02




川中島。

両軍の旗が入り乱れるその場所。
武田の陣のその中で、両軍が整列していた。

その先頭には、大将といえる武田信玄と上杉謙信の姿があり、涙ぐむ上杉軍の姿に長年の勝敗が決したことがわかる。


「さすがはわがしょうがいのしゅくてき、かんぱいです、かいのとらよ」
「お主のおかげで、張りのある半生であったわ。心から礼を言うぞ、謙信。」


お互いに向かいあうその姿は旧友を尊ぶそれだった。
だがそれはいままで互いに武器を合わせ戦ってきたその瞬間の終わりを告げる。

耐えきれず涙を流す兵たちに、上杉謙信の視線が向けられ「えちごのあすは、かいのとらにたくします。このおかたをしんじ、みなでちからをあわせるのです。よいですね。」と、大将として最期の言葉をつづる。
そうして、つづって、彼の視線はすっと目の前の武田信玄へと戻された。

まるで、もう悔いはないというように
無言の見つめ合いは、長きにわたるその戦いへの思い馳せか…

地につきささっていた武田信玄の武器である巨大な鉄の采配が抜かれる。
それを大きく振りかぶれば、日の光をあびた。

上杉謙信の視線が、紅い戦装束に身を包む猿飛佐助の腕に抱かれる己が剣-かすが-を映す。今は亡き、姫虎の影である猿飛佐助はただ視線を下におとし、彼の愛し子を見ていた。


「おわかれです。わたくしの、うつくしきつるぎ」


気を喪い、彼女が愛した人の最期を見れないのは、幸か不幸か…きっと彼女を腕に抱く忍に問えば、それは不幸だというだろう。

見納めだというように、瞳を閉じれば上杉謙信の美しい瞳が瞼に覆われる。
振りかぶったままの采配が、「さらばじゃ」という彼の声と、そして叫びにもとれる雄たけびのもと、振り下ろされ−−−−−


「信玄公ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」


首を落とす直前で、ぴたりと止まった。風圧で周りのものが揺れる。青年の声に、武田信玄と上杉謙信以外の視線が、上空を進む影を追った。
白い雲を引きながら武田の陣へと入ってくるその姿に、猿飛佐助の瞳がわずかに揺れる。
たくましく鍛えられた腕には、徳川の紋。


「絆を絶ってはいけない!!信玄公!!」


ぐるりと旋回し、戦国最強、本田忠勝の背から飛び降りた彼は地に着地すると二人のもとまで小走りで駆けよっていく。
刃が離れた気配に瞳を開いた上杉謙信と、おろした武田信玄の視線も、彼を映した。


「とうしょうどの」
「竹千代か。」


彼らに会うのは、おそらく長篠での戦いの後初めてだった。
あのころとは比べ物にならないくらい大きく成長した青年も、また、ここにはいない一人を知っている。


「ご無沙汰しております、」
「大きゅうなりおったの」
「そのつもりでしたが、それでもやはり、貴方は大きい!」


「ますますのご壮健ぶりなにより」と告げるのは彼も戦国の一将だからだろう。かつて握っていた槍はすでになく、彼の腕を守るのはその拳。それすらも、彼が成長した一つの証だ。
そしてそれは、虎と、姫虎との絆の証でもあった。


「今日はほかならぬ、信玄公、そして謙信公に儂の決意をお伝えしにまいった。」


シンっと静寂がその場をしめる。
一拍呼吸を置いて、竹千代と呼ばれた…徳川家康は目を見開き、ぎゅっと両の拳を握りしめる。




「某、徳川家康!!絆の力で日ノ元を統一すべく、この心を固めたしだい!!!
 …これで最後。皆がそういい、皆がその言葉を信じ、儂らは今日まで同じことを繰り返してきた。だが、この先誰が天下をとろうとまた別の誰かが現れ世を戦の混沌に陥れるだろう。明日を信じる者たちが、明日を生きられぬ世を、今度こそ終わりにしたい」


そして吐き出したのは、彼の夢だった。

徳川家康。彼は長きにわたって戦乱の世を生きてきた。
織田では民に恐怖を、豊臣では民に武力を、そうした世を見てきて、そして今なにが出来るのか。
何を、するべきなのか、
その瞳に秘められた光が、それを物語っている。


「故に自ら先んじて兜を脱ぎ槍を捨てたか」
「いかにも」
「時すでに塾したというより、もう待てぬということか」
「その通りです」


だからこそどれだけ危険であろうと、己が一番わかっている。
それでも彼は…


「麒麟……真田がまた笑えるように。」


つぶやくように吐かれたその言葉に、ゆるりと武田信玄と猿飛佐助の瞳が見開かれた。



20170901

- 4 -


[*前] | [次#]
もどる

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -