あれから・・・幾月・・・。
かすがの様子も知らないし、俺様はあの家を出た。
思い出が多すぎて・・・辛いから・・・
だから・・・飛び出た。
先生の形見である、大手裏剣・・・
それだけをもって、先生が教えてくれた方法で先生がほめてくれたこの髪を黒く闇色に染めた。
それから、ただただ、歩いた。
でも、大手裏剣以外に持ち物の無い俺様は襲ってきた山賊を殺して、金目の物をって生きてる。
さっそく、俺様は人ならざるもの・・・。
『(先生・・・)』
もう俺様・・疲れたよ。
凄く長く、長く歩いたんだ。
だって、先生達が帰ってこなくなってすごく時間があったんだ。
もう、いいんだよね、先生・・・
いつもの忍装では無い、
俺様はただの着流し・・・
先生は・・戦場で堂々と散ったんだろう・・・でも・・・
俺様は・・・先生のそばにいけるならどんな方法だっていいよ・・・
ドサリっと、人気の無い竹やぶの中に、座り込む。
ただ一人・・・そう、もう一人・・・
苦笑いしたら、枯れた涙が頬を伝った。
『先生・・・颯斗さん・・・かすが・・・っ』
俺様は、本当に一人ぼっち。
大切なものを失いすぎたんだ・・・だから・・・もう、いいでしょ?
ふところから出したあの短剣を抜く。
刀はさびてしまったけれど・・・それでも・・・まだ・・・斬れるだろう・・・
俺様一人の・・・ 命くらいさ・・・
ソッと首筋に刃を当てた。
このまま滑らせば・・・俺様死ねるかなぁ・・・
「す、すまぬ・・・」
『!』
ビクっと身体が震えた。
はっとして、刀だけは隠す。
これだけは取られるわけにはいかない・・・
グイッと涙を拭って振り返る。
そこには赤いはちまきをつけ、赤い装束に身を包んだ男。
茶色の色素の抜けた髪が、少し後ろだけ長いのか、結っている。
明らかに年下・・・。
目元が赤いから・・・泣いていたんだろう・・・。
俺様も・・・さっきまで泣いてたけど・・・
立ち上がれば、その男の視線が泳いだ。
『何の、よう?』
それから小さく言葉を発すれば、「た、武田の者か?」なんて、聞かれた。
あぁ、ここは武田なんだ・・・
随分・・・遠くまで来たな・・・なんて、思った。
でも、もうあまり興味が無いけど・・・
『いんや、俺様ただ旅してるだけ。』
「な・・あの・・」
『もしかして、この竹やぶで迷ったの?
アンタ、バカでしょ。』
「そ、某はバカではござらぬ!」
クスリっと笑ってしまった。
少し、目が離せない子だね・・・こういう子は・・・
でも・・・
故意に迷子になった・・・って言うわけじゃなさそうだね・・・
『ねぇ、俺様アンタの行きたい所まで送ってあげる。』
「よ、よいのか!」
『うん、俺様、ちょっとそこまで・・・用事があるみたい。』
にこっと笑って、大手裏剣を出せば驚いたように眼を見開いたけれど、シュっとクナイを投げれば、それは後ろにいた忍にあたり、倒れた。
「んな!」
『下がって・・・あんた、どこのお坊ちゃま?
こんなに敵兵引き連れて、武器を持って無いなら・・・護ってあげるから、ちゃんと後ろに隠れてて?』
そして、現れたどこぞの忍隊に目を見開いた。
それだけで敵だとわかり、後ろに下がらせる。
見たところ、武器も持ってないから、そう言って・・・
別に・・・護りたいわけじゃないけれど・・・
ただ・・・
送り届けるぐらいいいかな・・・なんて・・・
執筆日 20130129