03


*-*Side Sasuke*-*


−−−ならば成して見せよ。


そう、お館様が徳川家康に言った。お嬢がいなくなってもう、どれだけの時間がたったんだろう。腕の中にある暖かさはかすがのもの。
この腕に、また、あの子を抱くことができるのか、なんて。わりやしない。
一礼をし、戦国最強に走っていく徳川の背に、お嬢は今どうしてる。なんて言葉はかけられなかった。
そもそも、俺様がかけていい言葉じゃなかった。

背に控える、才蔵と鎌ノ助が、それを許さないだろう。新しく加わった海野…もとは豊臣の忍であった蔵と呼ばれる彼はまだ俺様と同じで信頼を得ているわけじゃない。


「猿飛。」
「…」
「儂では、麒麟は笑顔にすることはできない。」


なのに、なんで去り際にそういうこと言っちゃうのかね、なんてあきれてしまった。







あの日、あの人の手で、俺様はすべてを終えてしまえるはずだったのに、
もう戻れないって、わかっていたはずだったのに…

目を閉じれば思い出せる。
大切なお嬢の…主の…幸ちゃんの…あの闇によどんだ戸惑った、迷子のような瞳…。

どうしたらいいかわらかず戸惑い、泉に沈んだその体を救い上げることなんて俺様にはできなかった。

体に刺さった痛みなんて彼女の心の痛みに比べれば、きっと些細なものなんだろうって、それぐらい、俺様は彼女を傷つけたんだって、そんなこと、わかっていた。


美しい、水の世界。黒い炎を上げて沈んでいく姿。
死なせない、死なせたくない。どうか、と伸ばした手は、逆手に取られて、俺様の首を絞めた。

あぁけれど、本当に美しかったのだ。


いつもは赤に染まり、炎を上げる彼女が今は静かな美しい世界にいる。なんて。
本当に殺されるなら、本望だったんだ。



「ごめんね、あいしてるよ」


だから、忍としてはあるまじき、この思いを吐露した。水の中音になんてならないのに、俺様は馬鹿だってわかってるのに、口にした。

肺にたまっていた空気が抜けていく。
水のせいでぼやけた視界がさらに暗くなっていく。

それでも、



合わさった熱を、感じたんだ。




水面に引き上げられ、それでも朦朧とする意識の中、幸ちゃんが、必死に俺様を呼んでいた、その声が聞こえた。

動きだすことなんてできなくて、彼女の腕の中でたまにまた、水の中におちながらそれでも陸地に寝かされた。


『さ、すけ。』


あぁ、俺様の名をまだ、呼んでくれるんだって。
それだけで幸せだったのに、返事ができないなんて、なんて情けないんだって悔しくなった。

また、するりとほほを撫でられて、口が合わさって肺に送られた空気にむせ返った。
やっと目が開けられたのに、「だめ」といわれて瞳が温かさに覆われて、そうしてまた意識が落ちた。



目が覚めた時にはあばら屋で、身体中傷だらけでぼろぼろの蔵に出会ったのだ。
一瞬刺客かと思ったが、冷めた目で「お前を麒麟様が救ったから俺が拾っただけだ」といわれて、気が抜けた。

そうして、彼を仲間に引き入れて、十勇士として改名させて今に至る。
麒麟様、と呼んでいたということは、もともと豊臣にいた時に幸ちゃんに仕えていた忍。ということなんだろう。

本当に、幸ちゃんは…



「どんなに心を病んでも、誰かを救っちゃうんだから…」



本当に、怖い子だよ。
そんな怖い子は俺様が隠しておかないといけないから…。

だから、早く帰ってきて、幸ちゃん。



20170901

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