世界一危険なお茶会(7/7)

花火
 ※過去拍手お礼SSより。



『シンク!花火しよ』

「…は?何それ?何処から仕入れたの?」

『デインの店で仕入れてきた』

「何処まで買いに行ってんのアンタは!?」



実に、ケセドニアまでの軽い無断外出である。しかもサクの場合は質が悪い事に、毎回擬似超振動を駆使して至極短時間(最短で五分程度)で行き来してのける為、彼女の脱走が他者に気付かれる事は少ない。そして過去編に当たるこの時期、ディンの店が本当にあるのかどうか……まぁ、細かい事は気にしないでおこう。

ちなみに、今回の花火に関しては実際は漆黒の翼の面々から貰った物だが、諸事情によりその辺のルートは伏せさせて貰った。大人の事情です。



『これは花火って言ってね、この棒の先端に火を点けて、噴射する火花を眺めて楽しむ代物で、夏の夜の風物詩だよ。花火には打ち上げ花火と手持ち花火の二種類があって、今私が持ってるのが手持ち花火ね。で、打ち上げ花火って言うのが、夜空に打ち上げると夜空に火の花が咲いた様に見える事から、これが花火って呼ばれる由来になったんだよ。何となくOK?』

「いや、いまいちイメージが浮かばないんだけど」

『まぁ百聞は一見に如かずとも言うし、実物を見るのが一番早いよ』



ああ、やっぱりやる気なんだ。かなり饒舌に花火について語っていたサクを見ていて、止めるだけ無駄だと早々に悟ったシンクである。夏の夜の風物詩…という事は、夜にやる物なのだろう。そしてこのサクのテンションの高さから察するに、決行するのは今夜とみた。こうして彼女が突拍子もない事を言い出すのは、別段珍しい事でもない。時々ある事だ。



『アリエッタやアッシュも呼んで皆でやりたいけど、どうやって入手したのかを追求されると痛いなぁ……あ、お布施代わりに貰ったって説明しようか』

「話を広め過ぎて大詠師辺りにバレて、危険な物かもしれないからって没収されるかもね」

『やっぱり却下。二人でやろう』

「………」



そうして、本日の夜遅く、有言実行されました。シンクに止められなかったのは珍しいなぁ…なんて思ったけど、話を聞いてシンクも花火に興味が湧いたのかもしれない。

教団内から屋外へ二人でこっそり抜け出し、目的の場所へと到した所で、今は夜だし、You仮面を外しちゃいなYO☆ってノリで促してみたら、シンクは疲れた表情をしながらも仮面を外していた。シンクは嫌がるかもしれないが、最悪誰かに見られた時は、イオンと私がこっそり花火で遊んでいたと勘違いして頂き、大目に見て貰う算段だ。ま、そんなヘマはする気無いけどね。教団の所有敷地内でも、ちゃんとひと気のない場所を選んだし。それでも誰かに見付かって、大詠師やヴァンにチクられそうになった時は勿論……まぁ、言わなくても何となく分かるよね?



『綺麗だねー』

「うん。確かに綺麗だけど…見てるだけで楽しいの?」

『綺麗な物を愛でるのは楽しいよ?シンクと一緒だしさ』

「……ふーん」



パチパチと、彩り鮮やかな火花が小さく爆ぜる花火という代物は、サクが言った通り、確かに綺麗だった。チラリ、と彼女の横顔をこっそり覗き込めば、彼女の黒い瞳に写る花火がキラキラしてて。楽し気に花火を眺めていたサクが、ふと此方の視線に気付いて、その瞳に今度は僕を写して、また楽しそうに笑った。

