始めて会ったときあいつは寂しそうに笑っていた




「なぁ、秘歌理」


正直言えばオレは秘歌理が羨ましかったんだと思う。回りに期待されて、そんな期待に完璧に答えられる秘歌理の実力が。


『はい、なんでしょうか?』


オレが秘歌理と二人で直接話すなんてことは滅多にない。
第一にいつも秘歌理にはブン太やら、仁王やら赤也やら・・・まぁ 、ようするに人に好かれていたから彼女が一人で行動すること事態がそもそも少ないのだ。
まぁ、俺も秘歌理のことが嫌いじゃねぇし


「お前はこの後どうするんだ」


あの日聞いたのはそれだった。
中学三年。あの頃のオレは立海の高等部に上がってもテニスは続けず親の手助けのためにバイトを始めようと思っていたから オレの言葉に不思議そうにキョトンッとした秘歌理で、思わず「なんでもねぇ」と言いそうになったが『今の私にはみんなと一緒に立海の三連覇をすることしか頭にありませんよ。』とまっすぐ優しく、微笑まれて固まったのは俺の方だった。


『私は先のことなんか考えてはいません。…なんてもう高校生になるのにいけないことだとは思いますし、将来のことも就職活動のことも考えなくてはいけないでしょう。でも、私は今が一番幸せですからそれでいいんです。』


まっすぐまっすぐ。そう、言った。
部室の開けっぱなしの窓から聞こえてくる真田の怒声だとか、幸村の後輩を励ます声だとかも聞こえる。


『ジャッカル君。進路のことで迷っているのならば答えは一つです。やらずに後悔してはいけない、後悔するのならば、がんばって、がんばって、それで出来なくて後悔したほうがいいです。』


『なんて、私の理論ですから鵜呑みにはしないでくださいね』と笑って告げる。あぁ、そうだな。秘歌理はこういう奴だった


「いや、悪い」
『いえいえ』
「ありがとな、秘歌理」


いつもがんばって俺たちを支えてくれた。誰よりも相談にのって悩みを聞いてくれた。そしてその解決策までの道のりを教えてくれるやつだった。


『あぁ、ジャッカル君』
「なんだ?」
『今日は足のアンクルをはずして行きましょう。私から蓮二君達には言っておきますから』


まぁ、こういうところはメチャクチャ鋭いが・・・
いつ気がついていたのか、そこが謎だが目の前ではずして見せればにっこり笑って『無理をすることと頑張ることは違いますからね』とそれを没収された。








あの日全国が終わった。
立海の負け、という結果で

ベンチで待っていた秘歌理は自ら身を引いて、俺らに試合を譲ってくれたのに…なのに、負けちまったなんて


幸村を慰め、真田を治療し、柳とは赤也の制御方法を相談しつつ、赤也をなでブン太には優しい言葉をかけ、仁王を抱きしめていた。


『ジャッカル君、また、体力をつけましたね』


オレにはそう微笑んだ。負けたことをせめなかった


『今回の私たちに足りなかったものは努力でも、実力でもありません、無論、運でもありません。テニスを楽しむ、という心です。私たちには高校という「次」があります。弱点を克服し、そして長所を伸ばしていきましょう、』


負けたことも、勝ったことも受け止めて、
少し遠くにいる青学の連中を心底眩しそうに見つめてそういった。
あぁ、やっぱすげぇ、秘歌理はって、



.
ダブルスでは本当に負けなしだった。
高校に上がった春のミクスドでも、高校3年に負けず、仁王と二人で優勝

同じ後衛のポジションでも、俺と組むときは仁王並みのフェイクで前衛を惑わしてそれが認められて、あいつは。
・・・あいつらは高校一年になってすぐにレギュラーになった

羨ましいよりも誇らしい、さすがって思えたのはあいつの努力を俺らは知ってるからだ。だから、さすがだって。

…でもな…なんでなんだろうな………



元仲達の思い


そんなお前の努力を、優しさを、弱さをオレは知っていたのになんでお前にあんなことをいっちまったんだろうな。


「わるい」



いまさら謝ったってもう秘歌理は帰ってこない。
オレには、どうすることも出来なかった

あぁ、後悔だらけだな、カッコ悪くてしかたねぇ。

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