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「…お、お邪魔します!」

「うん、いらっしゃい。そんなに緊張することないのに」


声裏返ってたよ?そう言われて、顔が熱くなるのが分かった。
うぅ、恥ずかしい!


「だってさ、今まで誰かと付き合ったことなんて1度もないのに…彼氏の家に行くのに緊張しないとか…無理だよ…」


なまえがそう言うと、彼――折原臨也は「へえ、」とニヤニヤ笑っていた。
なんだなんだ。

自分だけ余裕がない事にムッとしたなまえは頬を膨らませた。


「臨也ばっか余裕あるとかずるい…」

「ハハ、なまえの反応が可愛くてさ」

「(か、可愛いとか!!)〜〜!も、もう!!」

「アハハハハ!…それに、俺が恥ずかしがるとか柄にもないでしょ?」


まあ……、失礼な話だけど、想像してみて確かに少し変な気がしないでもなかった。
臨也が照れる…、それはそれで良いと思うけど。
ほら、かわいいっていうか。おいしいといいますか。所謂ギャップ…


「今ちょっと失礼な事…っていうか変なこと考えてたよね?さっきの軽い冗談だったんだけど。」

「え、い、いや…別に?」

「………。」


慌ててその言葉を否定すると、無言で呆れた顔をされた。


「……どうしたの、臨也?」

「いや、さっきの俺の質問の答え。そのとおりですって顔に書いてあるんだけど。」


…何さ、わたしってそんなに顔に出やすいか。

なまえはまた少し不機嫌そうな顔をした。
でもまあ、確かに返事が少し吃ってしまった気がする。


「まあ、兎に角上がってよ。俺も自分の彼女をずっと玄関に立たせる訳にはいかないしさ。」


はい、と手を差し伸べてくれる彼にありがとうと微笑んで手を取り、部屋の中に足を進めた。



彼と初めて会った頃のなまえは、彼の愛して止まない人間の1人だとしか思われていなかった。
だけど、暫く一緒にいるうちに、お互いにいつの間にかすぐそこにいるのが当たり前みたいになってて…それで、少し前から付き合い始めたところなのだ。

ちなみに、なまえは初めて彼に会ったときに一目惚れした。
眉目秀麗な彼に言い寄る女の子は多かったけれど(主に信者の女の子達)、本当にここまで無事臨也の彼女でいられて良かったと切に思う。

いや、これからもそうであって欲しいな、うん。

……で、そんななまえが今臨也の家に居るのは、世間一般に言う所謂自宅デートというものの為だった。

彼氏は愚か、小学校以来男子の部屋に入ったことがないなまえには、緊張しても仕切れない出来事なのだ。


リビングに通されたなまえの足は、そのまま座るように言われたソファーへと進んだ。


「珈琲でいい?」

「うん、お願い」


たまに立つことはあるそうだが、普段波江さんくらいしか使わないらしいキッチンから掛けられる声に答える。

言われたまま座ったのはいいものの、ふかふかとした高そうなソファはなんだか落ち着かない。
はやく来てくれないかな、とどこかそわそわしながら待っていると、お盆にカップを2つ乗せて臨也が此方に戻ってきたのを見て少し安堵する。


「お待たせ」


はい、と渡された珈琲。淹れたての黒が仄かに白い湯気を立てている。
一緒に持ってきてくれた砂糖とミルクを入れて混ぜ、カップに口をつける。途端、口に広がる苦味と甘み。…お砂糖、少し多かったかな。
先に飲んでいた臨也はおいしいでしょ?と笑みながら問う。それに首を立てに振って答えると、満足げにくすりと笑った。

必要最低限の家具しか置いていないシンプルな部屋に二人。珈琲の苦い香りが漂うそこは、誰も何も発することのない静寂そのもので。それでも居心地は良くて。
もし私たちが夫婦だったらこんな感じなのかな、と想像し、すぐさま何を考えているんだと少し頬を染めてはね除ける。


「なまえ」

「なぁに?」


余計なことを考えないよう、珈琲を飲むのに集中していたのだが、ふと名前を呼ばれてどうしたのかと顔を上げる。
そして、次の臨也の発言に盛大に吹いてしまったのだった。


「こうしてると、俺たちってなんだか夫婦みたいじゃない?」




おうちデート!




そんな未来もいいものだ。

(130131)

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