オレがあいつと会ったのは、中一の夏。
幸村のように同じクラスだったというわけでもない、委員会や係、部活が同じだったというわけではない。幸村や蓮二に聞いて、偶然立ち寄ったストリートテニス場にあいつが居て、やはり幸村達を通じて交流を持つようになったのだ。





『弦一郎君、きっと大丈夫ですよ。』


あの日俺にそう言ったのも秘歌理だった。
幸村が倒れたあの日、俺の言葉に一番に反応したのは秘歌理、救急車が来たあと、状況を説明したのも秘歌理、慌てる俺たちに渇を入れたのも秘歌理だ。本当に、落ち着いて大人びた奴だ。だが、人知れず流した涙はある。


『精市君、気づけなくて、本当に申し訳ありませんでした・・・っ』


部活が始まったのにもかかわらず秘歌理は来なかった。不思議に思って捜してみれば屋上、あいつは静かに誰にも悟られずに涙を流していた


それを観て、静かにその場を去る。
当たり前だ。あいつは女。俺たちの中で一番、何かを追い求めている。
それは何かは分からないが、俺にはとうてい理解しきれないものだろう。

それをあいつが素直に言うとは思えない。ただ俺たちは仲間だ。
そういえば、あいつは「そうですね」と笑うに決まっている。





『私は賛成できません。赤也君に負担が掛かりすぎます。』


全国大会準決勝を控えたあの日。ある作戦に反対したのは秘歌理だった。
それは、赤也のデビル化。立ち上がって机にドンッと手をついた秘歌理ははっきりと苛立ちを現していた。あまり感情を、特に怒りをさらけ出さない彼女の行動としてはひどく物珍しいもので、蓮二が持っていたシャーペンをおとした。


『私が負け試合をするのは全くもって構いません。いくらでもどうぞ。ですが、赤目だけでも、彼は壊れてしまいそうなのにそれ以上を追求するなんて、危なすぎます。彼のこれからのテニス生命にかかわるかも知れない。そんな事、私は許しません』


だが、それはかたくなに「仲間」のためだと言い張った。己は負けていいといった。赤也は傷つけたくないという彼女の意思だ。


「でもね、秘歌理」
『っわかっては居ます。けれど、精市君だって、分かっているでしょう?私たちが卒業すれば、唯一中学2年生の赤也君は独りぼっちになることを』


何時だって、秘歌理は「仲間」のために己を犠牲にする。
だが、俺たちは


『この、ワカメやろう、とっ』


彼女に一番酷な選択を押し付けた。
皮膚の色まで赤く染め、そして相手をフェンスに沈めた赤也の姿を見ているのすら辛いだろう。
けれど彼女はまっすぐとその姿を目に焼き付けて、静かに一筋涙を流していた。





『これ以上は…もう…っやめてください… っ』


決勝。手塚との一戦。うっ血するオレの足を見て、秘歌理はいった。後悔に眉間にしわを寄せ、涙を溜めて、


「オレは、真っ向勝負は捨てん。」
『ですが、』
「もう雷は打つな。」


オレの言葉に反対しようとした秘歌理。そして、それには幸村もそう言った。ひどく冷め切った眼を向けられていたが、俺には関係ない。


「俺たちは優勝するためにここに居る、」


そう、勝つためならば、俺はこの体が故障しようと構わないと、

オレの試合はその後勝った…否、勝てた。ただ運がよかったことだ。
ベンチに戻った俺に待っていたのは秘歌理からの平手。握りではなく平いた手のひらは俺の頬に紅葉を散らす。けれどそのあとすぐにアイスノンを投げつけられて秘歌理は次の試合に向かった。

手塚から試合が終わったあとに「お前のところのマネージャーは優しいな」とメッセージが寄越されていた、






『私たちももう最後の委員会ですね。』


部活を事実上引退し、そして、秘歌理が言ったとおり最後の委員会だった。朝の風紀検査。

最後、というだけあって、今の所引っかかっている人物は居ない。
それはいいことだ、手元のバインダーにある紙は白いまま、だが…


「秘歌理、妙だと思わんか?」
『…やはり弦一郎君も思いましたか?』


地毛だと言い張る赤と銀がまだ来ていない。それどころか、幸村も、柳も、ジャッカルもまだきていない。赤也は・・・いつものことだ。
だが、しかし、


『こうも全員いないとなると変な気分ですね』
「あぁ、」
『ですが、妙な縁ですね・・・たったひとつ・・・テニスという絆で結ばれた・・・』


静かにそうほほえんで、前を向いた秘歌理は静にその瞳を開いた。手から緑のシャーペンが滑り落ちる。「秘歌理・・・?」と彼女に声をかけたが、ヒクヒクと頬を引く着かせて、目の前を凝視したまま彼女は固まっていた。それに俺も視線をむければ


「おはよう、真田」
「ゆ・・き・・」
「先輩と御そろいっすよ!!」


そこにはなぜか「女子制服」を着ている仲間達が居た。約2名はかつらを被り、その他は楽しんでいる


「たったるんどる!!」


元中間達のい。


この日常が、続くはずだった。
壊したのは俺だ




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