罪に降る雪(10/16)

無垢と清楚
 ※罪に降る雪の章中、緑っ仔side.

フローリアンはダアトでアリエッタ達に助けられてから今まで、ナム孤島で暮らしてきた。最近はノワール達と一緒にサーカス団暗闇の夢の一員として共に世界を周っており、今は巡業の合間に、サクやアッシュに協力して行動を共にしている所だ。



「それでフローリアンは、サクやシンクの事を知っていたんですね」

「うん。前から話には聞いてたけど、実際にシンクと会ったのも数日前が初めてなんだ」



ナム孤島の事は少しだけボカして、そしてクロノの事は伏せて、フローリアンはイオンに自分の事を話した。クロノやノワール達への恩を仇で返す様な事はしたくないし、フローリアン自身も大切な居場所を失いたくないから。フローリアンにとって、ナム孤島は大切な居場所であり、故郷の一つだ。ノワール達の事も、家族のように慕っている。ナム孤島にいる人達全員が、フローリアンにとって家族同然なのだ。



「フローリアンには大切な方達が沢山いるんですね」

「ん?イオンの事も僕にとっては特別な存在だよ?」

「!僕が…ですか?」

「当たり前だよー!イオンと僕らは兄弟みたいなものだもん。少なくとも僕はそう思ってるし」



ちなみに僕の方が兄だからね、とフローリアンは笑う。面と向かって、相手から大切でと言われたのは何気に初めてなイオンは、戸惑いながらも、自然と頬が緩むのを感じた。



「それに、イオンにもいるでしょ?大切な人達」



フローリアンの言葉を聞いて、まず最初に思い浮かんだ自分の守護役が一人。続いで、同じ導師であり、己に生きていく為の術を教えてくれた人物が一人。それから、旅の道中で仲間と呼べる存在になった彼等の事が浮かんだ。気付けばこんなにも自分の世界は広がっていたのかと、イオンは感慨深く思う。



「はい。います、ね」

「ほらね!あと、今日からその中に僕の事も入れてね。僕はイオンの兄で、僕らは家族なんだから!」

「……!」



サクの受け売りな所はあるけど、とフローリアンが苦笑する一方で、イオンは彼の言葉に衝撃を受けていた。導師イオンの…つまり、被験者に家族がいたのか自分は知らない。それ以前に、レプリカである己には最初から家族など存在しない為、今まで考えた事もなかった。

自分には家族がいる。その事を頭で理解し始めると、不思議と胸があったかくなって。突然目頭が熱くなり、イオンは自分が泣きそうになっているのだと気付いた。涙は嬉しい時にも出るのだと、以前サクが言っていたのを思い出す。



「(そうか、僕は…嬉しいんだ)」



仲間とも、友人とも違う、家族という関係。厳密に言えば、一般的な家族という関係の定義には当てはまらないのかもしれない。けれど、彼…フローリアンは、自分達は家族だと言った。血の繋がりより強く、複雑な関係ではあるが、僕らは確かに家族なのだと。

感極まり思わず泣きそうになっているイオンを見守るフローリアンは、優しく微笑みながら彼の頭を撫でた。

フローリアンのイオンに対する第一印象は、クロノの時とは対極に"優しそう"、だった。穏やかに微笑む表情はクロノとよく似ているけれど、イオンの微笑みにはクロノと違って裏表が無い事に気付いての事だ。

ノワール達と共に世界中を回っている間、漆黒の翼として動く彼等の姿も、フローリアンは見てきた。サーカス一座の時とは違い、裏稼業で関わる人達は恐い人達や危ない人達が大半で。一見人当たりが良さそうな顔をして近付いてきても、笑顔の裏では悪い事を考えていたり、本当は柄が悪い人だったりする事はザラだった。ノワール達ですら、サーカスの団員として見せる顔と、商談相手に見せる顔は全く違って、フローリアンも初めて見た時にはそのギャップに驚いていた。そんな人達を遠巻きにではあるが、何度も見て来たせいか、今ではフローリアンは他人の悪意や善意に聡く、相手の嘘や本質を見抜く事に長けていた。ナム孤島に住む人達が自分と同じ様に、複雑な事情を抱えた人が多かった事も、或いは一つの要因かもしれない。



「(クロノも優しいけど、イオンみたいにここまで素直じゃないからなぁ)」



初めてクロノと出会った時は、クロノの事が少し恐かったのを覚えてる。でも、クロノ自身も僕の事を恐がってるんだって気付いたら、クロノが恐くなくなった。僕等は互いに同じ気持ちだったんだって、分かったから。

被験者とレプリカという特殊な関係上、相手とどう接したら良いのか分からなくて、お互い不安や迷いがあったせいだと思う。だけど、お互いの事を知るうちに、僕等は少しずつ打ち解けていく事が出来たし。互いの存在を受容する事が出来てからは、親しくなっていくにつれ、クロノは優しくなって、僕もクロノを尊敬する様になっていた。クロノが本当は優しくて寂しがりやな事を知っているが故に、フローリアンは懐いていたりする。シンクも素直じゃないだけで、根は悪い人じゃない事も察している。現に、ウザがられても邪険にはされていないのがその証拠かもしれない。



「ねぇねぇ、今度はイオンの事をもっと聞かせて!あ、今回の旅の話でも良いよ!」

「はい!」



―――――――――
罪雪でカットされたイオンとフローリアンの会話で、一応フローリアン視点がメインの話。

無邪気で子どもっぽい印象が強いフローリアンですが、その実考えてる事は結構大人だったりします。導師様連載での彼は原作のフローリアン+二年後位の精神年齢かと。言動や行動にこそ幼さがあるものの、空気はきちんと読みます。ちなみに幼さは計算ではないです。本能の赴くままに子どもです。他社との交流や社会での経験から、素直さは其の侭に、精神的に結構成長してます。下手すると緑っ仔達の中で一番大人なのは彼かもしれません。




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