栄光の大地(4/12)


『復活してしまった瘴気の問題、教団を離反したヴァン一派によって再始動を始めたレプリカ計画…、今後の預言の在り方の方針も決めていかなきゃいけないのに、瘴気は出るし栄光の大地も出るし……頭が痛いよ…』



次は髭か?髭が降臨するのか?まぁするんだけどな後々。



「どの問題も僕達だけで勝手に決められる物ではありませんし。やはりここは、三国共同会議に持ち込みたいですね。教団の方でも準備を進めるので、両国でも話を進めて頂けますか?」

「勿論ですわ。お父様には私から説明してきます」

「栄光の大地攻略の為の両国共同戦線…が出来たらベストですね。陛下には、私の方から進言しましょう」



イオンの提案に、各国を代表してナタリアとジェイドが承った。本当に、とんでもないパーテイーメンバーだよね、この面子。彼等が頷いただけで、既に各国の総意が纏まった様なものだし。ダアトの方も、言わずもがな。



「瘴気の問題と預言会議に託け、栄光の大地に対する対処も考じる算段か」

「両国足並み揃えて対応出来れば、それが一番堅実的だからね」



アッシュとクロノも、異議はない模様で、納得しているようだ。こうして、三国共同会議(ダアトは国じゃなくて宗教自治区だけど)を執り行う方向で、話はまとまった。預言会議ならぬ、和平会議…って所だろうか。って、和平会議は実質二回目になるのか。まさに、その時歴史が動いたって感じだね。せっかく和平を結んだのだから、今後こそきちんと和平を取り持って欲しいよね。件の親善大使やホド戦争の時みたいな悲劇の二の舞はごめんだ。

明日からの予定も立ち、ひとまず重要事項の話し合いは終わりとなった。幾分か空気が柔らかくなった所で、話は本日の話題へと移った。



「それにしても、まさかサクの正体がユリアだったとはな…」

『うん。正確にはその反対だからね、ルーク』



ややこしいのは承知の上だけど、取り敢えず笑顔で訂正してみる。ユリアがサクで、サクがユリア…と、ルークは難しい顔でブツブツと繰り返し呟いている。そんなに納得いかないものだろうか…。



「でも、これで今までの疑問が全て繋がったわ…」

『えへ。ずっと内緒にしててごめんね』



ティアを含むホド組…まぁティアとガイの二人だけなんだけど……に関しては、疑問も解消された事だろう。むしろ、この上ないヒントだった気もするんだけどね。一応、現第二導師様はユリアの再来って預言に詠まれた存在として、教団内では認知されてるし……あぁ、でもこれは秘預言だから認知度は上層部のみか。加えて、バイザーのサブリミナル効果も合間ってか、全く気付かれてなかったみたいだし。

…で、そうして守護役ユリアと導師サクの関連性と言うか同一人物である可能性に全く気付かれなかった結果がアレだよ!散々怪しまれて疑われてなかなか信用もされず……うぅ、思い出したら何か悲しくなってきたかも。まあ、仕方が無いと言ってしまえば、それまでなんだけどさ。

ユリア・ジュエと名乗るなら兎も角、名をユリアと名乗り、ファミリーネームをフェンデと名乗る相手。しかも、ティアが真のフェンデ家の遺児だと知っており、ガイの本名をも知っての上で、だ。怪しまれて当然だし、完全に彼等の先祖を冒涜してるよね。

ユリアの再来って預言に詠まれてた事に由来して、クロノが面白がって付けただけの名前に、更に悪ノリした私がファミリーネームをフェンデにした事が、そもそもの原因な訳ですが……うん。やっぱり冒涜してんじゃねーか。

と、サクの思考が脱線し掛けていた所で、ルークの肩に一匹の見覚えのある聖獣がピョンと飛び乗って来た。…ああ、すっかり忘れてたけど、そう言えばこんなマスコットキャラが居たよね。



「ミュウも、本当は最初から気付いていたですの!ユリアさんとサクさんは、匂いがおんなじでしたの!」

「何でもっと早くにそれを言わねえんだよお前は!?」

「みゅうううう、だって御主人様、ミュウはユリアさんから内緒にして欲しいってお願いされたんですの…」

『ミュウに指摘された時は私も結構焦ったよ…でも、約束を守ってくれたミュウは偉いよ。ありがとうね〜』

「みゅう〜!サクさんに褒められたですの〜」

「うう、何か納得いかねえ…」



みょぃーん、と袋状の耳をルークに引き伸ばされているミュウは可愛い…可哀想だけど、感謝もしてます。ミュウの協力がなかったら、かなり早い段階でルーク達に正体がバラされてたもんね……うん。若干忘れかけててすみませんでした。



「つーか、やっぱサクって強ぇな。俺達五人掛かりでも全然歯が立たなかったぜ」

『最後に怒濤の秘奥義攻めで叩き潰しといてよく言うよ』



乾いた笑みを浮かべるルークに、サクはジト目で返す。次いで、視線をルークから司令塔と思われるジェイドに向けると、彼の方からは実に涼し気な笑顔が返ってきた。こ、コイツ……!



『ルーク達は兎も角。……ジェイドさんも鬼畜です。ユリアの正体が私だって半ば確信した上で、本気で畳掛けてくるなんて…!』

「そう仰られましても、残念ながら、此方には、貴女の様に手加減出来る程の余裕はありませんでしたからねえ」

「て言うか、ルーク達をフルボッコにしたサクが言っていい文句じゃないよね?ソレ」



呆れるシンクの正論は聞こえないフリをして、私はツン、とそっぽ向く。ちゃんと手加減したもん!俺は悪くねぇ!



「…ん?ち、ちょっと待ってくれジェイド。サクみたいに手加減は……って、どういう意味だよ?」

「そのままの意味ですよ、ルーク。サク様には、最初から此方を殺す気は無かった。我々を殺さないよう、かなり手加減されていた様ですし。特にルークを相手にする時は慎重になられていましたよね?」

『……やはり、そこまで見抜かれてましたか』



私に彼等を本気で殺す気は無い事。ルークには超振動を使わない様にしてた事。だから、ジェイドは…彼等は、ずっとチャンスを伺ってたんだ。ルークの切り札でもある超振動を妙に出し惜しみしてくるなあと思ってたら……私を良い所まで追い詰めた状態で、超振動封じを狙ってくるし。私が怯んだあのタイミングで一気に仕掛けてくるし。ルークの出し方がセコいよあれは。まあ、結構わかりやすい戦闘パターンを取ってたし、その戦略を突いてくるだろうなーとは思ってたけど……油断、しちゃってたんだろうなあ私も。…やっぱり、死霊使いの方が一枚も二枚も上手だ。

そして、そこまで見抜いた上で、手加減してくれている相手に容赦無く攻めてくるカーティス大佐殿はマジ鬼畜眼鏡。



「あ、あれで本気を出してなかったのか!?」

「もしも彼女が本気でしたら、最初に大型譜術を仕掛けられた時点で、我々は殲滅されていた筈です」



でなければ、戦場の天使の異名なんて付きませんよ。ジェイドの言葉に、ルークも確かに…と、納得してしまう。ザオ遺跡でラルゴを一撃で昏倒させる様な相手の攻撃を、自分達が何度もくらっても立ち上がれたのは、やはり手加減をされていたからなのだろう。現に、サクの方も苦笑こそ浮かべているが、否定をしないでいる。



「フォミクリーを医療転用されたり、ローレライの力を借りて見せたり…。超振動を戦闘に持ち込めるなど…アッシュでも出来ない事をされますね、貴女は」

『まあ、曲がりなりにも導師ですから』



結構万能な魔法の言葉だよね、コレ。ジェイドは腑に落ちないとでも言いたげな表情で、眼鏡のブリッジを上げてるけど。本来なら、超振動は威力が強すぎて対人戦闘には不向きである。アッシュが戦闘時に超振動をあまり用いない一つの理由だ。軍事転用なんてしたら、惑星終末預言を待たずして、この星の人類は終わるだろう。最後に預言を覆せて良かったね!くたばれ預言廚な人類!…ルークの場合は能力の劣化もあり、威力が抑えられている為使えなくもないが、やはりコントロールが難しいのもあるだろう。そして、彼等が超振動を使いたがらないもうひとつの理由が…超振動の行使には術者自身にもかなりの危険を伴う、諸刃の剣だから。

