本当の気持ち(1/6)

あの日、導師イオンの代わりとなるレプリカになれなかった僕は、出来損ないとして火山の麓に廃棄された後、サクにその命を拾われた。

最初は、何故彼女に拾われたのか分からなかった。否、今こうして改めて思い返してみても……適当な理由は思い浮かばない。ヴァンの様に僕に利用価値を見い出したのかもしれないし、もしくは彼女が起こしたただの気紛れだったのかもしれない。



「どうして、僕を助けたの?」



サクに拾われて数日が過ぎ。彼女に教えを受けて、知識として刷り込まれていた言葉を正しく組み立てて会話をするのが可能になってきた頃。

ずっと疑問に感じていた事を、シンクはサクに尋ねてみた。その時サクは少し驚いた顔をした後、僕の目を真っ直ぐ見て、こう答えた。



『シンクが生きる事を選んだからだよ』



でも、本当にただそれだけで僕を助けるだろうか?使い道の無い、失敗作のレプリカを。何故自分が廃棄されたのか、その理由を理解していた僕は、サクのその答えにも当然疑問を抱いた。



「…見返りに、何を望むの?」



言葉が足りない部分もあったが、僕の言いたい事は通じたらしく。サクは瞳を瞬いていた。

今思えば、この頃から既に自分は何処かひねくれた物の考え方をしていた気がする。いや、正確には……導師イオンのレプリカに選ばれず、廃棄が決まった時からかもしれない。

見返りかぁ…と呟きながら、サクは少し考える素振りを見せた。この頃はまだ情緒面も未発達な所が多かった僕だけど、僕の質問に対して本気で頭を悩ませている事だけは分かった。

でも、だからこそ少しだけ不思議だった。サクは僕を何かに利用する為に、僕を助けたのではなかったのだろうか……と。本当に、あの時僕が生きると…サクと一緒に行く事を選んだから、僕を助けただけなのだろうか。

僕がサクに対して新たな疑問を抱く傍らで、彼女は暫く悩んだ末に何かに納得した様にして頷くと、再び僕の方へと向き直った。何故か楽しそうな……それでいて優し気な笑顔を浮かべながら。



『じゃあ……一人じゃ寂しいから、シンクには私の傍にいて欲しいな』

「…それだけ?」

『うん。それだけ』



果たしてサクに何のメリットがあるのか。いまいち納得はいかなかったが、何故か満面の笑みを浮かべているサクを見ていたら、結局何も言えなくなってしまった。取り敢えず分かった事は、サクが僕に望む事は、ただ自分の傍にいる事。本当に、ただそれだけだった。

サクと過ごす時間は、不思議とあたたかくて。そんなサクが僕に向けてくれる優しい笑顔が好きで。だからかもしれない。導師サク襲撃事件があったのをきっかけに、サクに護られるだけで何も出来なかった僕は、強くなって、サクを護ると決めた。

サクを護る為に、導師守護役になって。ヴァンに鍛えて貰う条件として第五師団に入り、師団長にもなった。サクを護り、サクの役に立つ……その全ては、サクの傍にいる為に。

サクさえいれば、他に何もいらなかった。導師イオンになれなくても、高価な品々に囲まれなくても、構わなかった。サクを護る導師守護役として傍にいられるだけで、ただそれだけで、良かったのに…



「あれ……?イエモンさんたちが言ってた譜陣がないよ?」



甲板へと出たルーク達は、思わず目を疑った。アニスの言った通り、そこには譜陣が無かったのだ。作戦後にここからアルビオールを脱出させる為の、その為に絶対必要な譜陣が。



「ここにあった譜陣はボクが消してやったよ」



その声とともに、アルビオールの影からシンクが現れた。ルークが警戒しながら腰の剣に手を掛ける。

タルタロス内に侵入者がいる事には、侵入者を報せる警報が鳴った地核突入前から、全員が知っていた事だ。この作戦を阻止しようとしてきたヴァンの仕業だろうと予測はしていた為、シンクの登場に対しても驚きはしなかった。ただ、ここに到着する迄にいくらでも機会はあったであろうに、何故このタイミングをわざわざ狙ってきたのかは、解せなかったが。

ルーク達の中で、ただ一人を除いては…



「侵入者はお前だったのか……」

「逃がさないよ。ここでお前たちは泥と一緒に沈むんだからな。――死ね!」

『……っ』

「!サクっ!?」



離れた場所でルーク達とシンクが抗戦に入った一方で、サクは足に力が入らず、その場に座り込んでしまった。

どうしてこんな所まで、シナリオ通りに事が運んでしまうのだろう。…否、こんなのは八つ当たりだって事は分かってる。だって、シナリオ通りに事が進むようにしてきたのは私自身だ。こうなるかもしれない事には、ずっと前から薄々気付いてたから。

でも、だからこそ悔しくて、同時に自分自身にどうしょうもなく腹が立った。一体私は、今まで何をしてきたんだろう……って。

心配したイオンが傍に駆け寄るも、サクは呆然とシンクとルーク達を見詰めたまま、言葉を返す事が出来なかった。



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