細やかな意趣返し

俺はあの子が幸せなら、それで良いんだ。幸せなあの子を見た後に死ぬのなら、それでいい。いっそ、本当にそのまま死ねたら…幸せそうなあの子の笑顔を目に焼き付けて、そのまま眠る様に死ねたら……それだけで、幸せなのに。

また、次の世界線で目が覚めるんだ。



「オレ自身が望んだ事なのに、自分勝手だよね。本当に」



冥土の羊へモーニング目的で向かう道すがら、そう内心を吐露したウキョウは、いつにも増して弱気にだった。流石のウキョウにも、諦めが入ってきたらしい。

例え願いが叶わなくても、幸せそうなあの子の笑顔がまた見れただけで、もう自分は十分だと。

じゃあ、望んでもいないのに同じ様に繰り返す私は…?



「……キキョウ?」

『……今日の朝食はウキョウの驕りね。メイドの手作りパフェ付きで』

「えぇ!?何でいきなりそうなるの!?」

『何か無償にムシャクシャしたから』

「ちょ、それってかなり理不尽じゃない!?」

『たまには私のせいでウキョウが振り回されるのもいいでしょ?』



そうでなくとも、毎回ウキョウの願いに巻き込まれてて、割に合っていないのだから。肩を落とすウキョウの隣で、少しだけ拗ねてみる。…とは言ったものの、朝からあのパフェは流石にキツイよなぁ…なんて、かなり重大な事に後から気付く。よし、頼むだけ頼んで、食べれるだけ食べて、あとはウキョウに頑張って貰うか。あの子の手作りパフェとなれば、きっとウキョウは涙を流しながら完食してくれる事だろう。どっちの意味で涙を流すかは知らないけど。

地味ながら結構な嫌がらせである。

そして有言実行してみたら、帰宅するなりウキョウは倒れました。どうやら消化器官に深刻なダメージを受けた様子。そうしてウキョウと入れ代わる様にして出てきた裏ウキョウも、同様にダメージを引きずっていた。そりゃあ、同一人物なのだから当たり前である。不幸中の幸いは、表のウキョウと裏ウキョウは記憶を共有していない点だろうか。今度は毒でも盛られたのかと苦し気に問うてきた事情を知らない裏ウキョウに『朝から冥土の羊のモーニングとメイドの手作りパフェを食べて来たからだよ〜』と事実を端折って説明してあげた所、彼は再び殺意を燃やし始めた。あの子に鼻の下を伸ばしてパフェを注文した自分に対してか、はたまたパフェを作ったあの子に対してか。どちらにしろ、裏ウキョウが事実を事細かに知ったら、この世界線での私の死因は、パフェを食わされ死になる事だろう。



「あー…クソッ。やっぱあの女殺して来る」

『だから、それはやめてあげてってば』



どうやら怒りの矛先は、やはりあの子に向いたらしい。ソファーでダウン中なウキョウに胃薬を渡しながら、私は何食わぬ顔でしれっとしらを切り通すのであった。


―――――――――
この頃のウキョウの消化器官は、まだ反応が正常だった模様。ニールの力で死と生を繰り返すうちに、身体も丈夫になったんだろうね。味覚音痴や鉄の胃袋とか知覚鈍麻(致死レベルじゃない痛みに限る)とかの弊害付きで。



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