06


*Side Masamune

俺に背を向けて武器を抜いたあいつと裏腹に、こちらに迫りくるのはあの日からの…。馬から降り、そして六爪を抜く。

まっすぐ俺を目指してくる男は、今はあいつの主でもある。俺とは違い、惑わされなかった男である。


「こいつは、あきらめじゃねぇ。一度や二度ぶった切られようと本気だったら、生きてまた、あがくだけだ。あいつも一緒に。」


その気持ちの劣等感。油断して負けた屈辱。だが、一番は何より弧の戦いを終わらせて、あいつの手からあの大太刀を奪い取り、二槍を握らせてもう一度戦うことだ。
あの、紅い炎で、俺とLast danceを。


「その通りだ、独眼竜。その時はお前も。」
「…あいにくと俺は誰彼かまわず仲良しごっこするわけじゃねぇ。アンタとはいつか殺りあうことになるだろうぜ?」
「はは、その時は、この拳で立ち向かおう。…真田とは改めて虎の名を賭けて。」


そうだな、お前はそうだ。小さく笑っちまった。
姫虎といわれたあいつと、この俺の横に居る武田信玄の…虎の弟子の一人である家康はそういう因縁だった。
こいつは、何よりも人の命という、民の平和だけを願ってきたからこそ、うわべだけで語った雪に靡かなかった。それを考えだしたら、止まらねぇ。


「小十郎。」
「はっ。テメェら!!」


俺も俺で、自分の戦いに仲間を巻き込むわけじゃねぇ。
だからこそ、一番に幸は一番にこの場所を離れたんだろう。俺はあいつの光を奪った人間であり、主の仇であり仇討の相手だから。

小十郎の声と共に、迫りくる雑兵を押し戻していく伊達の連中は我ながら自慢の仲間。
だからこそ、俺は死ぬわけにはいかねぇ。


「伊達、政宗…。貴様どんな卑劣な手段で秀吉様を謀殺したのだ。」
「石田三成。 てめぇこそ、オレへの恨みでどれだけの関係ねぇ連中を巻き込みやがった。…幸のことは礼をいう。だが、このCrazyな騒ぎはなんのつもりだ。」
「そんなことはどうでもいい!豊臣の威光を忘却するものを私は許さない。汚したものはなおさらだ!!!」



風。目の間に銀が走った。
背をかがめ、居合いに近い形から切り上げの軌道。片目だろうが目で追える。一歩足が後ろに下がれば目の前を切っ先が抜けていった。

あぁ、本当にこいつとやるときは、殺し合いだ。まぁ目の前の男からすれば間違いなく俺は殺したい相手なのだろうが。


「(滾らねぇな。)」


背後で聞こえる風を切る音。悲鳴。断末魔。
おそらくそれは、たった一人の黒い炎を操って戦っている女の所業だろう。
昔だったら、おそらく躊躇されていただろうその音に一切まじりけのない殺意をにじませた。重要なこと意外を捨て去ったそれ。

だが、目の前の男と、昔の幸との共通点がある。


「(滾らねえのに、なんであいつとおんなじような目でこいつは生きてる)」


それは、残酷なまでに澄んだ目だ。いくつも繰り出される斬撃はあいつとは程遠いにも関わらず、根本が似てるんだろうなと、そう思う。


誰よりも誰かを愛し、そして、そのもののためならば何よりも努力をし、まっすぐにものを語り、守り、汚さんとする。
それは、あいつもそうだった。


武田信玄が明智にやられかけたあの時。
幸の瞳はひどくよどみ、歪み、ただ、真珠のような大粒の涙を流していた。それはおっさんが生きていたから「死んでしまうんじゃないか」と「喪うんじゃないか」という「不安」が勝っていたからだ。
仮にあの時、あのおっさんが死んでいたのであれば、純粋な殺意を織田に持ち、それこそ「鬼」と言われるようになっていたかもしれない。だからこそ、それをつなぎとめるあのおっさんの存在が恨めしくもあるが…。


いつか、俺があいつを抱きしめ、奥州の地で龍虎として、天下を総べる。
そんな夢物語を俺は今でも思っている。

だからこそ、俺は死なない。


20190630

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