覚悟の決闘(9/19)


「(アニス…)」



自分達からは少し離れた場所で死闘を繰り広げるアニスとアリエッタの姿が、ルークの視界に止まった。アリエッタも、幼さを色濃く残した外見に反し、地位は一師団を束ねる師団長だ。魔物を使役する能力もさながら、彼女の譜術センスも侮れないものがある。伊達に六神将を名乗る事を許されてはいない。アリエッタとは仲間として共に戦った事もあり、彼女の実力が確かである事は、ルーク達も分かってはいる。その上で、本気のアリエッタに、自分達は…アニスは勝てるのか。見た所、アニスとアリエッタの実力は互角の様な印象を受ける。



『戦闘中の不用意な余所見は自殺行為ですよ?』

「……っつ!!」



殺気を感じてルークが反射的に身を反らせた瞬間、チリッ、と頬に熱が走る。ユリアの譜術が頬を掠めた様だ。背後で建物に直撃し、爆音と瓦礫が崩れ落ちる音がした。もしも真面にくらっていたらと思うと、ゾッとする。ユリアの操る譜術の威力は一撃一撃が重く、あのラルゴの巨体を一撃で昏到させてしまう程だ。短く息を吐き、ルークは気合を入れなおす。彼女はまるで呼吸をする様に譜術を放ち、至極自然な動作で相手の剣戟を受け流す。此方が僅かに警戒を解こうものなら、先程の様にユリアは容赦なくその隙を狙い突いてくる。ガイとスイッチで入れ替わっても、気は抜けない。どこから譜術が仕掛けられるか予測も不可能だからだ。

ユリアは非常に優れた第七音素譜術士であり、さらに全音素を扱う素養まである上に、音素収集センスが抜群である。音素の貯め時間が短いのや、あっさり詠唱破棄や無詠唱で譜術を繰り出す事が出来るのも、その為だろう。オマケに譜術の二重詠唱までしてくる為、尚更質が悪い。一度譜術に嵌められたら、確実に追い込まれる事必須だ。

以前ユリアは自分も超振動を使えると言っていたが、実際に彼女がこうして超振動を使う姿を見るのは、これが初めてだ。まるで他の譜術と同じ様に、簡単に繰り出してくる。あの制御が難しい超振動を、ここまで自在にコントロール出来るものなのかと、驚きを隠せない。…それとも、俺がレプリカだから…アッシュやユリアの様に、超振動を上手く扱えないのだろうか。ティアにも言われた事だけど、焦っても仕方がない事は分かってはいても…。

ふと、ずっと気になっていた疑問が過ぎり。己の剣とユリアのBCロッドと鍔迫り合いになる中、気付いた時には彼女に尋ねていた。



「…っ、ユリア!お前は、イオンの事をどれだけ知ってるんだ?」



今のイオンが、レプリカである事を。被験者のイオンは、既に亡くなっている事を。ユリアは、全て知っているのか。彼女が忠誠を誓っているイオンとは、どちらのイオンに対してなのか。



『…質問の意図を測りかねますが、そうですね…。私は直接の関係者ではありませんが、貴方々より事情は詳しいのではないかと、自負しておきましょうか』



返答は、どちらの解釈にも取れる曖昧なものだった。けれど、イオンを取り巻く周りの者達の素性や情報はほぼ把握している彼女だ。そんな彼女が、主であるイオンの事情を知らないとは思えない。



「…じゃあ、イオンの事を知ってて、アリエッタの決闘にも承諾したってのか!」

『勘違いなさらないで下さい。アリエッタも私も、アニスへの嫉妬から決闘を申し込んだ訳ではありませんよ』



ルークが感情的になると同時に、BCロッドと剣の間で小さな譜術の爆発が起き、ユリアから強制的に距離を取らされた。エナジーブラストを放った彼女は、同時に後衛から放たれた譜術を表情一つ変えずに超振動で無効化している。



『アニスは、導師守護役でありながら、あろう事か導師を危険に晒し、殺そうとしました。これは本来なら、導師の御慈悲であっても、許される事ではありません』



その為の制裁でもあるのだと、ユリアは主張する。アリエッタとの死闘で傷付き、既にボロボロになっているアニスの姿が視界の端に何度も映り、ルークは胸が苦しくなる。確かに、間違ってはいないのかもしれない。けど、例えそうであったとしても…!





どう考えても報復だよなあ…というのが、正直な感想です個人的に。これじゃあ髭の事をとやかく言えない気もする程度には。ルークの辛そうな表情をバイザー越しに見詰めた後、サクはすぐさま意識を戦闘に戻した。ジェイドのロックブレイクで足場を崩しに掛かってきたのをバックステップで後退すれば、別の譜陣が展開されてる場所にまで誘導された。発動に伴い譜陣が煌めく中、サクの翼も金色に光を放った。譜術トラップは、第七音素の光に相殺され、打ち消された。ふーんだ。もう同じ手はくわないもんねー。



「この人数を相手に余裕があるとは。流石ですね」

『傲る気はありませんよ、カーティス大佐。私とて、所詮一人では何も出来ない、無力な人間に変わりありませんから』



譜術トラップを無効化した直後のサンダーブレードの追撃を体を逸らして難無く避ける。ガイの剣をBCロッドで受け流し、譜術でカウンターを返そうとした所で、サクは異変に気付いた。



「重力の中で悶え苦しみなさい」



違和感を感じた足許に視線を落とせば、地のFOFが発生していて、雷剣はその中心に突き刺さっている。うわあ、何の意趣返しですか。思わず笑みが引きつる。先のロックブレイクは誘導よりも、実はこっちが本命でしたか。サンダーブレードも避けずに超振動で消しておくべきだった。反応が僅かに遅れた事でガイの虚空連衝刃を往なせず、後方へと弾かれる。強制的に後退させられた場所は、今まさに発動直前の譜陣の中心近くだった。FOFの中で譜術は変化を起こし、光剣を中心に光の奔流が渦を巻き、膨れ上がった。その中心は光を吸い込んでいるかの様に真っ暗になる。それは、直上に向かって高重力を発生させる。



「グラビティ!」

『……くっ!!』



ブラックホールの様な黒い球体によって、床に縫い付けられる。が、発動させた超振動の強い光によって黒い球体は一瞬で弾け飛んだ。譜術攻撃は無効化されて通らない。だから、グラビティの真の狙いは一瞬の足止め…と考えるのが妥当。その一瞬で、私の注意を惹きつけるのが目的だとしたら、相手の本命は…?



「譜の欠片よ、私の意志に従い、力となりなさい!」

『…っ、無粋な真似をやってくれますね』



息を着く間も無く今度は左手で超振動を発動し、放たれた譜の欠片の光線を防ぐ傍ら、培われた戦闘経験からくる直観で後衛組の意図を察し、思わずBCロッドを強く握り締めた。ああ、これは不味い。この流れで秘奥義を仕掛けて来るのは……悪い予感しかしない。

このタイミングで私に秘奥義を仕掛けても、第二超振動に無効化され、無駄撃ちになるのは明らかだ。故に、この秘奥義の真の狙いは私じゃない。最初の光線の波状攻撃を此方に仕掛け、あたかも私に秘奥義を当てようとしている…と思わせると同時に、私の動きを制限させるのが目的だとしたら。



「これで決めますわ!ノーブル・ロアー!!」



ナタリア達の狙いは、アリエッタだ。



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