罪に降る雪(1/16)

アブソーブゲートにて、ルーク達との戦闘に敗れたヴァンが地核へと身を投げた後。ルークはパッセージリングの操作に移った。各々胸中は複雑であったが、今は思い悩んでいる時間も無い。ティアが起動させた操作盤…空中に浮かぶ譜陣にむけて両手を上げ、超振動を発した。第七音素が照射されると、セフィロトを示す円を囲む赤い光が消え、円同士が繋がる。するとセフィロトが青く輝き、惑星の下から外殻大地を囲む様に青い光が伸びていく。アブソーブゲートを中心に全てのセフィロトに光が広がってゆくのが制御盤を通して見てとれた。が、あと少しという所で、光の伸びが止まりそうになる。



「くっ……。くそ、力が足りない」



ルークは苦し気に目を閉じ、じっと耐えていた。自分の力が限界まで達してしまったのを、知らざるを得ない。ヴァン師匠との戦闘直後に制御盤を操作するなど、自分ではやはり無謀だっただろうか。このままでは大陸を安全に降下させる事が出来なくなってしまう…。ルークに限界が訪れそうになった時だった。



「…っ!?」



その瞬間、ルークは目蓋の裏にアッシュを見た。自分と同じ姿勢で、彼もまた超振動を使っている。それはほんの一瞬だったが、アッシュと回線を繋いでいた時と似た感覚…否、同じ感覚だと、ルークは気付いた。



「これは…アッシュ!」



間違いない。アッシュが、第七音素を照射してくれている。アッシュの超振動を認識した直後、それとは別にもう一つ、アッシュ以外の力を感じた。ローレライとも違う。この力は…



「まさ、か…サク…?」

「…え!?だって、サク様は地殻に…っ!」



思わずルークが呟くと、その声を拾ったアニスが驚きの声を上げた後、何かに気付いてハッと息を飲む。そう、サクは地殻に落ちた。その地殻を通じて、第三者の力が送られてくるのを感じるのだ。その力が何なのか、誰からのモノなのか、答えは一つしか思い当たらない。



「アッシュは兎も角、こんな事ってあるのかよ…」

「…まぁ、"サク様"ですから…と考えれば、奇跡染みた現象も起き得るのかも知れませんね」



驚きながらも、少し悲し気に笑みを溢すガイの言葉に、ジェイドが珍しくも非論理的な意見を返した。その瞳は眼鏡に隠され、表情を読み取る事が出来ない。

他の皆は戸惑ってるけど、俺は納得していた。理屈じゃ上手く言えないけど、俺とアッシュは繋がっていて、お互いを感じ取れる様に、これはサクの力だって…サクが背中を押してくれてるんだって、俺には納得出来たんだ。



「(そうか…サクが、力を貸してくれてるんだ…)」



ルークは最後の力を振り絞り、第七音素を照射した。アッシュとサクの超振動が放つ光が、ルークの放つ光と重なる。



「(アッシュ…サク…。有難う…!)」

「…オイ、礼を言われてるぞ」

『あははははー』



制御盤の光が繋がり、ゆっくりと大陸が下降を始める中。噂の当事者達の方では、アッシュから微妙な視線を向けられたサクが、取り敢えず棒読みで苦笑を返していた。

ルーク達がアブソーブゲートからパッセージリングを操作する一方で、サク達はロニール雪山のセフィロトから制御盤を操作していた。というのも、あの後ラジエイトゲートまで行くのは、体力的にも時間的にも厳しかった為、ここから第七音素を照射してみたんだけど……うん。こっちもあっちも無事に何とかなったみたいで良かった。そして間に合って本当に良かったと、サクは内心胸を撫で下ろす。



「…むむ?ちょっと待って下さい」

「何?死神。どうかしたの?」

「誰が死神ですか!薔薇ですよ薔ー薇!!」



ディストが表情を顰めて呟くなり、クロノも嫌そうな…というか面倒そうな表情を浮かべた。



「…障気がディバィディングラインに吸着している様です。これは…早急に対処しないと不味いかもしれません」

「うわぁ……アンタって本当に頭良かったんだね」

「被験者は私を何だと思っていたのですか!?」



キィ〜ッと地団駄踏むディストを、クロノは鼻で笑う。仲が良いのか悪いのか戯れ合っているのか。三つの内どれでもなさそうだなーと思いつつ、二人から視線をアリエッタへと移してみれば、彼女は案の定困った様に眉をハの字に下げながら、首を傾げていた。可愛い…っ、可愛いよアリエッタ!!



