緊張で震える声を振り絞って、スタイナーはベアトリクスにあるお願いをした。



「ベ、ベアトリクス…!!」

「お、おまえの手料理というものを是非堪能してみたいのである!」



その大きな身体から冷や汗を流しながら恐る恐る頼んでみる。




「手料理…ですか…?」


「わたくしがまだ下っ端だった頃に、野外演習で作らされて以来なのですが…」

「切る、焼く、盛り付けるくらいなら出来るかと…」




「そ、それだけ出来れば完璧なのである!」




「では今夜、お作りします」




そう約束を取り決めてお互い夕刻までの務めに戻った。



――――――――



一緒に暮らし始めて約3か月



彼女が食事を作ってくれたことは一度もなかった




まあ将軍の立場である以上、城に泊まり込んだりすることも度々あるわけで…




だがようやくアレクサンドリアも復興してきて、以前よりは二人の時間を持てるようになった今、

スタイナーはどうしても初めて自分が愛した女の手料理が食べてみたくなったのだ。






―そして夕刻―



スタイナーが務めを終え帰宅するとまだ家にはベアトリクスの姿がなかった。



とりあえず着替えを済ませソファーで寛いでみるが心ここにあらずという感じで…




しかし1日の大半が立ち仕事という大変ハードな仕事をこなしてきた為か彼はいつの間にか心地よい眠りの世界に落ちていた…





どのくらい眠っていたのだろう

なにやら物音がして目が醒めてくる…



居間の電気は付いていないが、台所には人の気配と食欲を誘う薫り


あー帰って来たんだな〜と一安心

それと同時に彼女が約束を守ってくれたことが妙に嬉しくなる




「あら、ようやくお目覚めですか?」

皿に盛り付けられた料理をテーブルに置きに来たベアトリクスが声をかけ電気を付ける



「いや、その…眠るつもりはなかったのだが…」


「いいのですよ。私も料理してるところを貴方に見られるのは些か恥ずかしいですから」



「さあ味は保証できませんが、冷める前に召し上がってください」



「うむ…では早速…」




聖母のように微笑む彼女に促され、大皿にこれでもかというほどに豪快に盛られた料理に箸を付ける




「ず、ずいぶんと豪快な料理であるな!」



「ええ、包丁よりも剣のほうが良く切れるものですからどうしても具材が大きくなってしまいましたわ…」


「こう柄が短い刃物はどうも私の手には合わないようでして…」




「な、なんとこの料理は包丁ではなくそのセイブザクイーンで切ったのか!?」



「唯一の欠点といえば、具材が細かく切れないことくらいですかね」



涼しい顔でさも当たり前のように言ってしまうベアトリクスにスタイナーはただ作り笑いをするしかできない…



(たくさんのモンスターを薙ぎ倒し、一度は自分も仕留められかけた剣で切り刻まれた料理を食べることになろうとは…)



複雑な心境に彼女は気付かないらしく、料理を頬張るスタイナーを愛しそうに見つめている



そんな彼女を見ると指摘できるはずもなく…

なによりも自分の為に作ってくれたことが嬉しくて…




「毎日でも食べたいのである!!」



いつの日か彼女が包丁の使い方を覚えてくれることを願いながら…




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