初めて会ったのは彼がまだ幼く、私が学生だった頃だったか。
見た目は勝ち気でやんちゃそうな子だったが、人見知りだったのかなかなかなついてくれなかったのはいい思い出だ。
彼が小学校に入学してからは鴉取君共々まとめるのが大変だった。
けれども、テストでいい点数が取れたときには真っ先に報告しに来てくれたり、勉強を聞きに来たりよく慕ってくれた。
この頃はまだ可愛い弟分だったのに。
更に彼が中学生になってからは会う機会が減ってしまった。
時間帯の問題もあったのだが、他にも理由があった。
この時にはすでに私は鬼斬丸のことはほとんど把握していたから会うのが気まずかった。
自分の使命や……母の事が重くのし掛かったために、知らず知らず避けていたのかもしれない。
それでも彼は屈託なく話しかけてきてくれた。
照れたような、少し大人びた笑顔にどれだけ救われたことか。
また心の底から笑えるようになってから気づいたのは、
切ない恋心だった。
───────
「まさか私を選んでくれるとは思いませんでした」
「ふぁ?」
出した茶菓子を食べながら間の抜けた声を上げる鬼崎君に苦笑しながらお茶を差し出す。
「何の事すか?」
「いえ……私は鬼崎君と共に過ごす時間は少なかったですから。てっきり鴉取君や狐邑君に想いが寄っているのだとばかり」
ここ数日考えていたことを素直に口にすると、鬼崎君は渋い顔をして首の後ろを掻いた。
「真弘先輩と祐一先輩は兄貴みたいにしか思ってなかったですし、それに先輩達だって何とも思ってないですよ」
まぁ、彼等だってそうは思っていないだろう。
想っている事に気付いていないだけだが。
愛情と親愛が混じって的確に見出だせなかったんだろう。
「それが不幸中の幸いだったということですかね……」
「え?」
「何でもありませんよ」
誤魔化すようにニコリと微笑みお茶を啜る。
気付いていたのならきっと私は勝てなかった。
先も言った通り、会っている時間があちらの方が多いのだからアピールの仕方は幾らでもある。
つらつらとそんなことを考えていたために不意をつかれてしまった。
いつの間にか隣に移動していた鬼崎君が顔を近付けていたのだと気付いたのは両頬が温もりに包まれてからで。
「鬼、崎、君……?」
「多分、先輩でもダメだったと思いますよ」
「ぇ……何がですか?」
「俺の相手っす」
ニヤッと悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた鬼崎君は私の唇に同じそれを触れさせてきてすぐ離す。
目線の先にある鬼崎君の顔は先程と違った、幸せそうに笑った顔で。
「俺は、卓さんだから好きになったんっすよ?」
小さい頃からずっと、貴方だけを見てました。
衝撃的な告白は私の頭に響き渡った。
つい顔を赤くしてしまい、柄にもなく慌ててしまった。
そんな私を楽しむように彼はまた大好きな、照れたような少し大人びた笑顔を見せてくれた。
慕う
(俺の世界で一番大人だった貴方は)
(いつも俺の目を惹いたんだ)
辞書での「特に目上の人を愛する」という意味に萌え禿げたので。
上手く表現出来てれば幸い。
緑刻菜桜様、リクエストありがとうございました。