崩壊の音色(1/6)


「こ……これは……」



漸く到着したアクゼリュスの街を眼下に見下ろし、ルークは思わず袖口で鼻と口を覆った。

山をくり貫いて崖の途中に街を作った様な、鉱山の街アクゼリュスは、まさに死に瀕していた。街全体を濁った禍々しい大気が満ち、底の方にいく程薄暗く沈んでみえる。



「想像以上ですね…」



死の気配が充満している街並みは、ジェイドですら息を呑む悲惨さだった。ルーク達は意を決して街に足を踏み入れた。

街の中では鉱石保管庫だった小屋が簡易療養所になっている他、いくつか非難所のような仮設テントが設置されており、そこに負傷者達は収容されている様で、外に倒れている者はいない様だった。



「恐らく、先に到着した先遣隊が手配したのでしょう(それにしては、彼等の姿が見当たりませんが……)」



ジェイドの辺りを探るような視線に内心ドキドキしながら、サクはポーカーフェイスを保つ。うん、バイザーつけてて良かった。

兎に角行ってみましょう、というティアの言葉に一同は頷き、仮設テントの中に入った仲間達は…皆息を呑んだ。そこには、障気に犯された鉱夫たちが沢山おり、呻き声を上げ、障気蝕害に苦しんでいた。厳しい現実を目の当たりにし、ルーク達が愕然とする中……サクもまた、表情を顰めていた。

これは……予想以上に、障気蝕害の症状の進行が酷い。オマケに、外だけではなく室内迄もが障気に犯されている。

フレイルの報告を受けた時には、ここまで障気が酷いという報告は受けていなかった。避難作業が難航を示したのは、先遣隊が到着した時にはまだ障気が薄く、これ位なら大丈夫だと、発掘作業を続けると街の人達が避難を拒否した為だった。という事は、この障気はそれ以降に発生したものである可能性が高い。



「……っ、大丈夫ですか!?」



ナタリアが堪えきれなくなった様に、近くで横たわっている鉱夫に駆け寄る。泥や何か湿っぽいものに塗れた鉱夫に、彼女が手を伸ばそうとしたのを見て、ルークが一瞬慌てた。



「お、おい、ナタリア。汚ねぇからやめろよ。伝染るかもしれないぞ」



ルークのあまりにも無神経な発言に、ナタリアは振り返った。その形相は、今まで見た事がない程険しく、瞳には涙が浮かんでいた。



「……何が汚いの?何が伝染るの!馬鹿なこと仰らないで!」



彼女は苦し気なうめき声を上げている鉱夫に向き直ると、大丈夫ですか?と声をかけ、再び手を翳して詠唱と共にヒールの光を当て始めた。

僅かに鉱夫の呼吸が楽になった様に見えたが、効果はそれだけ。正直、焼け石に水状態だろう。

…こんな過酷な環境を初めて見たルークからしてみれば、当然の反応だとは思う。彼が戸惑うのも無理はない。

そんな時、後ろから歌声が聴こえてきた。



「クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ…」



振り返ってみると、ティアが譜歌を奏でていた。



「ティア?何を…」

「―――!この譜歌は……」



ティアの行動にガイが訝し気な表情を浮かべた一方、何かに気付いたイオンが、ハッとする。



「ユリアの譜歌!!」



譜歌の完成と同時に複雑な譜陣が展開され、譜歌の効果により室内に澱んでいた障気が一気に中和された。確かに、息苦しさが軽減された気がする…。



「障気が―――消えた!?」

「すごい!!何!?何が起きたの!?」



これにはジェイドも思わず驚きの表情を浮かべ、アニスも興奮気味に辺りを見回した。



「障気が持つ固定振動数と同じ振動を与えた、一時的な防御壁よ。長くは持たないけれど…狭い室内なら、暫くは有効な筈よ」



……あぁ、そっか。フーブラス川でアリエッタの襲撃が無かったから、ティアの譜歌による障気の中和を見たのはこれが初めてになるんだ。

チラリ、とルークを見やれば、彼はコレだ!と言わんばかりに目を輝かせてた。ティアが譜歌で障気を中和したのを見て、自分も超振動で障気を消せると確信を持ったのだろう。

………複雑だ。



「イオン様…先程ユリアの譜歌と仰いましたね。ユリアが残したと伝えられる、七つの譜歌ですか?」



ジェイドが思案しながら呟き、イオンもええ…と頷いた。



「あれは暗号が複雑で、詠み取れた者は居なかったと聞いていますが…」

「ティア、貴女は何故それを…」

「あんた達、キムラスカ側から来たのか?」



タイミング良くジェイドの言葉を遮るようにして、テントの中に男が入って来た。逞しい体つきのこの男も、格好から見て鉱夫の様だ。まだ然程障気には冒されていないように見える。



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