舞台裏の策略(5/7)

アストンさん達には危険なので後ろに下がって貰い、更にアッシュと共に駆け付けてくれた第六師団の人達に彼等の護衛を頼んだ。そしてリグレットにはアッシュが、ヴァンには私が対峙し、彼等の行く手を遮る。



「成る程。アッシュと第六師団を街に潜り込ませていたのは、やはりお前だったという訳か……導師サク」



ヴァンの言葉に、サクはニヤリと笑みを浮かべる。第六師団員に命じた私のやり取りを見て、ヴァンも漸く気付いたらしい。自分達の計画の邪魔立てを企てた主犯が、私である事に。



「まさか、あのカンタビレを動かすとはな。お前にはいつも驚かされる」

『そんなの、たまたまカンタビレ師団長と親しかっただけですよ』

「この期に及んで偶然と称すか……相変わらず、食えん奴だな」



むしろ、そこはやっぱり驚嘆に値して貰わないとね。…嗚呼、でもそれにはまだ少し早いか。

今も両者互いに油断なく武器を構え、臨戦態勢を維持している。しかし、どうやらヴァン達はルーク達を追うのは既に諦めた様子。それはつまり、彼等の奇襲作戦は失敗したという事。とはいえ、あのヴァンが妙にあっさりと諦めた事に対して、サクは表情には出さずに内心焦りを感じていた。出来れば杞憂であって欲しい……と。



「あの大詠師に色々と吹き込んだのもお前か」

『そんなつもりはありませんよ。ただ、諭しただけです』

「フッ、預言の次はユリアの再来を寄り処にさせる事をか?」

『確かに。現段階では傀儡である事に変わりないよ。今のままでは、ね』

「ほう…ならばお前は、この先あの男でも変われるというのか?」

『さぁ?それは本人次第でしょう。少なくとも、可能性は0じゃないと思いたいけど』



ヴァンは私を見定める様に、またはこの問答を楽しむかの様に、不敵な笑みを浮かべている。余裕を見せてくるヴァンに、私の内心の焦りも読まれている様な気がして、とても不快だ。



「…やはり、お前を殺すには少々惜しいな」



そう言うと、ヴァンは何を思ったのか、剣を鞘に戻した。お前を…って、アッシュは兎も角、やっぱり私の事は始末する気満々だったって事かよ。



「どうだ、導師サク。我々と来る気はないか?」

「!閣下!?」

「てめぇ、どういうつもりで…」

『待ってアッシュ』



殺気立つアッシュを片手で制し、サクはヴァンを静かに見据える。リグレットの方も、ヴァンの突然のサクへの誘いに戸惑っている様子。



『…やっと誘ってくれましたね。私は誘って貰えないんだとばかり思ってましたよ』



挑発的な笑みを浮かべる私に対し、ヴァンの方もうっすらと笑みを浮かべる。ヴァンが何故私を仲間に引き入れようとするのか、何となく分からなくもない。

ヴァンは、私がこの世界の人間じゃない事を知っている、数少ない人物の一人だ。そして、私自身には預言が無い事も。レプリカでもないのに預言に縛られない存在だからこそ、ヴァンは私を殺すのが惜しいんだろう。

でも……



『せっかくの申し出ですが……丁重にお断りさせて頂きます。"何でもレプリカで代用出来る"なんて考えには、賛同しかねますから』

「そうか…残念だが、敵に回るというのなら、容赦はしない」



さして残念そうでもなく、再び剣を抜きながらヴァンは言う。最初から無理だろうと分かってた癖に。それとも……私をルーク達の所へ追い付かせない為の時間稼ぎだった、とか?