「ディ、ディバィ…ディング……?」

『えーっと、障気が地下にいっぱい溜まってて身体に毒だから大変だよーって感じかな?』

「軽い感じで誤魔化されてる印象がありますが、これは死活問題ですよね…?」



表情が引き攣ってますよーフレイルさん。そんな障気の問題は、まぁ追い追い何とかするとして……と言おうかと思った所で、聞き慣れた共鳴音が脳裏に響いた。私の胸元にあるローレライの輝石が第七音素に反応して光り始めたのとほぼ同時に、隣にいたアッシュの体も光に包まれる。



「…っ!」

「アッシュ……ルーク!鍵を送る!その鍵で私を解放して欲しい!栄光を掴む者……私を捕えようと……私を……」

「レプリカじゃねぇ…コイツはまさか…」

『ローレライ、だね』



ローレライの輝石が共鳴した為か、私にもローレライの声が聞こえたというミラクル。輝石の光りが消え、アッシュの身体を包む淡い光が消えると、彼の手には剣が…ローレライの鍵が握られていた。向こうからコンタクトを取って来たかと思えば、強引に鍵だけを押し付けて即ログアウトしてくるとは。むしろ髭が地殻に落ちる前に鍵を渡して解放して貰ってたら、髭に捕まらずに尚且つ音譜帯へも還れただろうに…。本当にお前は何がしたいんだローレライ。



「どういう事だ…あの状態で、アイツは生きているというのか…?」



鍵を見詰めたまま、アッシュは眉間に眉を寄せて考え込んでいる。途中からではあったが、ヴァンがルーク達に追い詰められて、地殻に身を投げる所までは便利連絡網で確認してたからね実は。ストーカーっぽくね?ってアッシュに言ったら殴られたけど。



「…さっきから二人で何言ってんの?アイツって誰?」

『あ〜…えっと、ヴァンだと思う。栄光を掴む者が私を捕えようとしてくる助けてー、…ってローレライからのヘルプをアッシュが受信したみたいだから』

「成る程。確かアッシュはローレライと完全同位体でしたね。まさか、こうして本当にコンタクトを取る事が可能とは…!」



端から見たら痛い奴状態のアッシュに対して若干引いてるシンクに事情を説明したら、ディストの方が話に食いついてきた。もっと根掘り葉掘り話を聞こうとして、ウゼェ!と切れたアッシュに殴られている。ディスト乙。



「ちょっと待ってよ、何それ。ヴァンが生きてるって、アイツらしくじった訳?」

『ん〜、結果論的には、そうなるのかな?さっきルーク達がヴァンを追い詰めて地核に落としてたみたいなんだけど、そしたら諦めの悪いヴァンがどうやったかは知らないけどローレライを捕まえたみたいだし…』

「…意味が分からない上に色々理解し兼ねるけど、まだヴァンは生きてるって思う方が良いのは分かった」

「ま、実際に地核に落ちて生還してきた前例もいる位だ。今更そこ迄驚くほどの事でも無いだろう?」

「…。それもそうか」



カンタビレの言葉にシンクも納得したらしい。ていうか、その前例の当事者なだけに納得するしかないよね。感覚が麻痺ってるなぁーとは私も思う。まぁ、ローレライが一枚噛んでる時点で納得せざるを得ないのかもしれない。

取り敢えず、詳しい話は一度宿に戻って休憩を挟んでから改めてする事に決まった。ローレライからのSOSを受信しました大変だ!…って、いきなり言われても他の皆様には意味不明だろうし、説明するにはどうしても時間を要する事から、先ずは下山する事になったのです。宿に帰ったら、一休みせねば。治癒術で体力は回復してるけど、精神的には結構キツいです実は。で、頑張ってケテルブルクの宿まで帰って来た私達を迎えてくれたのが、癒し担当の緑達という。

そう、緑っ仔達。



「おかえりー皆!」

「お帰りなさい」

『ヨークさん、状況説明プリーズです』

「いやぁ、俺達もどうしたもんかと…」



疲れ切った私達を笑顔で出迎えてくれたのは、お留守番を頼んでたフローリアンと漆黒の翼メンバー、そして知事邸にいる筈のイオンだった。



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