「いやぁ、よく似合ってますよ。何処からどう見ても女の人にしか……っふ」
「笑うな、ぶった斬るぞ」


据わった目で睨みつけるその様は正に鬼。
しかし今は鬼と恐れられる土方本来の姿ではない。
煌びやかな着物を纏い、高く結い上げ髪にはたくさんの簪が輝いている。


「土方さん。今から女の振りする人がそんな怖い言葉使ったり、顔しちゃ駄目ですよ?」


からかう沖田に苦虫を潰したような顔をする土方は深々と溜め息をついた。





遊郭で怪しい会合が開かれる。


山崎から不穏な噂を聞き、潜入することになったのだが、人手が不足していた為副長直々に出ることとなった。
その際に沖田も一緒に潜入することになったのだが、話し合いでの一言が土方をこのような姿にさせた。
当の沖田はぶつぶつと呟く土方の姿に一人笑みを溢し、調査の段取りを切り出した。





───────





既に店側には事情を話していた為、土方と沖田は自由に動き回れる。
沖田はそれぞれの部屋の話を外から。
土方はより近く、つまり遊女を装い詳しく情報を集める。
効率を上げるため別行動だ。





「……きつい」


ガヤガヤと話し声が聞こえる廊下で土方は項垂れた。
別の部屋に行く度に言い寄られてはかわす事の繰り返し。
他の遊女達に手伝って貰いなんとかしてきたが、男としての威厳は壊されつつあった。
おまけに有力な情報も入ってこない。
ただの無駄骨に終わるのかと考えていた矢先、側の部屋から気になる単語が聞こえてきた。
気を引き締め、襖の方へ聞き耳を立てる。
息を潜めて集中していたのだが、それがいけなかった。


「っ……!?」


突如、後ろから口を塞がれて隣の部屋に引き込まれた。
土方はもしやあの部屋にいた奴らの仲間か、などと考えたがその考えは打ち消された。


「ほう……随分背の高い遊女がいると思えば……」


顎を掴まれ横を向かされる。
目に映ったその顔は見覚えのある妖しい笑みを浮かべていた。


「いつかの犬ではないか」
「…か、ざま……!?」


何でこんな所に、と口にする前に壁に身体を押さえつけられ向かい合わせにされる。


「ぐっ……!」
「まさかこんなにも早く会うことになるとはな……。しかし何だその格好は。くく……まるで女そのものではないか」
「っ、黙れ!」


見下したような態度に土方は目を吊り上げるが風間はどうでもいいというように鼻で笑う。
土方はぎり、と歯を噛み締めるが状況は明らかに不利だ。
どうするか思案しているといきなり腕を片手で頭上に一纏めにされ、首に手を掛けられる。
そして強引に唇を塞がれた。


「んっ?!う、ぐ!」


土方は目を見開き身体を跳ねさせる。
入り込んできた舌にぞわりと悪寒を感じ、噛みちぎってやろうと思ったが首に込められる力に身動きがとれない。


「ふ、ぁ……!やめっ……っ!」


やっとのことで解放されたが、好き放題荒らされた口内を不快に感じずにはいられない。睨みつけるも風間は全く動じない。


「てめぇ……!」
「今の貴様は遊女だろう。ならば、何をしようと俺の勝手だ。当然、女同然に抱いてもだ」


にたりと笑う風間に背筋が凍った。
そんな土方を面白そうに眺めたあと、風間は首筋に舌を這わせる。


「い、やだ……やめっ」
「それに、大人しくしていれば貴様が今調べていることを教えてやらんこともない」
「なに?」


思わず聞き返した土方だったが風間はただ笑うばかりだ。


「────断る」


土方がきっぱりと言葉を発したその時。


「!?」


大きな音を立て襖が開かれた。
そこには何時もの笑みは消えた沖田が立っていた。


「総司……」
「……何だ、もう一人いたのか」


不愉快そうに舌打ちをしる風間に沖田は鋭い眼光で睨みつける。


「離せよ」


普段より数段低いその声に土方は鳥肌をたたせたが、風間は気にした風も無く、土方を引き寄せ見せつけるように後ろから顎を掴んだ。


「どうした、人質がいては手出し出来ぬか?」
「お前……!」


つ、と土方の輪郭を指でなぞりながら挑発する風間に怒りを露わにする沖田は苛烈だ。
今にも剣を抜きそうだが土方が囚われてる限り沖田は動けない。


「っ!」


突然、土方の腕が閃く。
沖田に気を取られていた風間目掛けて懐から取り出した小刀を後ろへ突き出すが、間一髪で避けられた。
解放された土方はよろめく足で沖田の隣に走り戦闘体制をとる。
一方の風間は口を弧の形に浮かべていた。


「ほう……」
「総司!お前の脇差を、っ!?」


沖田へ手を差し出した土方だったが、指示する前に手首を掴まれた。


「総司?」
「引きますよ」
「は?おい総司?!」


無理矢理土方の手を引いてその場から退散する沖田を風間は目を細めて楽しげに見送った。





長い廊下を沖田は土方の手を引かれたまま早足に歩く。


「おい総司、風間から会合の内容を吐かせねぇと、」
「必要ありません。もう調べ終わりましたから」
「は?」
「対した内容じゃありませんでしたがいろんな情報が手に入りました。後で報告します」


早口にそう告げると沖田は自分達に設けられた部屋に入る。
背を向けたままの沖田に土方は気まずさを感じながらも話しかけた。


「騒ぎを起こす前に、止めてくれて助かった。あのままだったら計画が台無しになってたかもしれなかったしな」
「…………」
「あの、」
「……ごめんなさい。助けが遅くなって」


言いかけの言葉を遮りゆっくりと振り向いた沖田の細めた瞳がやけに綺麗に見えて、土方は胸が跳ね上がるのを感じた。


「あ、いや……気にするな。俺が油断したからだ」
「それでも、ごめんなさい」


こんな沖田は見たことがない。
土方はいつもと違う沖田から目が離せずにいた。
す、と静かな動作で沖田の腕が持ち上がり、土方の輪郭を指でなぞる。


「っ、そ……じ」
「……ははっ、駄目ですよ。そんな顔しちゃ」


沖田は困ったように笑うと伸ばしていた手をそのまま土方の頭へ移動させ、自らの胸の中に引き寄せた。


「なっ……」
「僕、土方さんのことが好きです」


優しく響いた声音に土方は息を詰めた。


「本当は土方さんをあそこに置いておきたくなかったんです」


更に抱き締めてくる沖田に土方は何も出来ずにいた。
拒めないのはどうしてか。


「後で良いので、ちゃんと返事くださいね」


耳元で囁くと沖田は身体を離し部屋から出て行こうとする。
土方は咄嗟に沖田に着物の裾を掴んで引き止めた。


「土方さん?」
「す、きだ」
「え?」


小さな声は聞き間違いでなければ返答。
沖田は目を丸くさせて土方を見つめた。


「本当、ですか?」
「……嘘は言わねぇ」


先程と同じ位の声量で呟かれる。
沖田はくすりと笑って長い髪を一房取り、口吻ける。


「さっきので、惚れちゃいました……?」


からかうように話す沖田に土方は首を横に振った。


「それもあるが、多分もっと前からだ」
「……嬉しいなぁ」


でも、それならもっと前に告白しちゃえばよかった。



そう笑って沖田は土方と同じそれに唇を寄せた。















惚れる

(きっかけが、欲しかった)




















土方さん鈍いから何か起こらないと好きだって自覚しなさそうってことで。
スランプ実にすみません。

ひの様、リクエストありがとうございました。


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