『今まで散々泳がせておいて、今回作戦の邪魔をされたからやっぱり殺すとか。なかなか酷いじゃん』

「お前は予想以上に此方の情報を掴んでいる様だからな。致し方あるまい」



瞬間、ヴァンの殺気が膨れ上がった。ビリビリと空気が痺れる錯覚を覚える位、物凄い威圧感だ。ヘンケン達を守る第六師団員達が僅かに後退りする程の。

アクゼリュスのセフィロトで向けられた殺気の比ではない。ザレッホ火山で対立したあの時以来……否、ここまでヴァンが本気なのは始めてかもしれない。



『貴方には一つ聞きたい事がある』



それでもサクは、ヴァンに気圧されないよう、表情を崩さなかった。相手を警戒しつつ、音叉を握り締める。

本当は、聞きたくない。でも、確認しなくちゃいけないから。嫌な汗が額に滲み、喉がカラカラになるのを感じながら、サクは意を決して口を開いた。



『―――…シンクは何処だ』



冷たくヴァンを見据えるサクを前に、ヴァンは嘲笑とも取れる笑みを浮かべた。



「そう恐い顔をするな。シンクは今頃任務を遂行している頃だろう」

『任務って、まさか…っ!!?』



予感はしてた。否、こうなるかもって事は、もっと前から分かってた。シンクと一度も会えなくなってから、ずっと。

何の任務かなんて、聞かなくても分かる。このタイミングでシンクがいなくて、任務に付いてるなんて、考えられる任務は一つしかないし。何より、私は"知っている"から。思わず血の気が引く。

やはり、ヴァンは私の足止めが目的だったんだ…



「サクっ!」

ガキィンッ バチバチッ



一瞬で間合いを詰めて私の目の前まで踏み込んできたヴァンの剣を、アッシュの声よりも僅かに早く反応し、両手を使って音叉で受け止める。やれやれ、あまり私を見くびって貰っては困るね。まぁ、音叉に音素をコーティングして強化していなかったら危なかったけど。



「スピノザ、よく見ておけ。私の敵となる者の末路をな」



あ、不味いな。ヴァンが本気だ。私が味方にならないと知り、今ここで本気で消すつもりらしい。確かに、アストンさん達を守りながらヴァンとリグレットの二人と戦うのは私も厳しい。

まぁ、まともにヴァン達の相手をしていたら、の話だけど。



「邪魔立てするな!プリズム…」

「魔神剣!!」

ズガッ



リグレットが私とアッシュに向けて譜銃を撃とうとした所へ、建物の影からフレイルが飛び出し妨害した。その隙をアッシュは逃さず、ヴァンに向かって斬り掛かった。ヴァンは一旦私を剣で弾くと、音叉が纏っていた音素が移った剣で、アッシュの剣を受け止めた。剣と剣がぶつかり合ったその瞬間、突然第七音素同士が共鳴音を響かせ始めた。実は音叉に纏わせていたのは第七音素でした!

間髪入れずに第七音素を纏わせた音叉をヴァンへと振りかざす。ここで漸く此方の意図に気付いたヴァンの顔色が変わった。しかし、もう遅い!



「!これはまさか…っ」

『吹っ飛べヴァンデスデルカァアアア!!!』

カッ



第七音素を纏った剣と音叉がぶつけて、意図的に擬似超振動を起こしてサヨウナラ!勿論、私とアッシュは巻き込まれない様に、疑似超振動が起こる直前で反応範囲外へとちゃっかり退避した。こうして第七音素の強い光と共に、ヴァンデスデルカがシェリダン港からログアウトしました。上手くいってれば、ダアト辺りに落ちる筈です。



「閣下…!」

「そこまでにして頂きましょうか、リグレット師団長」

「!」



フレイルに背後を取られ、剣を突き付けられたリグレットは、動きを止めるしかなかった。リグレットが悔し気に表情を歪める一方で、その後ろから逃げようとしていたスピノザを捕縛したカンタビレも姿を現した。



「タルタロスは無事に出港し、アンタ達の大将までもが退かされたんだ。これで作戦も失敗だろう。サッサと大人しく部下達を下がらせな」



下がらせない場合、容赦なく切り捨てるだろう。カンタビレはそういう人だ。暗に見逃してやると言うカンタビレの言葉にリグレットは素直に承諾し、神託の盾兵達を引き連れて街から撤退して行った。

去り際に、リグレットがフレイルの方を一回だけ振り返っていた。…彼女なりに、何か思う所があったのかもしれない。フレイルの方もまた、兵を引き連れたリグレットの背中を無言で見詰めていた。



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