守られた約束(9/12)

青年に連れられてテントの裏側まで来た所で、ここで少しお待ち下さい、と言われ、青年が先に一人でテントの中へと入って行った。念のため、確認を取りに行ったのだろう。それから暫くすると、テントの中から今度はサクも見知った人物の一人が出てきた。ヨークさんだ。彼は此方の姿を見るなり、一瞬驚いた後、あのいつもの怪し気な笑みを浮かべながら此方にやって来た。仮面はしたままだったが、どうやら私の服装で私が誰か気付いてくれた様子。



「やっぱり嬢ちゃんだったか。こんな所で会うとは、珍しいな。そちらの旦那は…?」

『私の連れだよ。それより、今回はちょっと依頼があるんだけど…』

「他ならぬ嬢ちゃんからの頼みとあらば。取り敢えず、こんな所で立ち話も何だ。中にどうぞ?」

『有り難うございます』



ヨークさんの案内により、テントの裏側から入り、更に奥へと通して貰った後、ヨークさんはノワールさんを呼びに行ってくれた。忙しい所を申し訳ない。



「オイ、一体どういうつもりだ」

『そのうち分かるよ』



警戒しているのか、怪訝な顔をして耳打ちしてきたアッシュに、サクはそう笑顔で返す。…ここに来たら、もうローブを取っても良いかな。今はショーの休憩の合間なのか、人気も少なそうなので、フードとバイザーを外した。アッシュに視線で咎められたけど、気にしない。ここの人達には既に顔も知られてるし。と思って油断していたら…



「サクだあ――っ!!!」

ドゴスッ


グォフッ!!?

「な…!?!?」



何かが光の速さで正面から飛び付いて来た。完全に油断していた私は、衝撃を殺せずに断末魔の声を上げながら床に倒れてしまった。それでも一向に剥がれる気配の無いこの人間魚雷。心当たり?ここに来たら一つしかない。



「もぉ〜、サクってば全然此方には遊びに来てくれないんだもんっ!待ちくたびれちゃったよ!!」

『今の一撃で私の方は完全KOだよ……

フローリアン』



不服そうに頬を膨らませている彼……フローリアンは、相変わらず元気そうだ。というより、元気が有り余り過ぎてるよこの子。



「……無事か?」

『かろうじて…』



ハッと我に返ったアッシュが、微妙に気遣わし気な視線を向けてくる。…何だか憐れみが含まれてる気がするのは、気のせいではないと思う。

そんなフローリアンの顔を見るなり、アッシュが目を見張る。再び固まってしまったアッシュの存在に漸く気付いたフローリアンが、アッシュを見上げて首を傾げた。



「?ねぇサク、この人だぁれ?サクのお友達ー?」

『そうだよ。アッシュっていう、腐れ縁』



フローリアンを引き剥がし、サクは何とか起き上がった。あー、それにしても此れは予想外だった。まさか、フローリアンがこっちに来てるとは思わなかったよ。



「コイツはまさか…」

「導師イオンのレプリカだよ」

「『!!?』」



呟かれたアッシュの疑問は、新たな第三者によって即座に解消された。真実をオブラートに包まず、これ以上ない程ストレートに。ちょっと待て、今のはフローリアンの声じゃなかったぞ。後ろから聞こえた新たな人物の言葉に、サクとアッシュが振り返る。此方に歩いて来る二人を見るなり、今度はアッシュだけではなく、サクまで驚いた。



『ちょ、何でクロノとアリエッタまでここにいるの!?』

「観光…です」

「暇だったしね」



お前らって奴は…っ!各々からの返答に、サクは脱力感に苛まれた。ちなみに国境はアリエッタのお友達で越えたらしい。魔物に国境なんて関係ないからね。それ以前の問題ですよクロノさん。

被験者イオンこと、クロノは現在カンタビレ率いる第六師団と共に左遷された先で、身を隠している……のだが、今回の様に「退屈だ」とかいうフザケた理由から、時々アリエッタと彼女のお友達に連れ出して貰って、よく出掛ける事はしばしばあるらしい。「マルクトとキムラスカの観光名所は概ね制覇したしね」とか抜かしやがる位には。本当に何してんだ。こんな時期にまで呑気にアリエッタと旅行してんじゃねーよ。此方は大変だってのに。

しかも、旅行先で数回「イオン様ですよね?」ってバレた事もあるらしいが、その度「御忍びなので…」と何食わぬ顔で平然と導師のフリをしやがるんだとか。否、確かに元は導師だけどさ!更に余談だが、第六師団の任務にも度々同行して暇を潰す日もあるとかないとか。何にしろ、自由を満喫し過ぎてないか?



「何でアッシュが、サクと一緒に…?」



ちらり、とアリエッタの不思議そうな視線がアッシュへと向けられる。



「それはむしろ此方の台詞だ。お前の方こそ、何でこんな所に…」

「アリエッタは、クロノの護衛…とプライベート、です」



それって混同してしまっても良いのか?とアッシュは疑問に感じたが、恐らくコイツに言った所で無意味だろうと判断する。それより、もっと重大な疑問が目の前に立っている。



「鮮血のアッシュ……だっけ?直接会うのは初めてだけど、噂は聞いた事があったよ。ヴァンのお気に入りだっていうね」



クロノの皮肉が含まれた笑みに、アッシュの眉間にシワが寄った。何を喧嘩売ってんだよクロノは。アッシュの方は困惑しながらも、クロノの事を警戒している様子。



「……お前は誰だ」

「誰って、アンタも見た事位はあるだろう?導師イオンだよ」

「イオンの奴は教団に置いて来た筈だ」

「あれ?アンタとイオンって知り合いだったの?」



自分の時にはアッシュとの接点が無かったからだろう。意外なんだけど、とクロノが呟いた。ていうか、取り繕う気はさらさら無いだろ、今日のクロノ。



「お前等は……二人ともレプリカか」



依然として警戒したままなアッシュを見て、クロノとフローリアンは互いの顔を見合わせると、クスクスと可笑しそうに笑い合った。仲良いなオイ。どうやらアッシュの反応はクロノ達の期待通りの返答だったらしい。完全に今の状況を遊んでるよなぁ……この二人。何だかフローリアンがクロノの影響を受けつつある気がして、サクはため息を溢した。



「何だ。サクから聞いてなかったのか」

『まさか、ここに三人がいるなんて想定外だったからね』



こうなっては仕方ないので、事情をアッシュに説明する事にした。まぁ、アッシュから髭への情報漏洩はあり得ないだろうし、大丈夫でしょ。



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