その日、朝からスタイナーはいつも以上にソワソワ落ち着きがなかった。


前年まではその日だとすら知らなかった最愛の女性の誕生日。



二人が結ばれてから初めてのイベントということで、ひと月以上も前からスタイナーはコソコソと準備をしていた。




僅かな休憩の時間を利用して、城下の店までオーダーしていた物を引き取りに走る。



それを一旦自宅に置き、またそのまま城に戻るという超過密スケジュールをこなした。






そして日が落ち始めた頃、情報通の部下たちの計らいもあり、一足早くスタイナーは城を後にした。




自宅に戻ると大急ぎで昼間買い揃いた物をテーブルに並べていく。



不器用ながらも少しでも見映え良く、彼女が喜んでくれることを頭に浮かべながら…





一通りセッティングが整った頃、いつもより少し遅れてベアトリクスが帰宅した。




彼女に渡す小箱を懐に隠し、急いで玄関まで迎えに行くスタイナー。




ベアトリクスは両腕にたくさんの紙袋を抱えていた。




「…部下とガーネット様から頂きまして…」


「そうであるか。じ、自分も用意しておるぞ!さ、早く入るのだ」



ベアトリクスが抱えていた荷物を軽々と片手で持ち上げ、もう片方の腕をベアトリクスの腰に回してリビングまでエスコートする…




リビングに入ったと同時に思わず感嘆の声を漏らすベアトリクス。




すべて出来合いものの料理ではあるが、自分なりに色々調べて頑張った。



ケーキもシャンパンもテーブルに花までもを活けてみた。



慣れないことをしたとは思ったが、ベアトリクスが喜んでくれてる姿を見ると本当に頑張って良かったと実感する。





「こんな風に誕生日を祝ってもらうのなんて…剣を持つようになってから初めてで…」



若干震えてる声を不審に思いベアトリクスを見ると、彼女は目にうっすらと涙を溜めていた…




「…ごめんなさい、ちょっと感動してしまいましたわ…」



恥ずかしそうに微笑むベアトリクスを椅子に座らせてグラスを渡す。




「ベアトリクス、その…おめでとう!!」


照れくさそうにそう言うと静かにグラスを重ねた。




「ふふ…酔っぱらっちゃったら、責任取ってくださいね?」



イタズラっぽく見つめる瞳に、スタイナーの血圧は上昇した…





「と、ところで姫様は、なな何をくださったのだ!?」



なんとか平常心に戻ろうと全く関係ない話を振るスタイナー。




「…さあ、中身は聞いていないのですが…見てみましょうか?」




綺麗にラッピングされた包みをこれまた綺麗に開けていくベアトリクス。




「衣類みたいですね……あ、でもこれは…ちょっと……」



顔を赤く染めてそれを見つめるベアトリクス…



小さく畳まれていたそれは、ほぼレースのみで作られたベビードール。




「せせせーっかく姫様がくださったのだ、着て見せてほしいのである!!」



鼻血が出そうなほど血圧を上昇させたスタイナーが真っ赤な顔で懇願する。





「…そうですね、折角頂いたのですから、ちょっと着替えてきますね」


そう言いベアトリクスは着替える為、隣の部屋に向かった…



その隙になんとか平常心に戻ろうと深呼吸を繰り返すスタイナー



しかしその努力も戻って来たベアトリクスの姿を視界に捉えた瞬間、無駄な努力となってしまった。





なんとかギリギリ股下が隠れるくらいのヒラヒラした透けた白いレース一枚を纏うベアトリクスの姿…




スタイナーは鼻の付け根にピキッとした異音を感じた。





「す、スタイナー?血が!」


慌てて駆け寄り止血を試みるベアトリクス。



しかしスタイナーにとってみれば目の前にその艶かしい身体が近付いてきたわけで…



思わず無意識にその身体に手を伸ばしてしまった。




「もうっ!血が止まるまではダメです」


「こ、このくらいティッシュを詰めておけば大丈夫なのである!」



トランスしたスタイナーにはさすがのベアトリクスも敵うはずもなく…


そのままスタイナーに抱えられソファに寝かせられ目の前に彼の顔が迫ってくる。



その衝撃に備えて目を閉じたところでベアトリクスの意識は途切れた。





急に何の反応も示さなくなったベアトリクスに驚き徐々に冷静になってきたスタイナー。




「まさか…たった一杯のアルコールで眠ってしまったのか…!?」




大胆な衣装でソファに横たわるベアトリクスの姿に名残惜しいものを感じながらも、沸々と愛しさが沸き上がってくる。



思い出したように、自分の懐に隠していたプレゼントを取り出すと眠るベアトリクスの元に膝まずいた…




「目覚めたとき、驚いてくれるであろうか?」



耳元でそっと囁き、彼女の首元に銀色に輝くチェーンを装着する。



その大きく開いた胸元をさらに強調するかのように一粒の宝石が飾り立てる。





「まったく、誕生石がダイヤモンドとは…やはりお前は生まれ持った高貴な女性なのだな…」



そう独り言を呟き、彼女の隣に窮屈そうに身体を横たえた…





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