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オレが彼女とであったのは中学校一年生の春
きっと俺はテニス部の中で一番に知り合ったと思う
偶然同じクラスで、「や」と「ゆ」だったから席はオレの前だった。最初、テニスバックかと思ったけど、ゴルフバックで、でもオレの持っていたバックをみて微笑んで『幸村君もテニスをしていましたね』とそういって、そして鞄を下ろし、中からそれを出したから本当に驚いた。
ゴルフバックの奥底に転がっているテニスボール。
それからグリップとドリンクケース、そして袋に入れられているラケット。ゴルフに使わないものがたくさん入っていたんだ。
「ヤーギュ」
そして仁王がなついたということ彼女は苦笑いしながら「柳生です、仁王君」と言っていた
オレはその頃から柳生が・・・否、秘歌理が気になっていたのかもしれない
些細なことでも彼女は気がつき、さらにはゴルフ部が休みのときはテニス部を手伝ってくれていた。
そうやってこっそり、俺たちの手伝いをやっていたにもかかわらず、彼女はそのせいで影から恨まれては居たけれど、俺たちは秘歌理を「男子テニス部」へと迎えた
無論、ちゃんと手段を踏んでね。
放送委員会に協力してもらったりして、彼女を正式にテニス部マネージャー、兼、レギュラーにした。だって強いんだよ、秘歌理は。俺が自信をもって言えるぐらいに。
秘歌理が居なかったときは「3強」とか「立海のビックスリー」とか言われてたのに、今は皆口を揃えて「四天王」っていう
その当時、彼女の髪は長かったし、綺麗だった。
でも確か・・・中学二年生の10月・・・うん、俺が倒れる少し前だからそのくらいに、ばっさりと肩まで切ってしまったんだ
なんでも動くのに邪魔になってしまったからなんて笑っていたけどみんなブーイング俺もその一人だったけど、濃い、・・・どちらかといえば暗い紫色。俺らしく花に例えるなら・・・夜桜かな。
風になびいて揺れるそれがオレはスキだったから
その姿を、もっとコートで見ていたいと、そう思っていたのに、その後、オレは倒れた
ギラン・バレー症候群に酷似した病気
医者を志していた秘歌理は一人、人一倍自分をせめて泣いていたのを蓮二辛きいて、いたたまれなくなった。
オレが自己管理をしていなかったのがいけないのにほぼ毎日来てくれて、俺を励ましてくれた彼女に、少しずつ惹かれたのは確かだった
中3になって、最後の学生生活。そして、最後の試合
関東大会が終わって、彼女が病院に来たとき、彼女は言ったんだ。
『精市君、お話があります。』
はっきりと歪みのない、決意を波乱だそのアメジストの瞳を俺に向けて、
『全国大会の決勝戦。私はレギュラーではなく、マネージャーとして参戦させていただきます。』
彼女はそう言った。静まりきった俺と彼女だけの空間で、四天王と呼ばれた俺たちの中で、彼女は自ら身を引いた
オレの指示した一試合以外は彼女は負けなしだったし、ダブルスでは公式でも練習でも彼女は一度も負けていない。完全なるシングルスの俺と真田。そして、ゲームメイクを得意とする蓮二と、相手の心情を読み取り攻撃をする秘歌理
秘歌理はどんなに個性豊かな面子であっても、どんなに厳しい試合でも、絶対に負けなかった。
「どうして?」
だから思わず聞いてしまったんだ。理由は簡単。オレの考えていたオーダーの中、S2には「柳生秘歌理」と書いてある。公式戦最後の秘歌理のシングルスが見たかった。
本当は、俺は気がついていたから、だから彼女が本当にちからを発揮できるその場所に立ってもらいたかった。
『私は女です。縁があり、こうしてここにいさせてもらっていますですが・・・これから赤也君が一人で戦うことになります。ですから、彼にはちゃんと、戦ってほしい。私は、皆さんを信じて待っています』
ニコリッと微笑んで、そういったもんだから、あぁ、きっとどんなに言っても秘歌理はあの舞台にたとうとはしないだろうなって、苦笑いをこぼしてしまった。
仁王はそれにすごく渋っていたけれど最終的には秘歌理の言葉に承諾して、そして俺たちは負けたんだ
彼女は泣いていた。でも、微笑んでいた。
『お疲れ様でした。精市君。』
そして、オレの名を言った。手渡しでタオルを渡されて、俺は受け取って、汗まみれの顔に押し付けた。
「ありがとう、秘歌理」
彼女なりの気遣い。
オレの瞳は潤んでいただろうか、彼女はオレを分かってくれて、ドリンクよりも先にタオルをくれた。こういうところが本当に狡い。
じんわりと目元が熱くなるのに、耐えられなくて、でもむりやりぬぐって前を向く。
『皆さんも、とてもいい試合でした。私たち中学三年生はこれにて、中学の公式戦は終わることになるでしょう。けれど、私たちの終りは始まりです、ね、精市君』
「はは、そうだね。」
秘歌理の言葉は…本当に俺たちにどれだけの力をくれるんだろう。
「皆、俺たちはこれからもテニスを続けるだろう。3年後。このメンバーで、今度こそ全国3連覇をしよう!」
「「「「「「『イエッサー!!』」」」」」」
それから、秘歌理が俺たちに配ったカラフルなお守り。ちょうど、虹の色。赤が赤也、オレンジが丸井、黄色がジャッカル、緑が蓮二、青がオレ、藍色が真田で、紫が仁王で秘歌理は白だった
元仲間達の思い。
固い絆だった。
笑いあった時間は離れられないと思った。
だから、信じられなかったんだ。
秘歌理が本当に俺たちの元から去るなんて・・・
「秘歌理・・・」
空を見上げた。この空を秘歌理も見上げてるだろうか。なんて、思ってケータイに手を伸ばして、やめた。
オレにも、考える時間が欲しいんだ。ごめんね、秘歌理
白い、おまもりは今俺の手の中にある