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あいつが俺の大切な人だった。

たった一人の・・・気付いたときには・・・・






「・・・」


中一のとき、幸村の前の席にいた女子で、
テニスラケットを持って微笑んでいるのが第一印象じゃった。いつもきりっと清ませているくせに、ラケットを振らずに手に持っているときは、優しく微笑んでいた。幸村と話す内容もすべてテニス、たまに花やクラスのこと。面白い奴じゃ、と思った。


「のぅ。」
『?』


初めて声をかけたのは、中一の雨の日。

その日は結構雨がふとったから部活は急遽中止で、下駄箱で空を見上げている彼女に会った。俺の言葉にきょとんっと振り返った彼女の手に傘はない。


『はい、私に何か御用でしょうか?』


一度、彼女はきょろきょろと周りをみて、首をかしげた。別の人間に話しかけちょると思ったんじゃろうな、話しかけたことなかったし。
ククっと思わず笑ってしまった。


「お前さん、柳生秘歌理じゃろ?ほら、幸村と同じクラスの、」


それからそう返せば、彼女はマユを寄せた。そして俺から少し視線を外し、クイッと眼鏡をその細い指で押し上げる。


『えぇ、確かに私は柳生ですが。私は貴方の事を全くといっていいほど存じ上げておりません。』


不愉快です。と、彼女は言い切った。今度は俺が驚く番じゃった。
テニス部で俺も含めた数名は中1じゃけど準レギュにはいっとったし、なにより、俺は女に困っとらんかった。

何度が呼び出されて告白されとったしな。じゃから、こんな風に扱われるのは初めて。でも、彼女がいっていることは一理ある。


「すまんすまん、俺はE組の仁王、仁王雅治じゃ。お前と仲良しさんの幸村と同じテニス部じゃよ。」
『…テニス。』


俗に言う、含み笑いという笑みでそういえば、柳生は俺の名でなく「テニス」というキーワードに反応した。
それに少しイラっとしたが、どうしても、俺は彼女の気を引きたかった。


「のぅ、お前さん、傘もっとらんのじゃろ?俺持っちょるし、近くにインドアテニスコートがあるんじゃが、今から行かんか?」


じゃけ、そういえば、きっと彼女はのってくれるんじゃないかと、そういう淡い期待を込めたのだが、彼女がとった行動はうさんくさそうに俺を見たあとに、降り注ぐ雨の中に駆け出していったのだ。


「おっおい!」


思わず手を伸ばしたが、その手すらひらりと交わして、もう彼女は俺に振り返らなかった。



あの日からじゃ
いつの間にか柳生を目で追う様になったんわ。

同じクラスでもない、委員会も違う、部活も違う。でも、必ず視界の端に柳生がいる。それが嬉しいようで、自分がわからんくて・・・。


「仁王、どうした」
「参謀・・・俺変なんじゃよ・・・」
「ふむ・・・」


やはりそういうのは態度に出てしまうんじゃ老。参謀にあって思わずいってしまった。
参謀はいつももっているノートを片手に開く


「丸井、幸村、弦一郎、ジャッカル、そして、俺と仁王。」
「?」
「全員が全員、彼女を気にしているということか。」
「なに「がだ、とお前は言う。 答えは柳生秘歌理だ」


そして、長ったらしく何か言って、そう言った
彼女の名前を聞いた瞬間ドクンっと体が一瞬疼いたが、なるだけ平静を保った。しかし、参謀にそれが通じるはずもないことは百も承知。いっそこれがブンちゃんや真田だったら・・・なんてな。


「さっき名を上げた・・・そうだ、時期レギュラー候補全員、そして現部長、レギュラー陣も彼女には一目置いている。特に、精市、弦一郎は彼女に練習の手伝いを所望していてな、彼女の部活のない日には手伝ってくれることになっている」
「!あいつがか・・・!」


そしてその言葉を聞いてフっとテンションが上がった。ククッと笑う参謀にはめられた気しかしないが…
・・・いや・・・きっと最初から気がついていたじゃろうがの・・・


『柳君・・・と・・・貴方も居ましたか、仁王君。』


なんておもっとったら本人が来た。でも俺をみて眉を寄せる。柳に用があったところに俺がいたわけだから仕方ないが、だがその反応にはマー君ちょっと傷つくなり。


「お前から来るとは珍しいな。」
『あぁ、すこしお知らせがありまして、図書館に柳君の読みたいといっていた文庫が一式入ることになったんですよ。』


あまりにも俺の態度と違う。
固まってしまったのは仕方がないだろう。いや確かに俺はあまり本に興味はないが、あきらかな疎外感に口をつぐんでしまった。


「それは本当か、嬉しいな。」
『えぇ、私も気に入っている作者ですから、アガサクリスティの・・・あっ』


けれど、軽く話した後、はっとして俺を見る。それから怪訝そうにマユを潜めた。俺に好きなものを知られるのがそんなに嫌だったのだったのだろうか。


『これにて私は失礼します、よかったら感想教えてくださいね。』


にこり、参謀に笑みを向けて、教室を去った


「・・・随分と嫌われているようだな」
「・・・ピヨ・・・」


参謀、気にしていること言うんじゃなか




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