秘預言(6/6)


「おおお…なんという事だ!!導師ともあろう御方が、教団の聖域へ小汚い鼠どもを連れ込むとは!!」



嘆かわしい、と言わんばかりのモースの演説口調。小汚い鼠とは、全くもって失礼な。樽豚に言われたかぬぇー。



「ローレライ教団の名に傷を付けるのも、程々にして頂きたいですなぁ?導師イオン」

「お聞き下さい、大詠師モース!もうオールドラントはユリアの預言とは違う道を歩んでいます!」

「黙れ、ティア!!!」



モースの剣幕に、ビクリとティアが肩を揺らした。



「第七譜石を捜索することも忘れ、こ奴等と馴れ合いおって!いいか、ユリアの預言通りルークが死に、戦争が始まれば、その後繁栄が訪れるのだ!」

「大詠師モース……なんて恐ろしいことを……」

「ふん。誠に恐ろしいのはお前の兄であろう」



ごもっとも。とは思ったが、空気を読んで口に出したりはしません。正確には、ツッコミたくても出来ない状態なんです、今の私。

ちなみにティアは、少なからず大詠師モースを尊敬していた事もあり、かなりショックを受けている様子。そんな彼女を制して、イオンがす…と前に出た。



「僕の責任は僕が果たします、モース。彼等を不当に扱うのは許しません」

「導師さえ大人しくして下されば、いくらでも。ここは宗教自治区ですからな」

「(……あれ?)」



モースがイオンに対してニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる一方で、ルークがふと気付いた。つい先程まで自分達と一緒にいた筈のサクの姿が見えない事に。

次いで、モース達に背を向ける形で此方に振り返ったイオンが、人差し指を口許にそっと当てた。

……どうやらサクだけは、モース達に気付かれる前に上手く逃げた様子。道理でモースがサクに対して何も言わないと思った。



「すみません皆さん。僕はここで暫くお別れです」

「不味いですよイオン様!教団にいたら、総長がツリーを消す為にセフィロトの封印を開けって言ってきますよぅ!」

「ヴァンに勝手な真似はさせぬ。……流石にこれ以上、外殻の崩落を狙われては少々面倒だ」



アニスが焦る一方で、モースが若干嫌そうな顔でそう言った。ていうか、少々面倒って……モースにとっては本当にその程度の事なのか。恐ろしいという愚かというか。



「でも、力ずくでこられたら……」

「そうなったら、アニスが助けに来てくれますよね」

「……ふへ?」



思わず間抜けな声を上げてしまったアニスに、イオンはにっこりと微笑んだ。



「唱師アニス・タトリン。ただ今を以って、あなたを導師守護役から解任します」

「……、!!?ちょっ、ちょっと待って下さい!そんなの困りますぅ!」



驚きのあまり、一瞬固まってしまったアニスだったが、我に返るなり彼女は本気で焦った。そんなアニスに、イオンがすれ違い際にそっと囁く。



「ルークから片時も離れず御守りし、伝え聞いた事は後日必ず僕に報告して下さい」



最後に、イオンは皆に向き直った。



「頼みましたよ。皆さんも、アニスをお願いします」



イオンが数名の兵を従え、この場から去って行く姿を見送った後、モースはルーク達を品定めするかの様な視線を向けた。



「……さて、お前達の処遇だが…」

「モース!!イオンとの約束は守って貰うぞ!!」

「勿論だとも」



ルークの言葉に、モースは顎先を撫でながらニヤリと悪どい笑みを深めた。うん。嫌な予感しかしない。



「用意してやろう。キムラスカ王家を騙し続けてきた咎人に相応しい舞台を!!」

「「「「!!!」」」」



あー…やっぱりそうきますか。正直、イオンとの約束を守ってるとは思えない扱いだ。というより、はなからそうするつもりだったのだろう。モースのドヤ顔を見れば分かる。



「大詠師モース!お言葉を取り消して下さい!!ルークは王家を騙していた訳ではありませんっ」

「事実は変わらぬぞ」



ティアの抗議をモースが鼻を鳴らして一蹴すると、次いでビシッとルークを指差した。



「ファブレ公爵の子息の名を騙りしルーク。そして、キムラスカ王女ナタリアの名を騙りしメリル!!!」

「―――え?」



次いで、モースの指先がルークからナタリアへと向けられた。これには他の皆も、ナタリア本人すらも、咄嗟に反応出来なかった。

そんな彼らを見て、モースは更に笑みを深めた。



「貴様らにはユリアの預言を成就させる為の礎となってもらう!!」



光栄に思え!とか大扇に言ってるけど、要するに開戦の餌にするって事じゃないか。捻りも裏も何もない。ヴァンとは大違いだ。

皆がモースと神託の盾兵達に連行されて行った後。誰もいなくなった礼拝堂の奥にて、サクがその場に再び姿を現した。

御察しの通り、通路でモース達をやり過ごしたのと同じ禁術です。

…さて、ここまでは大方予想通りの流れで事が進んでくれているから、問題無いとして。また暫く忙しくなりそうだ。

そう、今回の私は、前回悔し涙を飲んだ私とは違うんだ。確かにあの時は何も出来なかった。けど、次こそはリベンジしてやるんだ。

今度こそ堪能するぜ、アシュナタを!そんな全くもって空気を読まない決意を胸に、サクはクスリと妖しく笑った。



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