*中世風パロ
*芦屋さんが吸血鬼、拓磨が半魔
*五瀬が酷い















それは神が気紛れで起こした奇跡だ。
しかし、それは極めて異端。
罪もないのに追われる身はなんて憐れなんだろう。



……まぁ、僕にとってはどうでもいいことなんだけど。











深い森を走って走って、突出した石に躓いて派手に転んだ。
身体の所々が痛んだが、今は焦燥のほうが勝っている。
立ち上がろうとした瞬間、背中へ強い衝撃が走り先程より音を立てて身体を地面へ叩きつけた。
苦痛に喘ぎながら肩越しに見上げると月明かりに照らされて銀色に光る銃口と、影になって見えないが明らかに嗤笑する口元が見えた。


「随分と手こずらせてくれましたね。さすがは悪魔、身体能力は並外れている……」
「っ……俺は、人間だ……!」
「人間?おかしなことを言う。異色の髪と瞳、その禍々しい魔力、そしているだけで人々を不幸へ貶めるあなたが、人間なはずないでしょう!」


高らかに告げられた言葉に青年はギリッと歯噛みした。
エクソシストである彼は自分を殺そうとしている。



何故。

どうして。

自分が何をしたっていうんだ。



青年の思っていることを汲み取ったのか、イツセは背中を踏みつける力を強くして口を開く。


「生きているだけで、罪だというんだ」


たった一言。
それだけで心が砕けてしまった気がした。
震えている青年を見下しながらイツセは改めて銃を構えなおし、ニタリと口角を上げる。


「終わりだ。死ね、悪魔」


残酷な宣告の後にくるであろう痛みに堪えるべくぎゅっと固く目を瞑る。
しかし、いつまで経ってもそれは訪れず、恐る恐る瞼を開くと代わりに覆い被さる影が大きくなっていた。


「少しばかり待ってくれるかな、イツセ」
「……おや、吸血鬼殿が何の用事ですか?」


上で交わされる会話に目を見開いてまた肩越しに見上げた。
そこには銃を持つイツセの手を後ろから掴み上げている黒いマントを纏った男がいた。
明らかにヒトとは思えない雰囲気を纏う男は吸血鬼と言ったか。


「なに、その子供を僕に譲ってくれないかと思ってね」
「馬鹿な事を。やっと見つけた悪魔をみすみす逃し、ましてや吸血鬼ごときに渡せというのか」
「だが、人の血も混じっているんだろう?興味があるんだ」
「嫌だといったら?」
「君を殺すかもしれないな。なんたって君は今、僕を殺す道具を持っていないんだから」
「……それもそうですね。上手くいけばあなたがこれを殺してくれるかもしれない。そうでなくとも、次に会った時一緒に殺せばいいだけの話だ」
「理解が早くて助かるよ」


笑いながら話す内容ではないのだが、交渉は成立したらしい。
イツセはこちらを見ることなく去っていったが、危機はまだ脱していない。
震えを抑えながら立ち上がり吸血鬼と対峙する。
眼鏡の奥の感情の見えない目が恐ろしい。
吸血鬼はヘラリと笑うとこちらへ近づいてくる。


「そんなに怖がらないでくれよ。イツセはあぁ言ってたけど殺す気なんてないんだから」
「っ寄るな!!」


声を張り上げるも自分には守る術などもっていない。
あっという間に距離を縮められ、大きな幹へ追い詰められてしまった。
背中に当たる幹の水気に身震いをしながらギッと睨みつけるがそんなものが効く筈も無い。
薄ら笑みを浮かべながら右手を払ったと思うと真一文字にシャツと薄皮一枚切り裂かれた。
伸びた爪に呆然としながらゆっくりと血の流れる胸部へ手を当てる。
生温い血が掌に付着し、一気に青ざめた。
恐怖が頭を支配して、逃げようと思ったが意に反して足は動いてくれない。
その間に吸血鬼が近づき、逃げれないよう肩を押さえつけると胸の傷口へ舌を這わせた。


「あっ?!や、ひぅっ……!」
「ほぅ……これは珍しい味だな。うん、僕好みだ」


一人納得したように頷いて更に舌を這わしてくる吸血鬼に青年はゾクゾクと身体を震わせた。
痛みと、ワケの分からない感覚が全身に走る。



怖い、痛い、助けて。



声にしたくても喉が凍って意味のない音しか出てこない。


「しかもいい声だ。気に入ったよ」
「ぁ……は、あ……は、なせ……!」


甘い痺れが身体に回り、力が入らない。
抵抗したつもりが逆に吸血鬼の火をつけてしまったらしく、ニヤリと笑ったかと思うと首元へ顔を寄せ、首筋に歯を立てた。
ぶつりと音を立てて裂ける皮膚から血が流れ出て、痛みから熱さへと変わっていく感覚に気が狂いそうになる。


「あ、ぁっあ、や、めろ……!ひ、あ、ぅ」


男の喉が動くたび全てを奪われる錯覚に陥る。





怖い、恐い、こわいコワイ!





「うぁ……あ……ぁ、ああ……」
「……驚いたな。殺されそうになっても泣かなかった君が涙を溢すなんて」


目を丸くさせる吸血鬼は違う意味でも驚いていた。
吸血による快楽に顔を紅潮させ、しかしその頬に流れる雫と、首筋の噛み痕と共に青白く照らす痙攣した身体が酷く妖艶で扇情的で。
まるで人間とは思えない美しさだった。


「いや、人ではないのか……」


悪魔と人間の間に生まれた半端な子供。
今までは人間界で生きてきたこの子はきっとこちらに来るなんて考えた事もないんだろうな。


「身寄りがないのなら僕の所に来ればいい。悪魔として使い魔に、人間として僕の食事に。いい考えじゃないかな?」


汗ばんだ前髪を払って眦へ唇を落とす。
ふふ、と笑みを溢して力ない肢体を横抱きにする。


「起きたときにまた話そう」


きっと同棲している彼女も許してくれるだろう。


「しかしでかいな、持ちづらい」


そう言いつつも吸血鬼は背中に大きく漆黒の翼を広げ、飛び立った。















(あぁ、名前を聞くのを忘れていた)



















遅いハロウィン企画。
書いてみたかった芦拓、五拓をぎゅっと合わせてみた。
五瀬の名前がカタカナなのは使用です。




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