空虚だけがそこにある





織田が滅び、豊臣の時代が終わりを告げ。
幾多の戦乱は、あまたの無念と哀しみとを人の世にもたらした。

それは時に、遺されたものの魂を修羅の業火へと変え、ささやかなるはずの運命を無常にとらえ、違わせた。


ここにもまた、一人。



旧、北条。
崩れた壁、そしてそこに芽生える新たな命の中。
確かにそこにあった本丸への階段を静かに上っていく影が一つ。

まるで、墓標のような城跡へとたどり着いたのは、かつて、豊臣の左腕といわれた石田三成、その男だった。
もう「何も」残っていないその場所に立ち尽くす。

その足元に落ちる、刀。がしゃんっと落ちる音はまるで壊れる音か。

切なげに震える指は、切望か、懺悔か、
きつく握りしめられた手からは赤が滲み、おちていく。


ゆっくり、ゆっくりと前に進んでいき、かつては王が倒れたその場所へと、えぐれたその地面へと膝をつけば、求めるようにもう何も残っていない地面を撫でた。


「秀吉様…っ」


かすれるような声だ。
ぽたり、ぽたりと地面に落ちる雨粒は、はて、本当に雨粒なのか。


「秀吉、さま…!!秀吉様!!・・っあ、う、うあぁぁあああああああああああああああ!!!!」


天が啼いた。
絶叫。そして、まるで同調するかのように雨は激しさを増していく。

瞳には、狂気を宿していた。







『…ないて、いる。』


ぽつりと、光のない瞳がつぶやいた。黒衣の布を纏った「彼女」が小田原城を見上げる。
これから向かう先の通り道。

独りで行きたいといった彼の言葉に彼女は従い、そして彼についていくことはなく、その場に待っていた。
雨の中、ただじっとその咆哮の哀しさを聞いていた。


『……』


そう、ただ。
ただ。聞いていた。







求めるものは、もう何もない。
−−−ただ、空虚だけがそこにある



降りてきた銀色を見て、麒麟は口元の布を引き上げた。



20170809

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