「眠い……終わらん………どないしよ」
授業を片っ端からボイコットして日当たりの悪い被服室に篭っていたにも関わらず、無情にも放課後。
「あとちょっとやのに……」
「何が?」
机に伏していた成樹は、突如掛けられた声にがばっと跳ね起きた。
「たつ……いつの間に」
「部活にも来ねーで、何してんのかと思えば」
竜也が取り上げたのは、ブルーの毛糸で編まれたマフラー。
「女の子に下請け頼まれて、調子こいてたらノルマ溜まっとって、この三日間殆ど寝れへんかった」
「これで最後か」
「俺の」
「は?」
「せやから、俺の本命用」
「そっか……今日はもう部活無理そうだな」
竜也はマフラーを机に置いて去ろうとした。
「たつぼん」
成樹がぼそりと呼び止めた。
「あとちょっとで終わるから、待っとって」
「……何で」
「何でって、出来たらすぐ渡したいからに決まっとるやん」
「……俺に?」
「……他に誰がおるねん」
こないな派手な青が似合う奴。
わざと間を空けて言って、にやっと笑う。
竜也は成樹の向かいに座った。
「今、余裕なかったやろ」
「うるさい」
成樹は編み棒を動かし始めた。
「なあ、校内で今日流行っていた手編み製品は、ほぼお前の作と見なしていいのか?」
「せめて共同制作くらいにしといたって」
「……俺も危うく貰うところだったぞ」
「うそーん。ま、たつぼんモテるししゃあないか」
「お前に渡したい奴は頼めないもんなあ。お前に手編み渡す
女がいたら寧ろチャレンジャーだな
「俺、今日は何も貰っとらんよ」
「マジで?」
「朝からここに篭りっきりやったもん。あげるもんの方が大事やってん」
「…………」
「たつぼん?惚けとらんで、出来たもん受け取って」
「え、ああ」
竜也は差し出されたマフラーを早速巻いた。
「あったかい」
「この冬一番の自信作やもん」
微笑む成樹の首にマフラーの端を掛けて巻き直す。
「な?」
「たつ……」
接近した二人は、そのまま深いキスをした。
「たつ、すまん。ごっつ眠…い……」
胸に崩れ落ちてきた成樹を、竜也は支えた。二人で机に座って、竜也は成樹を寄り掛からせてやる。
「サンキュ。おやすみ、シゲ」
夢の住人と化した成樹に、もう一度キスを贈った。
【COMMENT】
成樹がやたら乙女ですが、奴が寝てないせいだとでも思ってやって下さい。