Side.Severus
「この子があんなにも溜め込んでいたなんて……気付きませんでした」
泣き疲れて、そのまま眠ってしまったリクを胸に抱きながら、セブルスは申し訳なさげに呟いた。今回この子どもを追い詰めてしまっていた原因は、自身の弱さだ。やはり、自分がこの子どもを引き取る巾では無かったのではないか。そうダンブルドアに尋ねると、彼は首を横に振った。
「リクにはワシも驚かされた。まだ5歳にも満たない子どもだと思っていたが……この子は随分と大人びた子じゃった。いや、普通の子どもにしては、かなり"大人び過ぎとる"位じゃ」
家を尋ねた際に出迎えてくれた時のリクの対応といい、話し方や考え方といい、どれを取っても子どもらしくなかった。大人びていると称するにも、些か出来すぎていると感じる程に。
思えば、リクとは初めて会った時から不思議なものをダンブルドアは感じていた。確証は無いが、この件にはヴォルデモートの呪いが関与している事も考えられる。
「ひょっとしたらリクは……赤ん坊の頃の事を、まだ覚えておるのかもしれんのぅ」
「……何ですと?」
「聖マンゴ病院でリクがお主の名前を呼んだ時に、もしやと思ったんじゃよ。やはりあれは、偶然等ではなかったのかもしれん」
「両親が殺された時の事を、この子が覚えているとおっしゃるのですか…?」
怪訝な表情を浮かべたセブルスの顔色が変わる。そんな残酷な事があって良いのかと。思わずリリーの死に顔がフラッシュバックし、セブルスの胸を酷く締め付ける。もし自分がこの子どもに責められたとしても、それは当然の事だと受容してはいる。しかし、この子どもが両親の死を覚えていて、尚且つその事で苦しんでいるのだとしたら。忌まわしい印が刻まれた腕が、鈍く痛んだ気がした。
「そんな顔をせんでよい。リクも言っておっただろう。この子は、お主がそんな顔をするのを見たくは無いんじゃ」
「しかし…」
「お主がその感情を圧し殺し、罪に苦しむ姿も……リクは望んではおらん」
ならば、自分はどうすれば良いと言うのか。リクに嘘をつく事も、罪に苛む己を隠される事も、リクは望んでいないのだとしたら。この子どもの為に、自分に何が出来る?
そんなセブルスの苦悩を察したダンブルドアが、この場で初めてセブルスに対して表情を崩した。
「この子は、お主を支えたいと思っておるんじゃよ。ワシにはそう感じられた」
「お言葉ですが、私にその様な資格は…」
「そう言って、君はリクから…リリーの娘から逃げるのか?」
「……っ」
「辛い時は、今日みたいに一緒に泣いてやる方がよいのかもしれん。悲しい事も、辛い時も、リクと共に乗り越えるのじゃ。
リクにとっても、この子の家族はお主だけなのじゃからな」
セブルスに反論の余地は無かった。
泣き腫らした目をしながらも、とてもスッキリとした顔付きで眠るリクの顔を見詰めながら、セブルスはリクをそっと抱き締めた。
もしも本当に、この子どもが共に支え合う事を望んでいるのだとしたら。私はその望みに応えよう。こんな私と家族である事を望んでくれるこの子を、この先も私は何があっても護り通す事を誓って。