ああ…成る程。確かに、こういうのも悪くないかもしれない。楽しそうにハニカム彼女につられてか、僕の口角も自然と緩むのを感じた。

それから暫くサクと花火を眺めて、シンクも花火を持ったりしていたら、あっという間に花火は無くなっていき、気付けば手持ち花火は最後の一本になっていた。



『…あれ?』

「どうかしたの?」

『火が点かない…湿気ってるのかな?最後の一本なのに…』

「ちょっと、覗き込むのは危な…『うわぁ!?」』



プスプスと焦げていた花火の先から、いきなり火花がシャーッと勢いよく飛び出してきたのだ。煙が燻る花火の先端を覗き込もうとしていたサクは驚いて尻餅をつき、彼女の傍にいたシンクも、咄嗟に彼女を抱き止めようとして一緒に尻餅をついてしまった。



『わー、ビックリしたー』

「危ないって言ったハナから…」

『大丈夫だった?シンクの前髪焦げてない?』

「誰のせいだ誰の」



サクが僕の腕の中に座り込んだまま此方の顔を見上げてきたかと思えば、何を思ったのか、僕の前髪を摘んで確認してきた。…先程の様な場合、後ろにいた僕の前髪より、サクは自分の前髪の心配をするべきだと思う。試しに彼女の前髪を指先で梳いてみると……ああほら、やっぱり微妙に焦げてるし。もともとの癖毛で、髪色も黒である為か、あまり目立ってはいないけど。もしも顔に火傷を負っていたらと思うと、ちょっとだけ心臓がヒヤリと冷えた。

そんな僕の不安を知ってか知らずか、サクは僕と目が合うなり『焦げてないみたいで良かった』なんて呑気な事を言って、安心した様に笑った。…いや、焦げてるからね。サクの前髪の方が。

ここでふと、袋から転がり出てきた何かがシンクの手に当たった。拾ってみると、丸い筒状の物で、先程迄の手持ち花火とは形状が異なっていた。ソレを見るなり、サクが再び瞳を輝かせた。



『打ち上げ花火だ!』

「打ち上げって……え?コレもやるの?」

『見たい!やる!やっぱり締めは一発大きいのをドーンとやらなきゃ』



シンクが止める間もなく、サクは無駄に俊敏な動きで少し離れた場所まで走って行ってしまった。その辺に転がっていた石で土台を固め、テキパキと設置していくサクの後ろ姿を見守りながら、シンクは本日も何度目かになるため息をついた。先程危険な目に合ったばかりだというのに、全くもって懲りていない。学習能力が無いのだろうか…なんて考えていると、準備を終えた彼女が満面の笑みで僕の傍まで戻って来た。



『導火線に火も点けて来たよー』

「早いなオイ」



シンクのツッコミとほぼ同時に、サクが設置した花火の筒からボシュッ!と音がした。振り返って夜空を見上げると、火花を散らして夜空へと昇っていく火の玉があって。昇って…昇って…どんどん昇って、そして。



ドォオオオオン…!

『「ーーーっつ!!?」』



空気がビリビリと震える程の大爆音とほぼ同時に、夜空に巨大な大輪の花が咲いた。サクとシンクが二人揃って、思わずポカーンと惚けてしまう程、大迫力だった。

ああ、そう言えば。ウルシーさんが言ってたっけなぁ。最後のオマケ用に、ノワールさんに内緒で、とっておきの一発を仕込んでおいたって。是非感想を聞かせて欲しいとも。



感想。ウルシーさん……すごく…大きいです……花火も、そして音も。



「敵襲だー!?」「譜術攻撃を受けたぞ!」「侵入者か!?」「全員起きろーっ!!」と教団内の方が騒がしくなり始め、私とシンクは慌ててその場から退散する事となった。ちなみに、花火の燃えカスやバケツは、きっちり超振動で証拠隠滅してきたので抜かりは無い。



『あー、このスリルが一番楽しかったかも』

「完全に趣旨が変わってるよね」

『私が楽しければ全て良し!これぞ愉悦!』

「最低だよこの第二導師様」



来年もやろう。むしろ年内にもう一回!なんて、懲りずに今から企んでいるサクに、シンクは盛大なため息を溢した。仕方が無いなと、無意識に小さく笑みを浮かべながら。



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