大樹と女神

大いなる実りを発芽させる事に成功させたロイド達が地上に降り立つと、そこに女神マーテルがいた。

驚きの表情を浮かべるロイド達を前に、彼女は優しく微笑む。



「…私はマーテル。人々の希望が…そしてロイド。貴方の希望が、私をよみがえらせた」

「…姉、さま…?」

「…いいえ。私はマナそのもの…大樹そのものです。大いなる実りに吸い込まれた沢山の神子達の象徴。大樹と寄り添う為に誕生した、新たなる精霊…」

「……っ…」



マーテルへと歩み寄っていたミトスの動きが、ピタリと止まった。震える声でマーテルに尋ねるも、首を横に振られてしまう。



『ミトス…』

「分かってる……四千年前、この為に姉さまは……」



そこから先は言葉にならず、ミトスはうつ向いてしまった。自嘲に近い、悲し気な笑みを力無く浮かべるミトスの肩に、女神マーテルの手が触れる。



「……けれど、ミトスの姉であったマーテルは、私の中の一人として…今も生きています」

「……っ!?」



弾かれた様に顔を上げ、驚きに瞳を見開くミトス。そんな彼に、女神マーテルは優しく微笑み掛ける。



「世界は再び一つの姿になり、種子もまた私と共に新たな目覚めを迎えました。

……有り難うミトス。私の最後の願い……叶えてくれたのですね」

「姉さま……っ」



それは、精霊マーテルの言葉ではなく、ミトスの姉であったマーテルとしての言葉だった。

感情を堪えきれずに、ギュッ…とマーテルに抱き着くミトス。マーテルは、そんなミトスをあたたかく抱き締め返した。



「ねえサク……ひょっとして、マーテルさんがこうして現れる事も知ってたの?」

『さあ……どうかな』



マーテルと再会したミトスを見ていて、ふと疑問に感じたのだろう。コレットが首を傾げながら、サクへと視線を向けている。コレットの疑問の声に対し、サクは曖昧に微笑むだけだったが……その答えは、きっとYESで間違いない。

この後、まだ芽吹いたばかりの小さな大樹が枯れないよう、大樹となる樹を慈しみ、愛する事を……ロイドは約束した。そして、その契約の証として、ロイドが大樹に新たな名をつける事となった。



「ロイド、名前を決めてよ。私達…みんなの樹に」

「コレット…」

『私もロイドが適任だと思うよ。ね、ミトス』

「姉さまの樹に変な名前つけたら承知しないけどね」

「………」



ニッコリと妙に黒い笑顔のミトスに、若干冷や汗を流しながらも……ロイドはう〜んと考え始めた。

アシェルの時も思ったけど、名前って大切だよね…と、サクは個人的に思う。



「…この樹は世界を繋ぐ楔なんだよな…」

『……ゴンザレスは止めてね』

「Σなっ!そんな名前にはしねーよ!!」



今ちょっと決め掛けてただろ。不自然に焦るロイドを、ミトスとサクがじと、っと睨む。あれは単行本表紙裏のギャグだけでいい。



「よし、決めた!!この木の名は―――…」



ロイドの決めた大樹の名前に対し、ミトスが驚きに瞳を見開く中、サクとコレット……そして女神マーテルは、優しく微笑んでいた。

かつて世界を救い、統治し、歪んだ形で支配した者の名は……こうして、世界を守る樹の名として、新たに生まれ変わったのであった。


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