「なんじゃ暫く来てない間にあの可愛い店員の子は辞めてしまったのか!?」
店に入ってくるなり、ガッカリしたように店員に詰め寄る中年男性。
「くぅ〜久しぶりに街へ出ることができたというのに…」
「ん!?」
どこか聞き覚えのある声にスタイナーが振り返るとそこには変装こそしているが、知ったる者には判る、髭がトレードマークの男がいた。
「これはシド大公ではありませんか!!」
「なぜこのような所にお一人で…?」
「おーこれはスタイナー、久しぶりじゃな」
「今日からヒルダとエーコがトレノに泊まりがけでショッピングに行っておるから、久しぶりに酒場へ来てみたのだが…」
「なんとわしの目当ての子が辞めてしまっていたのじゃよ!」
「ん!?ところで隣にいるのはもしやあのベアトリクスか?間近で見るのは初めてじゃが、なかなかいい女ではないか!」
ガーネットの付き添いで来ている事等、ひとしきり話終わったところでシド大公が思い付く。
「せっかくの機会だ。3人でわしの城で飲み交わそうではないか!!」
スタイナーの予定では二人で甘い時を過ごすはずだったのだが、もちろん大公の提案を断るわけにはいかず…
結局二人は大公に連れられてリンドブルム城へ向かった。
普段は大公の書斎として利用している部屋…
(独りになりたい時に籠る部屋)
に二人を通し大公は徐に本棚を横にスライドさせる。
「ヒルダの奴、わしの浮気性は酒が原因だと言っておるのだよ全く…」
「仕方がないから隠し扉の中にしまって、あいつがいないときにチビチビ嗜んでおるのだ」
愚痴をつらつらと並べながらも向かいのソファーに腰を下ろし、手際よく酒瓶のコルクを抜きグラスに注ぐ大公
「今晩はとことん付き合ってもらうぞ」
そう言うとクィッとグラスの中身を飲み干した。
「ほれ、二人ともさっさと飲まんかい!」
シド大公に促されグラスに口を付ける二人…
スタイナーは水でも飲むかのように豪快に、
ベアトリクスは相変わらず渋い顔で最初の一杯を飲み干した。
「お!お主ら中々いける口じゃな」
嬉しそうな大公は手の中にある酒瓶から再び二人のグラスに並々と液体を注ぐ。
しばらくその繰り返しが続き、気が付くといつのまにか大公は酒瓶をラッパ飲みし始めていた
(シド大公も相当ストレスを抱えていたのだな…)
スタイナーがそんなことを思っていると、ふと肩にもたれ掛かってくる頭…
(ベアトリクス…眠ってしまったか…)
普段よほどのことがない限りお酒を口にすることのないベアトリクスは真面目な性格上、大公に煽られた酒を意地ですべて飲んでいた為、すでに力無い置物と化していた。
そんなこともお構い無しにブリ虫時代の武勇伝を延々と語り始めるシド大公…
結局スタイナーはその夜、一睡もできずに大公の絡み酒の相手をしたのだった。
―翌朝―
というか昼過ぎ…
深い眠りから目覚めたベアトリクスは一瞬自分が今いる状況を把握出来なくて混乱した。
目の前には上機嫌で喋り続けてる大公の姿…
そして自分の隣には疲れきった顔に無理矢理笑顔を浮かべ、大公の話に相槌を打つスタイナー
重い頭で必死に昨晩の記憶を辿るが…
なによりも部屋に充満するアルコールの匂いに込み上げてくるものを感じ、思わず口元を押さえてしまった。
「だ、大丈夫であるかベアトリクス!?」
先程まで死んだ魚のような目をしていたスタイナーがその様子を見て慌てて介抱する。
(こんなところで失態は絶対に許されない…)
ベアトリクスはその鍛えられた精神力のみで最大の窮地をなんとか脱出した。
「そ、そろそろ姫様との約束の時間であります!」
ベアトリクスの為にもどうにかこの状況から逃れようとスタイナーは頑張る。
「なんじゃなんじゃ、もう帰るのか。」
「まだまだ話足りないのにつまらんのぉ」
不満そうな顔を浮かべ引き止めようとする大公に最敬礼をし、二人は逃げるようにエアキャブ乗り場へ向かった。
その少し後にガーネットと合流し、無事アレクサンドリアに戻った二人だが、極度の疲労と二日酔いの為、そのまま寝込むことになってしまい、理由を知らないガーネットから勝手に変な妄想をされるのであった…
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