01


「私は貴様を許さない!!!!」


それは確かに「彼」に向けられたものだった。
−−最上領。

本来ならば領主、最上義光が控えているものなのだがすでに蚊帳の外になっていては意味がない。なにせ、刀を交えるのは奥州の伊達政宗とそして石田三成だ。
そして、三成は知っていた。

目の前にいる男こそ、己の主君である豊臣秀吉を討ち、己らから光を奪ったものだということを。


六爪で攻撃を防ぎ、そうしてはじく。
地面をえぐり、三成は飛ぶように駆けるが、その前に。


「奥州筆頭、伊達政宗…!この竜を掛け値なしでヒートアップさせられるのは…」


屈んだ状態からの、攻撃。
彼の瞳の裏に映るのはたった一人の


「あいにく、この戦国にたった一人だけなんでな!!」


そうたった一人の、紅(くれない)の。
刀を回転させて、三成に迫っていく。二つの攻撃が合わされば強烈な衝撃波が周りを襲った。そして吹き飛ばされていく中に本来の大将がいるなればさっそくあきれるばかりなのだが仕方がない。

吹き飛ばされ岩壁にたたきつけられた三成は、意識を保ったままだ。地にしっかりと足をつけて一度刀をしっかりと鞘におさめ、居合いの型をとる

そうすれば、彼に向けられた三つの刃先。


「恨みじゃ俺は倒せねぇ。まずテメェの旗を掲げな。話はそれからだ。天下をかけて戦り合おうぜ」


−−You See?
まるで嘲笑うかのような、言い方。
キッと睨み付け、「天下など知るか! 貴様の生命の停止こそが私の無常の望みだ!」と吠え地を蹴った。ここに来たのも旗を掲げていないのも、そもそもが三成の独断だからだ。
だが、一太刀、
三本の刀でその攻撃を防がれ、反動で空中を政宗が舞う。一瞬の隙。振り返れば彼はすでに崖上の己が乗ってきた馬にまたがっていた。


「そんなに山猿の大将を悼みてぇなら墓にでも参るんだな」

「貴様…!咎人がこの上秀吉様を下種な仇名で侮辱するか!」


煽るように、とはまさにそのことだろう。三成の瞳に狂気が宿る。
…のだが、それを気にすることもなく政宗は肩をすくませると「Keep it up!」とそういって馬の腹を蹴り、背を向けた。


「おのれぇぇえええ!!!私に謀戮されろぉおおお!!!!」


その背を追うように、三成が俊足を生かす。
すでに消えたその背を咎めるように、



「許さない!!!貴様の犯した罪を私は許さない!!!」








「やれ、ヨゥ吠えておる」
『…左様で。』


咆える三成の姿を別の崖上から眺める二つの姿。
あっけらかんと告げるのは彼の右腕を務める軍師大谷吉継であり、その横に居るのは一将の麒麟。
意志の何も籠らないその声に月食の瞳が一度だけ彼女を写すがすぐにいらだち、地を殴りつけている三成へと戻る。
豊臣秀吉がこの世を去って彼の表情は険しくなった。

そして、武田から戻ってきた彼女は壊れたのだ。怪我も大きなものはなく何か、と思えば、心を壊したらしいソレ。元より壊れかけていることはわかったのだが、決定打を踏んだらしいのは忍から聞いた。

もとは笑顔を絶やさない少女のような武将だった。それがまるで、人形のようになったと思ったのは仕方がないことか。


『おうしゅうひっとう。』
「ナンゾ、覚えがあるか?」
『随分、南蛮に染まった野蛮人だと思いまして。』


そんな野蛮人の心をたきつけるのは貴様ぞ、と告げようとしてやめた。無表情で眼下の世界を見つめる彼女はおそらく今何も感じていなければ、何をも思っていないのだろう。
それほどまでに、人形のようになり果ててしまったのだから仕方がないのか。


「ヒヒ、主はどれほど壊れ逝くか、見ものよな」


ふわりと風が吹けば彼女の顔を隠していた布がめくりあがり、茶の髪が風に揺れた。
淡褐色の瞳がまるでガラスのように景色だけを映している。口元にはいつからか黒い布。忍のようだとはもともと思っていたが、より一層、そうなったのはなぜか。


『先に戻ります。』
「あい、ワカッタ」


くるりと身をひるがえして歩きだす。一房だけ伸びた髪が風に揺れる。
けれど、だれも、その背を守ることはできないのだ。



20170809

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