静かな森の中に似合わない金属のぶつかる音。いくつかの音と共にしゅっと二つの黒い影が森の中を駆けた。
漆黒の黒い髪。そして夕日のような橙色。
金属音の正体は二人の手に握られているクナイから奏でられるものであり、地面にも同じものがたくさん転がっている。
「止め。」
シュンっとそのクナイの残骸の中に漆黒の髪をもつその男が降り立った。手に握っていたクナイをその言葉と同時に落とせばカランっと乾いた音が響き、片手をあげる。
その男と同じように地面に降り立つ夕日色。その身を伏せ、いまだに握られているクナイとその表情は真剣そのものだ。
しかし「佐助」と漆黒が声をかければ、構えていたクナイをおろして、へらりっと笑い、『また引き分けですねー』とそう笑う。
それから立ち上がり、手に持っていたクナイを同じく地面に落とす。
夕日色………猿飛佐助は目の前に居る漆黒………猿飛終夜の弟子である。
そして、二人は忍である。
佐助にいたってはまだ修行中…
その実力は確かなものだが、終夜はまだまだだと語り笑って見せる。
「あぁ、そうだな」
『次は絶対に勝ちますからね、せんせー』
「はは、こりゃ大変。」
そして二人は、普通の忍の師弟の関係とは違う。血こそ繋がらないものの、兄弟のように…家族のように、二人の絆は深く、そして普通だった。
ただ、普通と二人は違う。彼らは死を恐れぬ忍……所属した軍から依頼されれば、人を殺し、常に戦の………死の最前線に立つ。死に一番近い者…。
今の訓練も相手に向かってクナイを投げ、それを打ち落とすというものだ無論、怪我も当たり前。
まだ軍に所属していない佐助に対し、終夜はある軍に所属する忍頭でその力は伝説の風魔一族に負けずとも劣らない。
ワシャワシャと佐助の頭を撫でる終夜に、そんな面影は無いのだが…
「今日は町へ降りて団子でも食おうか。」
『甘味?』
「そ、新しくうまい店が出来たんだって。」
『行くー!』
歳の離れている兄妹…または親子とさえ間違われるだろう、その様子。
これを、初めて見た終夜の部下は思わず固まったという…。
あの忍頭があんな柔らかい雰囲気で話すなぞ槍でも降るのではないかと
忍化粧を落とし、着流しに着替えた二人は、今はただの人。
手をつなぎ、並んで歩く二人を誰が忍と…人殺しといえようか、闇で隠す、その姿は明るい世界には目立ちすぎる。
普通を与えたい終夜だが、鍛え上げた佐助の能力は手放すには惜しい。
矛盾…。
しかし佐助を一人にすることを、彼は出来なかった
「佐助、何食べる?」
『俺様、せんせーとおんなじのでいい。』
「あは、そうか。旦那、あんこ二つー!」
*-*交わらない世界*-*
(佐助、口元あんこついてる。)《う?》(ほら、とってあげるから動かないで。)
普通の世界と非情の世界
その狭間にまだ、佐助は居るのに…
その背を普通の世界に、彼は押せなかった
執筆日 20130116