希望も見えずに

裏ウキョウがあの子を殺したり、あの子が何らかの死や不幸な結末を迎える度に、表のウキョウは罪に耐え切れずに世界線を移動する。だから、結局はまた同じ事が繰り返されてしまう。ウキョウの願いである、あの子の幸せと生存が叶うまで。ウキョウは死の運命を繰り返すのだ。

移動する世界線の先では、ウキョウは世界から異物と判断され、世界から排除しようとされる。実際に、彼は何度も死を繰り返している。ウキョウとあの子が同時に存在する世界線が無いのは、彼等が互いに対存在であるから。同じ世界では、どちらか片方しか存在出来ない。だから裏ウキョウは対存在であるあの子を殺して、代わりに自分の方が生き残ろうとしてしまう。…というのは、彼曰く、衝動に対する建前らしい。

あの子を殺した所で、干渉者であるウキョウが世界から排除される事象は変わらない。何度か繰り返す内に、裏のウキョウはこの事に気付いたらしい。実際に、ウキョウが最初にあの子を殺してしまった時に、私も経験している。

つまり、どう足掻いても……世界線を越える度に、ウキョウは世界から消される運命にあるのだ。ウキョウの願いが叶わないと言っていた根拠がコレだ。

ニールも表のウキョウも、気付いてない。この絶望的な条件を覆す為の対策は……未だに見つかっていない。二人で回避方法を模索するも、やはりダメで。今も完全に八方塞がりな状態が続いている。何だかんだで振り出しに戻った感が否めない。



「あー…クソッ。やっぱあの女殺して来る」

『だから、それはやめてあげてってば』



このやり取りも、もう何度目になる事か。メイドの手作りパフェ事件も、今では『そんな事もあったねー』なんて、懐かしい思い出話と化している始末だ。…なんて言うか、ちょっと切ない。

裏のウキョウの殺人衝動は、止められる時は止めるけど、勿論無理な時もある。そういう点では、私も表のウキョウとは同罪か。…いや、私の場合、見て見ぬフリをしてるのだから、尚更質が悪いかも。



『どっちも効率は悪いけどさ、あの子を殺さないで、生き延びて願いを叶える努力をした方が良いし。ほら、結構危険を回避出来る様になってきてるし』

「何でお前は、絶望的な状況にも関わらず、いつも笑ってられんだよ」

『ウキョウだって、あの子を見てる時とかあの子を殺す時にはいつも笑ってるでしょ?』

「前者は兎も角、後者を話の引き合いに出すのはどうかと思うぜ…オレが言うのも何だがな」



ははは…と、ウキョウの言葉に渇いた笑みを浮かべる私は、やはり笑っていた。別に、現状に対して笑って楽観視をしている訳では無い。ただ、少しでも彼の気の休まる存在でありたいから、なーんて事を考えていたりもする。これは、ウキョウに対する同情…なのかな。

それとも……



「…まぁどっちにしろ、もうあまり時間も残ってねぇみたいだしな」

『……?』



裏ウキョウ曰く、以前と比べて、ニールの力が弱まってきているっぽいとか。これにより、世界線を越える回数にも、限度がある可能性が浮上してきたらしい。無理もない。もう何度繰り返しているのか、数え切れない程度には、彼は世界線を越え続けてきているのだから。



『もしもこのまま、ウキョウの願いが叶わないまま、世界を移動し続けていたら…』

「いつか遠くない内に、本当の終わりが来るって事だ」



その時ウキョウは、どうするのだろう。死の淵で現状に満足して、あの子の幸せな姿を遠くから見届けながら、そのまま消滅を選ぶのか。

裏の方は、可愛さ余って憎さ百倍。あの子が許せなくて、やはり殺そうとするのかな。そして、世界から排除されて無理心中の様な結末に……どう足掻いてもBADENDですか。何にしろ修羅場は必須、か。



「……で、お前自身はもしその時が来たらどうするんだよ?」

『……どうしょうかなぁ』



ニールの力が完全に尽きて、ウキョウが世界線を移動出来なくなった時。おそらく私の記憶移動も生じないだろう。この条件下でウキョウが世界から殺された場合、今まで同様、私も世界から強制的に排除されるのだろう。

そんな絶望しかない状況に陥ったとして、私はどうするかな。腹いせに復讐とかやってみる?いや、復讐なんて、世界に対してどうやれと?ウキョウの願いに巻き込まれたせいだって彼を責めるのも、今更感が半端ないし。それ以前に復讐とか柄でも無いし、そもそもやる気からして無いので、到底無理だろう。

だから、もしもその時が来たら、私は……



『…ちょっと考えとく』

「やっぱりお前、馬鹿だろ」



私はきっと、今までと何も変わらず、ただただ死を受け入れるだけだろう。


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