導師様がゆく!(4/13)


「母ちゃん!」

「!ジョン!?」



エンゲーブの村に着くなり、ジョン君はアルビオールから駆け降りて行った。そうして数週間振りに帰宅出来た我が家に飛び込むと、ジョン君に気付いた彼の母親が、洗濯物を放り出してジョン君を抱き止めた。



「嗚呼、ジョン!本当にジョンなの!?」

「本物だよ、ミリアム」

「!あなた……っ!!」



ジョン君に続いて、パイロープさんも家に入っていく。まさに感動の再会で、互いに肩を抱き合いながら涙する親子に、此方までちょっと目頭が熱くなってしまった。

そんな一家の姿をアリエッタが少し羨ましそうに見ていて、それに気付いたクロノがアリエッタを優しく引寄せた。



「良かったね」

「うん…!」



とても優しい笑みを浮かべるクロノに、アリエッタもつられてとても幸せそうな笑顔を浮かべた。あー、此方も現在幸せなようです。うん、本当にご馳走様。

家族水入らずの場面にこれ以上水を注すのも何なので、取り敢えずコッソリとパイロープさん一家の家を後にしたサク一行は、村を束ねるローズ婦人を訪ねる事にした。

エンゲーブにはライガクイーンを助けに行く時に一度立ち寄った事があったけど、何気にローズさんに会うのは此れが初めてだ。



『こんにちは。村長さんはいらっしゃいますか?』

「私ですけど、あなた方は…?」

『初めまして。私はローレライ教団第二導師サクといいます』



導師様!!?と驚くローズさんに笑顔を向けてから、サクは至って真面目な声音でお話があります、と言った。ローズさんの家に上がらせて貰ったサク達は、シェリダンで話したのとほぼ同じ内容を、ローズさん達にも説明した。

話が進むにつれて、ローズさんの顔色は青ざめていった。



「崩落って……アクゼリュスが消えたって噂は、本当なんですか!?」

『はい。事実です』

「信じられません…本当に、そんな事が起きているなんて……」

「本当だよ!村長さんっ」

『!?ジョン君!!?』



いきなり後ろから声が聞こえて振り返ると、家の扉の前にジョン君がいた。しかも、その後ろにはパイロープさんと奥さん…ミリアムさんもいる。



「まだちゃんとお礼も言ってないのに、直ぐに居なくなっちゃって、導師様達ってば酷いよ!」

「こらジョン!導師様になんて失礼な口の聞き方を…!!申し訳ありません導師様!!」

『私は構いませんので、気にしないで下さい。それと、ごめんねジョン君。流石に邪魔しちゃ悪いかな〜と思ったからさ』



私達がいない事に気付いて、わざわざ探し回ってくれたらしい。何だか逆に申し訳ない事をしたかもしれない。

ちなみに、この場で彼等の登場に驚いていたのはサク達だけではなく、ローズさんもだったりする。



「ジョン君に、パイロープの旦那も!?……二人とも、生きてたんだね!!」

「オイラと父ちゃんは崩落に巻き込まれて……死に掛けてた所を導師様が助けてくれたんだ!!」

「ああ。地下の世界って所も、俺達はこの目でしかと見て来たぜ」



ジョン君とパイロープさんの言葉に、ローズさんは今度こそ言葉を失ってしまった様だった。

セントビナーの崩落が始まっていない現段階で何処まで信じて貰えるか不安もあったが、パイロープさん達の介入により、どうやら信じて貰えた様だ。

とはいえ、むしろ警戒するなら、今は崩落よりも戦争の方だと思うんだよね……正直な話。

戦争が起こった場合、戦線が北上する可能性が考えられ、そうなるとこの村は必然的に危険に晒される事になる。順番的に、今は此方の方が重要だろう。



『崩落の危険性の他にも、現在戦争がいつ始まっても、おかしくない状態です。今の内に避難する必要があります』

「どうしたもんでしょうか。グランコクマに避難したくても、もう首都防衛作戦に入っているらしくて……」



首都防衛作戦……戦時下に要塞となるグランコクマが、要塞都市といわれる由縁だ。グランコクマに外部から入る事は不可能になる。

それにしても、もう首都防衛作戦が開始されていたとは。筋書きの流れよりかなり早いな……否、この時点では既に警戒体制を取っていた可能性は十分考えられる。しかも、今回は私の助言もあるから……ピオニーが早めに判断したのかも。

どちらにしろ、マルクト迄何度も往復するには時間も掛かってしまう。その間に戦争が起きて間に合いませんでした、では話にならない。それに、この大陸自体に崩落の危険性がある。ならば、その場しのぎではあるが、今はケセドニアへ逃げた方が確実だ。

ケセドニアは自治区であり、教団の支配力が強い街だ。戦場に近くても安全だろう。崩落の順番も、セントビナーより後だったし。



「しかし、この街の全員をアルビオールに乗せるのは無理です」



フレイルの言葉通り、この村には二万もの住人がいる。アルビオールにも乗員人数に限界がある。



「年寄りと子供だけでも、そのアルなんとかで運んでもらえませんか?」



ローズさんの話によると、幸いローテルロー橋も再建が終わった所だとか。

チラッ、とクロノ達に視線を向けると、首を横に振られた。



「アレを使って良いのは、緊急時だけにして下さい」

『むぅ……分かりました〜』



本当は今回も超振動で飛ばそうか考えたけど……フレイル達から使用禁止令が出てるからやはり無理そうだ。絶対徒歩より安全でしかも楽だと思うんだけどなぁ……コントロールに失敗さえしなければ。



「移動中も神託の盾兵が皆さんを危険から守りますので。ご安心下さい」

「どうかよろしくお願いします」



第六師団の代表としてのフレイルの言葉に、頭を下げるローズさん。彼等がついてくれるのは、私も心強い。

その後今日はケセドニアへ避難する為の準備をし、出発は明日の朝する事が決まった。



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