021



君は今、笑っていますか?

あの日と同じように、元気ですか?

君にちゃんといえなかった言葉があります





ザァァ・・・


学校に戻ってきて早2ヶ月。
季節は6月。

今日は雨
雨といっても静かに降る、霧みたいな雨。
あの日と同じような雨。



『・・・』

【モニカ。眉間にしわがよってる。何か嫌なことでもあったのか?】




学校が終わって家。
じっと窓の外を睨むように見ていたらしく兄さんが心配そうに私に聞いた。
フルフルと首を横に振る。

嫌なことじゃない。



『後悔、してること』



ソッと髪でかくれている首に触れる首筋…。
そこには消えない、私の罪がある。

絶対に消えない、傷跡が。
のろいに似た、何か。

傷口に手を這わせて爪を立てて、あの時の罪を、馬鹿らしいほどの自信をえぐる。




【・・・またか?】




雨が降ると思い出す。
私が変わった日のことを

あの日も・・・


こんな雨の日だった。
そっと、瞳を閉じればあの日に戻れるのならば、どうかと願ってしまう。

あの日さえなかったらきっと私はまだ「彼」の横で笑っていたかもしれない。




*-*-*-*


ずっと昔だ…まだ小さい頃。
あの時、私たちの前に現れたのは不気味な肉塊だった。

異臭を放ち、赤黒いそれ、思い出したくないほど、生々しかった。

小さな子供が見るには、残酷すぎた



ズル・・・ズル・・・



塊はゆっくり、ゆっくり近づいてくる。
当時の私は、強い「振り」をしていた…本当はただ、強がっていただけだったけれど。




『こっち!!』



「彼」の手を引いて走る。走る。
遅いからと油断していたんだ。
油断して…いたから…どうしようもなく、だめだった



ズル・・・ズル


 ブチブチブチブチ・・・





身体を引きずるような音から、肉を切り裂いてそして血管やら筋やらが切れた音がした。

血なまぐささが増す。
うっと私の繋いでいる手と逆の手で口を押さえた「彼」が見えた。

キッと、後ろを振り返って肉塊を見れば中からぱっくりわれて、そしてだらだら血が出ていた。
でも、動きはしない

どうして?


そう思うのとは裏腹に



「ぅ・・わぁあああああああああ!!!!!!」



後ろで上がるそれ。
はっとして振り返った瞬間に、散ったのは







*-*-*-*-*




【モニカ!!】

『っ!!』




ビクリッ肩が大きく震えた。

目の前に見えるのは、私と同じ瞳で。
でも両方、トパーズのような色。



『は・・・は・・・』



息が荒い。
つぅっと頬に何かがつたった

ザァァァアアア・・・

雨の音が強い。
アレから時間がたっていて、時計を見たら11時

私は、眠っていたみたいだ。
だけど…どうして今になってこんなことを…なんて、苦しくなっていく。




【大丈夫・・・か?】

『う・・・ん・・』



グイッと頬に流れていたそれをぬぐう。
すぅっと息をすって、そしてはいた。

ただ、落ち着くために・・・

兄さんの心配そうな声に私はへにゃっと笑った




『ごめんね・・・兄さん・・・』



小さく謝って、私は月の出てない、雨音に包まれた部屋で一人、外を眺めた。



君は、今、元気ですか?
あの日、君に怪我をさせてしまって・・・
本当に・・・ごめんなさい・・・




でも、願っていいのならば…





『どうか、君は笑顔で…』


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