遠くから笑い声を聞きながら重い足取りで門をくぐる。
永倉達が宴会でもしてやがんのか。
まぁ、だからこそ呼び出しをしたんだろう。
久々に出かけねぇと思ったらこれだ。


「くそ……俺を遊女代わりにすんなっつの」


無理な体勢をとらされてたせいで身体中痛い。
意識した途端さっきの事が頭によぎって舌打ちをした。
外に出て問題を起こされたくはないが今日みたいな事は二度と御免被りたい。
そう思って何度目になるのか。
疲れと憤りと、これからの事を考えてため息をつくと同時に、八木邸の門から人が出てくる。


「土方さん?」
「井吹……」


思いがけず井吹と鉢合わせになり目を丸くさせた。
井吹も俺にこんなところで会うとは思ってなかったのか驚いた顔をしている。
永倉達と飲んでいると記憶していたんだが、聞けば絡み酒から逃げてきたらしい。


「土方さんこそ何してるんだ。あ、もしかして芹沢さんか?」


名前が出たとき僅かに肩を震わせてしまったが気づかれていないようだった。
井吹だから変に感づいたり余計な詮索はしてこないとは思うが。


「珍しいな、一人なんて」
「……まぁ、な」


曖昧な笑みを浮かべて歩き始める。
正直、身体の負担が大きくて辛かった。不審に思われる前に早々に立ち去りたい。


「じゃあな、あいつらに引っ張られる前にさっさと戻れよ」


ゆっくり井吹の横を通りすぎようとした瞬間。


「……っ!?」


井吹に手首を掴まれ引き止められた。
いやに真剣な瞳に見つめられ、目を離せない。


「井、吹……?」
「……あんた、俺が何も気づかないと思ったか?」


息が、詰まった。
思った以上に動揺してしまい、上手く言葉が見つからない。
どうする。今まで気づかれないように装ってきたのに。
俺は、


「……ここ、赤くなってるぞ」
「ぇ、?」
「芹沢さんにど突かれたんだろ?」


心配そうに眉を下げて額に触れてくる井吹に思考が追い付かない。
バレてない、のか?


「……あぁ、ちと言い争いになっちまってな」
「ちゃんと冷やしとけよ」


苦々しく告げてきた井吹に礼を言い、八木邸へ戻った。
ふぅ、と息をはいて掴まれた手首を擦る。
じんわりと熱が残っていて、何とも言えない感情に胸が埋め尽くされて。


「酒でも飲むかな……」





─────





八木邸へ消えていった姿を追うようにずっとそこを見つめていた。


「気づかないと、思ったのかよ……」


額にあった傷は擦れて出来るようなものだった。
他に、腕を掴んだときに袖から見えた青痣とか、……首から僅かに見えた赤い痕とか。
いくらそういうことに乏しくても想像くらいできる。
きっと酷いことされたんだ。


「……くそ」


俺はここの事情に首を突っ込む気はない。
だが、土方さんの姿を見る度に力になりたいと思ってしまう。
出来れば、守りたいとも。
でもそれをするには大きな壁を越えなければならないんだろう。


「頼むから、」


自分を犠牲にするようなことはしないでくれ、なんて。
願うことしか出来ない無力な俺は、本当にただの犬なんだ。










(悔しくて、唇を噛み締めた)




















黎明録の土方さんがふつくしすぎた結果がこれだった。
芹→土←龍のつもりだけど龍之助君と土方さんは親愛くらいがいいと思います。ラブよりライク。
百合っぷるうまい!






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