バチカル闘技場(1/8)

スパを堪能した後、ベルケンドを発った導師サク御一行は各地のセフィロト巡りを開始した。各セフィロトにて宝珠の捜索を進めていく中、その途中で街に立ち寄り情報収集をしたり買い物や観光に根回しにサブイベント回収やら何やりと、色々している。もうね、忙しいし皆と旅をしてるのが楽しくて、毎日本当大変だよ。

そして、そんなこんなで今日も今日とて宝珠探しの旅を続けている一行は、本日バチカルの下町へとやって来ていた。装備品を買い足したりしていると、ふとアッシュが上空を見上げている事に気付いた。アッシュ?とサクが声を掛けると、何でもないという返答が我に返ったアッシュから返された。彼が遠い目で哀愁を滲ませて見詰めていた先にあるのは………方向的にも、ファブレ邸だろう。



『せっかくだから、ファブレ邸に寄って行かない?あそこの出す紅茶とお茶菓子、かなり美味しいし』

「行く訳ねえだろこのアホ」



運が良ければ、ルークやナタリアに会えるかもしれない。まあ、今の私は某諸事情で守護役ユリアの恰好でしか接触出来ないし、何より、事前にアポを取って無いから、話を取次いで貰う事すらかなり難しそうだけど。

そして何より、俺に対して変な気を遣いまわすのは止めろ、とアッシュの背中が語っている。変な意地を張らなくていいのに…と思いつつ、今時期のルークの心境とかも考えると色々複雑だし、最終的に宝珠探しどころじゃなくなりそうなので、結局アッシュの帰還イベントは持ち越す事にした。

ルークに会いに行く、が実は正解ルートで、そこで上手くいくと宝珠を発見出来るという、最速最短裏攻略ルートだったりするのだが……そんな事はサク以外が知る由もなく。



「念の為、ルークから詳しく話を聞くのも手だとは、僕も思うけどね」

「?どうして…ですか?」

「実際に、あの時アッシュはルーク達の様子を見ただけで、受け取り損ねた時の詳しい状況なんかは知らない訳だし」



疑問符を浮かべるアリエッタに、クロノが思案気な表情でそう話す。……クロノさん、結構鋭い。私に対しての鎌掛けでもありそうだから、尚さら恐い。まあ、私がその可能性をアッシュに強く押していかない時点で、既に色々勘ぐられてそうだけど。



「あー!ユリアだー!!」

『!フローリアン!』



と、タイミングが良いのか何なのか。声がした方に振り返ると、見覚えのある元気な緑っ仔が此方に駆け寄ってきた。いつもの様に全力でタックルをくらわして来る可愛いフローリアンを、受け流しを駆使して抱き留めてあげた。勢い余ってその場でくるくると回ってしまったのはご愛嬌。

フローリアンを含む漆黒の翼の面々にも、主に情報収集の方面で協力して貰っているのだが……まさか、バチカルでまたしても会うとは思わなかった。この間、ベルケンドで別れたばかりだったしね。いくら世界各国津々浦々セフィロト巡りをしているとはいえ、こんなにもピンポイントで知人に会えるとは。



「びっくりしたー。まさかこんなに早くまた皆と会えるなんて思ってなかったよ!」

『私もだよ。あと、フローリアン。この街ではその名前もあんまり大声で…』

「ユリア?ユリアってまさかあの…」

「おい見ろよ!アイツ、導師守護役の衣装を着てないか?」

「まさか、本物…!?こりゃあ、今日の闘技場は見ものだぜ!!」

「「「『………』」」」



…時既に遅し。外野が騒がしくなり、人々の注目が集まり始めてしまった。ここには赤毛に翡翠の瞳という王族の象徴を晒してるアッシュもいるというのに、ただの導師守護役の方が注目を浴びて目立っているとは何事だ。…あ、今はフードを被って特徴を隠しているんだったか。



「アンタって、本当にここでは有名人だよね。良くも悪くも」

『あう……』



闘技場の覇者ユリアは、ある意味アビスマンより人気のあるヒーローなのかもしれない。シンクにため息をつかれるも、残念ながら返す言葉も見つからず…。取り敢えず、これ以上の騒ぎになる前にフローリアンの首根っこを引っ掴んで、一同は路地裏へと身を潜めた。



「フローリアン、街中で大声を出しちゃ駄目…です」

「ごめんなさい…」



アリエッタに「めっ、です!」と窘められ、フローリアンはしゅんと項垂れている。何この可愛い小動物たち。めっちゃ癒されるんですけど。



「…それで?そっちは何か収穫があったのか?」

「あれ?サク達も宝珠の噂を聞きつけてバチカルに来たんじゃないの?」

「…何だと?」



宝珠と聞いて、アッシュがフローリアンの話に食いついてきた。

フローリアン曰く、バチカルの闘技場の景品にそれらしい代物が今回出るという情報を仕入れて来たのだとか。その珍しい【宝珠】を優勝賞品にして、現在大きめのイベントを闘技場で開催している最中らしい。



「だから街の連中が妙に浮き足立っていたのか…」

「守護役ユリアの存在に対する反応が敏感になってたのも、この影響だね」



アッシュとシンクも納得している。もしかして、もしかしなくてもこの流れは…!!



「珍しい宝珠って、ローレライの宝珠…なのかな?」

「タイミング的にも、アリエッタの推測が有り得ない話じゃないんだよね…面倒な事に」

『こうなったら、もう闘技場で優勝して真偽を確かめるしかなさそうだね!』

「……サクは随分と楽しそうだね」

『そう?』



満面の笑みをシンクに向けると、あからさまに顔を逸らされた。…シンクの反応が冷たい気がする。反抗期再びか…?楽しい気分から一転して、内心急激に気落ちしていると、後ろからアッシュに鼻で笑われた。察するに、闘技場と聞いて浮足立つ私の様子を見て、小馬鹿にしている模様。含みのあるアッシュのニヤついた顔を見れば、一目瞭然だ。



「ハッ、お前一人で行って来いよ。雑魚戦なんざ楽勝だろ?チャンピオンさんよお」

『おやおや?どうやらアッシュは闘技場で勝てる自信が無いようで』

「…何だと?」



ピクリと、アッシュの額に怒筋が浮かんだのを、サクは見逃さなかった。



『確かに?アッシュの実力じゃあ百戦錬磨の守護役ユリアに勝てないんだから、闘技場に参加しても危ない気もするしねー。残りの買い出しを済ませて、大人しく待ってて貰った方が身の為かもね、六神将が一人、鮮血のアッシュさん?』

「ハッ、上等だ。チャンピオン諸共全員ぶちのめしてやろうじゃねえか」

「うわあ、サクがアッシュを煽る煽る…(これって、多分八つ当たり…だよね?)」

「アッシュの方も、こんな安い挑発に乗せられてるし……まあ、見事にアッシュの地雷を踏み抜かれてはいるけど」

「しかも、優勝賞品の宝珠の件とか、もう完全に頭に無いよねこの二人(うん。紛う事無き、見事な八つ当たりだね)」



上から順にフローリアン、シンク、クロノの緑っ仔達が呟く。フローリアンとクロノに関しては、互いにアイコンタクトで会話をしていたが、幸か不幸かシンクが彼等のやり取りに気付く事は無かった。

こうして、俺は行かないと渋るアッシュを、宝珠の為だからと説き伏せる(!?)事に成功したのであった。チョロいぜ甘いぜチョロ甘だぜ!



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