誰が為に鐘は鳴る

ルーク達がヴァンとの決着を付け、外郭大地降下作戦を無事にやり遂げてから……一ヶ月程が経過していた。

ローレライ教団では預言の読み上げは導師イオンの意向により中止されたままであるが、預言を求める市民の声は、募るばかりだ。世界は大きく変化したが、人々は何も変わっていないのかもしれない。これから変えていけるのか……為政者達の力量が問われる所だろう。

問題は他にもある。地殻にローレライが閉じ込められている事により、第七音素の総量が減り、プラネットストームは活性化し、これにより障気が復活してしまう可能性があるらしい。既に障気が発生している場所も出てきている事からも、早急に対策を求められているが……未だに解決案は見出せていないのが現状だ。プラネットストーム活性化の主な原因であるローレライを解放する為に、アッシュ達はローレライの鍵…宝珠を捜している。

アッシュが宝珠を捜して各セフィロトを周っていた際に、ラジエイトゲートに残されていた筈のヴァンの剣が消えたという報告も入っている。最近ヴァン側についている六神将達が影で再び動き始めているらしく、アッシュの証言からも、ヴァンが生きている可能性は高い。

また、"死者こそ出なかった"ものの、国軍の部隊が遠征中に何者かに襲撃されたという報告も両国側から上がっている。襲撃者達が、各々相手国軍の部隊であった、または神託の盾兵の部隊であった…等と、情報も錯綜している。

世界が混迷を極めている最中、次々と浮上してくる様々な問題。事の真偽を確かめる為にも、各国の代表として、必然的に再びルーク達が集まり、教団本部で話し合いが行われようとしていた所で、事件は起きた。

イオンがアニスに連れ出され、それを追おうとしたルーク達の行く手をリグレットが阻んだ。


 
「動くな」

「リグレット教官!」



数名の神託の盾兵を従えたリグレットに銃口を突き付けられ、ルーク達は足止めされる。廊下にイオン達の姿は既になく、彼らはあっという間に神託の盾兵達に囲まれてしまった。



「これは何の真似だ!?」

「今、お前たちに動かれては迷惑なのだ。それにローレライの鍵についても聞きたいことがある。大人しくしてもらうぞ」



ルークがリグレットを睨みつける。彼女は第六師団により教団へ護送された後、現在は厳重な監視下に置かれていた筈だったが……どういう訳か彼らもまた、アッシュ同様ローレライの鍵をさがしている様だ。活路を開こうとティアがリグレットにナイフを投げるも、一投目は軌道を読まれ顔を逸らして避けられ、二投目も難なく譜銃で防がれてしまう。



「投げに移る動作が遅いと言っただろう! 同じ間違いを二度犯すな」

「……くっ」



譜銃に刺さったダガーが振り払われ、カランと音を立てて床に落ちる。ティアが悔し気な…そこに複雑な色を混ぜた表情で、唇を噛み締めた。と、そこへライガに乗ったアリエッタが神託の盾兵を蹴散らして現れた。彼女はルーク達を背に、リグレットと対峙する。



「……イオン様に何をさせるの。リグレット」

「アリエッタ!そこをどきなさい!」

「イオン様に第七譜石の預言を詠み直しさせるって本当なの!?」



リグレットから銃口を向けられながらも、アリエッタは怯まず相手を睨みつける。ルーク達も、これには驚いて顔を見合わせた。



「導師イオンに惑星預言を詠ませる?そんなことをしたら……」

「体の弱いイオン様は死んでしまう!アリエッタ……そんなの許せない!」


ティア達の顔色が変わる。リグレットはアリエッタに言い聞かせるように落ち着いた声音で語りかける。


「あなたが望むフェレス島復活のためには必要なの。…分かるわね?」

「ルーク!イオン様はアニスがここの教会にあるセフィロトへ連れてった!」

「アリエッタ!」



聞く耳を持たずに叫んだアリエッタに、リグレットは銃の引き金に指を掛けた。焦りと怒声を滲ませるリグレットに対し、しかしアリエッタも引き下がらず、両手を握り締める。



「アリエッタ…やはり、裏切るのだな。ならば最早容赦はしない。お前も閣下の敵と見なし、排除するまでだ」

「っ…!アリエッタ!!」

「行って、ルーク!」

「けど…」



アリエッタから構わずに行ってと急かされるも、ルークは承諾しかねて躊躇う。アリエッタも六神将の一人であり、戦闘における実力は確かに高い。けれど、相手のリグレットも同じ六神将であり……両者互いにただでは済まないであろう事は予測される。最初は敵だったが、旅の途中でサクを介して和解してからは、色々と協力もしてくれた彼女を、見捨てる様な真似はし難かった。

そんなルークの迷いを、リグレットが見過ごす筈がなく。僅かに生まれた隙を突いて、銃口をルークへと向けられたが……引き金を引く寸前に、リグレットは咄嗟にその場から飛び退いた。直後、彼女が先程まで立っていた場所にサンダーブレードが落ちた。一同が驚く中、アリエッタの隣に、もう一人の人物が現れる。



『厳重監視下にありながら教団への反逆と見做される言動と行動を取られるのは、あまり感心できませんね。リグレット響手』

「!ユリアっ!」

「ここは我々に任せて、皆様はイオン様を追ってください!」

「フレイル!」



導師守護役ユリアと第六師団兵を引き連れたフレイル達の加勢により、状況は一変。今度はリグレット達が囲まれる側になっていた。



「ルーク!例の隠し通路へ行きましょう。確かにアニスの様子はおかしかった」

「分かった。アリエッタ、ユリア、フレイル!ありがとう!」




ジェイドが床を蹴り、神託の盾兵達の間を突破し、その後にルーク達が続いた。走り去る彼等を行かせまいと、譜銃で追撃しようとするも、ライガに目標を阻まれる。



『さて、これは一体誰からの命令によるものか、答えて頂けますか?』

「チッ…」



BCロッドの先をリグレット達に向けて問い質すと、彼女は懐から素早く何かを取り出し、床に投げ付けた。直後、そこから煙が発生し、視界が塞がれた。直様譜術で風を起こして煙を晴らしたが、既にリグレット達はこの場から姿を消していた。どうやら先程のは煙弾だった様で、此方に対して多勢に無勢と判断してくれた様だ。



「追いますか?副師団長」

「いや、必要無い。当初の予定通り追跡は他の部隊に任せ、我々は次の行動に移る」

「はっ!」



適確に状況を判断し、きびきびと部下に指示を飛ばすフレイルは流石です。同部隊の部下達からの信頼もなかなかの様だ。と、ここでスカートの裾をくい、と軽く引っ張られたので、視線を落とすと、アリエッタが不安そうな顔をしていた。



「サク、イオン様…大丈夫だよね?」

『うん。任せて』



イオンの身を案じる優しいアリエッタに、サクはフッと笑みを浮かべる。

はてさて。シナリオ通りなら、主犯は彼等に踊らされたモースなのだが……今回は違うだろう。良くも悪くも、今のモースは預言に固執していない。彼等の口車に乗るとは考えにくいのだ。となると、主犯はやはり……あーもぅやっぱり面倒くさい。


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