試練を受けし者
『ロックマウンテン!アシェル!』
「魔王地顎陣!」
ドゴオッ
精霊の加護が宿った譜術(魔術?)が、通常以上の威力で炸裂する。詠唱破棄で、今のは三割増し位。
そこへアシェルがすかさずFOFを重ねて、攻撃を繰り出す。
『(さぁ、どう出るボルト?)』
この隙に全員にリザレクションを唱えておく。この間、間違っても気を抜いたりはしない。
相手は精霊。世界にマナがある限り、完全に倒す事は不可能だ。それこそ、超振動でも使って対象のマナを世界から全て根こそぎ消滅させない限り。
とはいえ、サクとてそこまでする気は無い。今回の目的は精霊の消滅ではなく、契約だ。ボルトに力を認めて貰えなければ、意味が無い。
そして、認めて貰わなければならない契約者は……シイナ。
<<…、………>>
バチバチッ
ボルトが苛立ち始めたのか、電気を帯びた空気がより一層強さを増してビリビリと痺れ始めた。此れは不味いな……と、内心サクは焦る。
このまま私とアシェルが応戦し続けても、事態は進展しなさそうだ。
シイナが試練(自身のトラウマ)を乗り越えなければ……ボルトは契約を認めてはくれない。
<<…、―――!>>
『(!来るか……って、えええ!!?)』
ビシャッ、バリバリバリィッ
天井全体が真っ白に光る寸前、サクが本能的に超振動を全力で発動させ、ボルトが落とした強力な雷撃を相殺させた。
何のモーションも無くいきなり自然の脅威を剥き出しにされては、流石のサクでも対応しかねる。先程相殺出来たのですら、奇跡に近い。
詰まる所、二度目の奇跡は―――…きっと無い。
『(コイツ……怒りに身を任せて私達を本気で殺す気!?)』
「サクっ、大丈夫か!?」
『いや、さっきのは流石に効いたよ……』
一気に荒くなった呼吸を整えながら、珍しく緊張した様子のアシェルに返事を返す。
「どうする?このままだと俺達でも全滅しかねるぞ」
『一時撤退、出来れば良いんだけど……』
チラリ、とアシェル以外のメンバーを再度見渡す。先程高位の回復術を使ったにも関わらず、ほぼ全員が満身創痍。オマケにシイナが戦意を喪失したままだ。そんな心理状態で、試練を乗り越えるのは不可能な上、この場からの撤退すら危うい。
『……無理じゃない?』
「だよなぁ」
私の反応から現在の状況を読み取ったようで、苦笑に苦笑で返される。
「最終手段……疑似超振動を起こして戦線離脱するか?」
『それしか方法も無さ…っ!』
バリバリッ
瞬間、ボルトの雷が音叉を構えるサクの脇をすり抜けた。今のは完全に隙を突かれた!
「!しまっ―――…」
「シイナっ!」
バチバチバチィッ
ヴォルトの狙いがシイナだとアシェルがいち早く気付くも、時既に遅し。サクとアシェルが振り返った時には、咄嗟にシイナを庇ったコリンに雷撃が直撃した後だった。
自身の目の前で身代わりになったコリンを前に、漸く正気に返ったシイナの悲痛な叫び声が響く。
『………っ』
契約なんて、もうどうでも良い。
ギリッ、と音叉を握る拳に力が入る。静かにキレたサクの纏う雰囲気が、ゆっくりと変化していく。
サクに向かって放たれる雷が、彼女が纏う第二超振動で全て相殺される。そんな中、サクはゆっくりと詠唱を紡ぎ始めた。
『音素よ集え、我に従え。終焉の導きを彼の者に示さん…』
いつの間にか、ロイド達も回復している。リフィルとアシェルに回復されたのだろう。呆然と、彼等が此方を見てるのが気配でわかった。
下手に手を出すと、逆に殺される雰囲気を感じたのかもしれない。アシェルも既にローレライの鍵を鞘に収めていた。
『シイナ、いけるね?』
「ああ……もう大丈夫だ」
符と狐鈴の鈴を構え、立ち上がったシイナを横目に、サクはボルトに向けて音叉を構えた。詠唱はもう済んだ。属性を問わずに濃縮されたマナが、譜陣内に収まり切らずに足元に展開されている譜陣から吹き上がり、サクの衣服や髪をはためかせている。マナを一時的に取り込んだ光の羽根が、苛烈に煌めく。
「降霊召符―――狐鈴!!!」
『エンド・オブ・フラグメント!!!』
ドガアアアアン
シイナとサクが同時に放った攻撃が、ボルトに直撃した。
サクの怒りの矛先は、ボルトに向けているのか、無力さを悔いる自身に向けているのか、分からない。
けど、この無力さを噛み締める怒りは、あの世界にいた時以来、久しぶりに感じるものだった。
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