死の運命

最初の記憶…ウキョウと出逢って以降、その後も似たような体験を繰り返し、死を繰り返し、夢オチを繰り返した。延々と続く八月と、繰り返す度に増えていく異なる八月の記憶。流石にこれはただの夢じゃないと感じて焦りを覚えても、やっぱりどうにもならなくて。まずは試しに、さり気なく友達に相談してみた。



「何々?暑くも無いのに白昼夢でも見る訳?」

「むしろ夏にしては涼しい位ですよね」

『確かに、ここ最近の夏は些か涼しくなってきてる気がするよね』

「て言うか、あの店長が鬼軍曹とかめっちゃウケるんだけど!」

「普段の無口な店長からは、想像も出来ませんよねぇ」



…うん。サワとミネは完全なる人選ミスだった。私が他愛ない世間話みたいに話を振ったのも悪かったんだけど。

取り敢えず、嘘が下手くそでタイムパラドックス的な失言も多く、明らかに私と同様に繰り返しの経験をしているっぽいウキョウにも相談してみた。その結果、ウキョウにはコーヒーをむせて驚愕された。毎回八月の始めに突然ウキョウが部屋の中に現れても驚かなくなった時点で気付いてるかな…と思ってたのに、ウキョウは私にも繰り返しの記憶がある事には全く気付いて無かった様だ。仮にも衣食住を共にしてきた間柄で、全く気付かないのもどうかと思う。あの子以外に関心が無さ過ぎじゃないだろうか。ちょっと寂しいよと抗議してみる。



「キキョウの反応が分かりにくいんだよ!」

『ウキョウは反応が分かりやす過ぎるよね』



実は三回目の繰り返しの時点でウキョウが怪しい事には気付いてたけど、本人が何だか必死に誤魔化そうとしてたし、私自身も状況を飲み込めて無かったり夢だと思ってた事も合間って、今迄言及しなかっただけだったりする。その事を話したら、もっと早くに言ってくれても良いじゃないか…と、脱力された。アレでも周囲から怪しまれない様にと、私に対してもある程度は気を張っていたらしい。……何だか私もウキョウに黙って気付かないフリをしてた時点で、あまりウキョウの事を言えない気がしてきた。



『…何かごめんなさい』

「いや、俺の方も…秘密にしてたから、ごめん…」



互いに申し訳なくなって謝り合った所で、本題に入る事になった。



「信じて貰えないかもしれないけど、今迄の記憶を持ってる君になら……全部話すよ」



そうして、私は初めて彼の本当の事情を知った。ウキョウの繰り返しの始まりは、あの子の死が起源だった。8月1日に大学の火事に巻き込まれたあの子は重傷を追い、何とか助け出されるも昏睡状態に陥り、そのまま意識が戻る事は無く……8月25日に亡くなってしまったらしい。その時、ウキョウは神に願ったそうだ。あの子が8月25日に死なない様に、と。その願いを神が聞き入れ、あの子を生き返らせる事が出来ない代わりに、神はウキョウに世界を超える力を与えた。あの子が無事に8月25日を死なずに生きるという、願いを叶える為に…。

あの子が8月25日までに死なずに幸せに生きている姿をウキョウが確認出来れば、ウキョウの願いは叶った事になる。けれど、その願いは未だに叶っていない。あの子とウキョウが同時に存在する世界が、ウキョウがいた元の世界線以外に無かったらしい。その為、ウキョウはニールの力によって、あの子が存在する世界線を渡り歩いているのだが………彼女が8月25日以降に生きている姿を確認する前に、何故か必ずウキョウが死んでしまうのだという。何度死んでも、あの子の生存を諦め切れないウキョウは、死の繰り返しと共に何度も世界線を越えて、様々な並行世界を渡り歩き続けており……現在に至るという。



「…そうやって俺は、何度も異なる八月を繰り返してるんだ」

『そして世界線を越える度に、その世界線に存在する私の部屋に現れて来た…と』

「理由は分からないけど、そういう事なんだ」



この部屋のリビングは世界線を繋ぐ出入り口にでもなっているのかと、問いたくなる。彼の中にいる神様曰く、違うらしいけど。果たして、これは本当に偶然なのだろうか。ウキョウが今迄経験してきた世界線での"私"の記憶が、私の中にあるのには、どういう因果関係があると言うのか。



「本来なら、各世界線は独立してて、干渉を受けたりはしない筈らしいんだけど……どうしてキキョウには他の世界線での記憶があるんだろう?」

『それは、むしろ私の方が聞きたい事なんだけど…』

「ニールも、こんな事はあり得ないって言ってるんだ。俺の願いがなかなか叶えられない事も含めて、なんだけど…」



どうやら、神様とやらも万能ではないらしい。取り敢えず現在分かっているのは、私の異なる八月の記憶とウキョウの世界線越えには何らかの関連があって、共に連動している事。この奇妙な八月の記憶は、彼と最初に出逢った日を起点に繰り返しているし、これはまず間違いないと思う。

そして、彼が死を繰り返す度に、私も…



「君は、どこまで記憶があるの?」

『細かい日付けまでは覚えて無いけど、最初にウキョウと出逢って以降、8月25日を迎えた覚えは無い気がするし、私もその日迄に……、んー…多分、ウキョウの滞在期間と私の記憶に大差は無いと思う』

「…そっか…」



"私もその日迄に何度も死んでるから"…とまで打ち明けようかと思ったけど、やめた。何度も八月を繰り返すも、彼の悲願は叶わず、世界線を巡る事で様々な想いを抱えて憔悴した彼に、言ってどうするというのか。彼自身にも、神にすらもどうしょうも出来ないこの現実を。もし、彼と同じ様な死の連鎖を私も繰り返してると知れば、優しい彼はきっと自分が巻き込んでるせいだと考えて、自分を責めるかもしれない。正しくその通りなのかもしれないけど……それでも、彼を責める事に関しては、何となく気が引けた。


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