それらの条件リスク諸々をクリアし、縦横無尽に乱用しているのが、私な訳だが。

そして、そんな超振動を対人戦闘向けにと考案されたのが、第二超振動ですよ。超振動同士が干渉し合う事で全ての音素の効力を無効化させる、従来の超振動の改良版だ。勿論、現時点で第二超振動の理論は確率していませんので悪しからず。



「流石、金色の天使の異名が付くだけの事はあるな」

『……。他人の黒歴史を掘り返そうとしないでください』



ジェイドだけじゃなくて、何だかガイまで今日は意地悪だ。ガイ、実は怒なの?ずっと皆を騙してた上に、決闘なんか嗾けたから怒ってるの?そりゃあ怒るか。



「てか、そもそも何でそんなジェイドみたいな異名がサクにもあるんだよ。慰問にでも出掛けてたのか?」

『あぁ…それは……』

「戦争を止めに行ったから、でしょ?サク自身の手で」

『……当たらずとも遠からず…』



シンクの助け舟にも、サクは思わず言葉を濁した。戦争を止めに行った訳でも、加戦しに行ったのでもない。ましてや、戦場にいる何百、何千人いた人々の命を救いたかったとか、そんな御立派な、大層な英断じゃない。たった一人の一般兵を、友人を見殺しにしたくなかっただけで。身内を助けたいが為だけに、その他大勢の他人を傷付け、彼等の大義や正義を踏みにじり……何人かの未来をも奪った。

金色の天使の異名は、勇敢な兵士を天国(ヴァルハラ)へ導く女騎士天使……戦場のヴァルキュリアを意図しただけのモノじゃない。死者を天国へと連れて行く天使……見方を変えれば、ただの死神でしかない。死霊使いにも引けを取らない忌まれを含んだ、同列の呼び名だ。当時の生き残りである一部の第六師団員達は前者の意を込めて称賛する一方で、ジェイド達や他国の敵兵達からの印象は、後者が強いだろう。

私がこの手の話を苦手とする理由の一つがコレだ。確かに黒歴史の一つでもあり……同時に、私の実力が力加減を出来ない位未熟だったが為に、他の兵達の命を奪ってしまったから。助けられなかった……否、助けなかった命があるから。



「……サク」

『…!』



シンクの声に、ハッとして我に返る。ルーク達が不思議そうな顔をしている中……彼等から見えない位置で、無意識に強く拳を握っていたサクの手に、シンクの手が重なってて。驚いて拳を解いたら、そのまま彼の手に包み込まれた。優しく握られた手のあたたかさに、不思議と肩の力が抜けるのを感じながら、何故か泣きそうになるのをぐっと堪えて、サクは苦笑を浮かべた。



『…結果から言ってしまえば、私一人の手で戦争が止まる事はなく、私自身の無力さを痛感させられた…って所かな』



両国軍には甚大な被害を及ぼし、停戦となるきっかけの一つ位にはなったのかもしれないけど。マルセルを助けるっていう目的こそ果たせたものの……誰かの命を犠牲にする事に対する、覚悟の甘さを痛感した。

だから私は、より強さを求めた。最初は自分の身を守る為、自分にとって大切な人達を守れる様に。身内を守る上で無暗な殺生を極力しないで済む為の…手加減すら出来る実力を持てるようにと、高みを目指した。ケセドニア北部戦の時と同じ過ちを、繰り返したくなかったから。誰の命も奪わずに済む強さが、欲しかったんだ。



「…そっか。サクにも色々あるんだな…」

『そう。こう見えて色々あるんだよ』



いつもの調子で茶化してみた所、何となくこれ以上この話題には触れない方が良さそうだと判断した様子のルークが、気遣わし気に苦笑を浮かべている。賢明な判断だね。

…とはいえ、闘技場通いの半分は私の趣味だったけどね。ある程度手加減の仕方を覚えてからは、雑魚戦がタルくなったというか…私と真面に渡り合える強者がいなくなったからとか……そんな理由から、闘技場こっそり足を延ばす回数も減っちゃったんだよね…。

ちなみに、謎の導師守護役こと金色の天使は、戦場で負傷を負った神託の盾兵達と共に、戦場から忽然と姿を消した…と言われている。教団では彼等の件は全員戦死と処理され、守護役に関しては正体不明であり、教団も関係を否定しており、教団はキムラスカを裏切る様な事はしていないと必死に弁明もとい弁解したとか何とか。主にモースが。

…ね?色々あるでしょ?色々。



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