し廊下を進む土方の背中を斎藤は胸中苦々しい思いで見つめた。
ここ最近、彼の部屋から灯りが消えてたところを見ていない。
寝る間も惜しんで溜まっている仕事をやり続けている土方の身体は限界のはずなのに、さらに体力の使う巡察など、あってはならないことだ。


「土方さん……」


今日は何もないことを祈りながら斎藤もまた玄関へと向かった。





───────





どうしてそういう日に限って事件というものは起こってしまうのか。
斎藤は心の底から逃げた浪士を呪った。


「くそ……どこに行った」


不逞浪士を追っていたのだがこの暗がりのため見失ってしまった。
他の隊士も必死に捜索しているのだがなかなか見つからず、斎藤の気持ちは逸りだす。
見つからないのに加えて先程から土方の姿も見えない。
まさか、と頭によぎる予想は当たってしまったようで、遠くから小さな声と金属音が耳に入った。


「土方さん……!?」


名前を口から溢しその場所へ全速力で向かい、辿り着いた場所にはやはり土方の姿があった。
その場には斬り伏せられた浪士が一人、剣を振り乱す浪士とそれに応戦する土方。
しかし、浪士は確か三人だったはずだ。
一人いない現状に気づいた斎藤と同時に土方の側に黒い影が飛び掛かる。


「っ土方さん!!後ろだ!」


声を張り上げて叫ぶと土方は間一髪で振り下ろされた刀を避けた。
その間にも斎藤は行動を起こしており、刀に手を掛け、一気に浪士の懐へ飛び込むとそれを一閃させる。
撒き散らされる血飛沫を浴びながらそのまま振り向くと土方もまた刀を血で濡らしていた。


「はぁ……はぁ……、すまねぇな斎藤。助かった」
「いえ……」


肩で息をする土方の背中を見ながら斎藤は目を細める。
そうしている間に隊士たちも駆けつけ、浪士の処理を命じて先に帰らせた。
辺りは静まり、斎藤と土方の二人だけが残される。


「……斎藤、俺たちも、」


土方が振り返り口を開いた瞬間、顔の両側に腕が通り路地の壁に斎藤の手が叩きつけられた。
間に挟まれた土方は驚愕に目を見開き、俯いている斎藤をのろのろと見下ろした。


「さい、とう?」


動揺を隠せず名前を呼ぶとゆっくりと斎藤の顔が上がり、ゾッとするほどの怒りが滲んだ瞳に射抜かれた。


「あんた、何故一人で浪士に挑んだ」


低く冷たい声音に土方は身体を強張らせた。
心臓が早鐘を打ち唇が震える。


「あ、れは……お前らを呼んだら、また逃げられると思って……」
「……今の状態で、よくそんな事考えついたな」


斎藤は土方の手首を掴み力を込める。
反論する間もなく加えられる強い力に土方は顔を歪め小さな悲鳴を漏らした。


「こんなに痩せ細って、万全じゃない体調で、どうして一人でやれると思ったんだ」
「斎藤っ……いてぇ、よ……!」


悲痛な声に斎藤は手首を離し、そのまま自身も土方から身を引く。
手首を擦りながら土方は無表情の斎藤を戸惑いに揺れる瞳で見つめた。


「斎藤……」
「さっきのあんたは動きに切れがなかった。判断力も鈍っていたから不意をつかれた」
「…………」
「普段のあんたなら一人でも平気だっただろうが、今は疲れが溜まってるんだ。もう少し自分の身体に関心を持ってくれ」


目を逸らしたまま斎藤は大通りへ歩き出し、途中で足を止めると肩越しに土方へ声をかけた。


「数々の失言、申し訳ありませんでした。頭の整理がついたら大通りに来てください。待っていますので」


普段の通りに告げて歩を進める斎藤の背中を土方は黙って追っていた。



あんなに強く言われたのは初めてだった。
胸が痛いくらい締め付けられるようで、言いようのない感覚に土方は息を詰める。


「謝らなくちゃ、いけねぇよな……?」


だが、会いに行くのが少し怖いと感じるのは何故だろうか。
僅かに震える身体に苦笑して、これからは少しくらい言う事を聞いてやらなければ、と心の中で思いながら斎藤の待つ大通りへ向かった。















気圧される

(距離感がつかめない)




















斎藤さんは片思い部下だったころはただ見てるだけだったので土方さんの心配とかしてるけど声に出したことは少なかったと思うんですよ。
でも恋仲になって一応対等の立場になって、無理してるようなら止めようと思ってるんだけど口にしたことがほぼないので止め方をまったくわかりません。
結果、自分の感情がつい前にきちゃって攻めるような止め方しかできなかったと思うんですよね。
土方さんは土方さんで恋仲の自覚が若干持てず心配されているという感覚が少ないので突然怒られて戸惑っちゃうか感じかなぁ、と。
付き合い始めはきっとこんな感じで、徐々に心配の仕方、されかたを学んで、いい主従関係を保ちつつ、愛し合ってればいいと思います。
以上、長ったらしい妄想でした。

しのぶ様、リクエストありがとうございました。


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