所詮、夢。



ふわり、
優しい風が吹いた気がして、フッと目を開けば、そこは懐かしい風景だった。


整えられた庭。明るい日差し。
私が着ているのは半兵衛様が私に下さった戦装束ではなく、紅の着物

確か、今は天君に乗って寝ていたはず・・・
ちょっと前に歩君から助言があったから天君の籠に身体を縛りつけておいた・・・のに・・・


いきなり変わった景色にきょとんっとしてしまうのは、しかたない。
どうして、だろう・・・


座っていた体制からゆっくりと立ち上がると、また風が吹く。
そうすれば、ふわりと肩ほどに伸びた髪が揺れた。


やっぱりおかしい。



『(こんなに、伸びてなかったのに・・・)』



戦うのに、長い髪は邪魔だ。
だから、一定までに抑えていたのに・・・



「よぅ、kitty」

『政宗・・・』

「こちらに居られましたか!」

『真田殿・・・』



なんて、ぼーっとその情景を見ていたら私の姿を見てか、私へと声をかけた政宗と真田殿。

政宗は奥州で一揆があったからそっちに行ってて・・・でも真田殿は、関ヶ原にともに向かっていたはず・・・

なのに・・・



「石田殿が探しておられましたゆえ、」

「なんでも、上田に花見に行くとよ。」

『は、なみ・・・?』

「某は京に祭りに出かけると・・・」

「それ、家康からだろ?」

「うむ!」



三成さんが、探していた。

それは凄くよく分かる、だけど、その理由が花見で・・・

真田殿から言われたのは、京への祭り・・・彼が言伝を頼まれたのは・・・彼が敵視していた家康で・・・


頭の中がグチャグチャしてくる。

一体何が、どうなって、こうなっているのか・・・


おかしい、こんなの、おかしい・・・



「早く行こうぜ?」

「そうでござる!」



けれど、二人に手を引かれて着慣れない着物に足を取られながら歩く。

途中で女中の皆さんにとてもほほえましい視線を送られたのはとてつもなくくすぐったかったが、どうしてか、この世界がとてつもなく、心地いい。



「弥月君、遅いよ!」

『っ』




けれど、連れてこられた場所には、白。
赤とは程遠い、白・・・。



『は、ん・・べえ・・さま・・・?』



私の目の前で散った、その人が私に向かって微笑んでいる。
あの、紫色の仮面をつけず、鶴の描かれているすみれ色のグラデーションのかかっている着物を着て・・・私に・・・


その後ろには、三成さんと家康。
そして、家康に討たれたはずの秀吉様が、彼等に微笑んでいる。


トクトク、トクトク


変に心臓が脈を打つ。



「弥月君?」

『なんて・・・酷い・・・っ』



夢なんだろう。



呟くようにそう言って、顔を覆った。
ポロポロと涙が流れる、


足に力が入らなくて、崩れ落ちる。

膝を強打したけれど、でも、痛みなんてない



「弥月君!?」



焦ったような半兵衛様の声。
でも、私にはそれが本物にしか聞こえない。

あぁ、なんて欲望に忠実な夢なんだろう・・・。


上田の花見も、京の祭りも・・・私が半兵衛様の死に際に言った言葉だった。
だから・・・ここ一番、というときに、こんな平和な夢を見てしまった。



『生きていたときに・・・行きたかったっ』

「・・・弥月君・・・」



おもわず、言ってしまった言葉に弱弱しい声が返ってくる、
ゆるゆると顔を上げれば、そこにはいつもの格好の半兵衛様が居た。

仮面をつけて、白い戦装束。


私の格好も、いつもの装束になっていた。



「キミには、辛い道を歩ませてしまったね。」

『・・・っ』

「ごめんね、弥月君。」



ポンポンッと頭を撫でられて、だんだんと半兵衛様の背景が闇にまぎれて行く



「弥月君。
 キミは_になる素質があるんだ。」

『え・・・』

「だから・・・どうか、三成君を・・・』






完全に闇にまぎれた世界で、家康と三成さんが対峙をしている。



それがその夢の最後。









ゆるっと、目を開けば、まだ、暗い。
けれど天君の揺れが無いから、きっともう戦場に着いたのだろう・・・


もう戦が始まるんだ






所詮、夢



寝ながら泣いていたのか頬が冷たかった。

でも、それを無視して、日の出を拝める。



どちらかが死ぬ。



それが、戦。


執筆日 2013


[ 36/80 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -