04


美濃は関ヶ原。
隕石が落ちたようなその巨大なクレーターの中央にこれまた巨大な鍋。

囲むようにいくつかの国の軍勢がならび、そこには赤、武田軍の姿もあった。
先頭に立つのは、猿飛佐助であり、その身はかつての姫君同様、紅に染まっている。
その背後に控えるのは由利鎌ノ助と運野六郎。
彼らもまたその身に紅を織り混ぜた衣をまとい、そこにたっていた。忍というよりは、もはや一武将である。


…が、その中央にいるのが小早川の将である金吾であれば、むしろその群衆に圧倒されてしまい、縮こまり腹心のなを叫ぶほどだ。


「金吾…お前だったのか!」


そこに、空からひらりと降りてきた黄色。
名を偽られ、嘘虚言を彼にかかれたにも関わらず、「ごめんよ、家康さん、僕…」としょげている金吾に、すべてを察して笑みを浮かべるのは、まるで彼らしい。

くるりと身を昼返してその群衆をみわたす。


「ワシは徳川家康!今日はワシの呼び掛けに応え、この地に集まってくれたことに感謝する ありがとう!

 ここに集まったものは皆、織田、豊臣という二つの大きな力を、その恐ろしさを目の当たりにしてきた。そして武力とはヒトの絆を断ち切るモノなのだと、骨身に深く刻んできたはずだ」


その言葉を聞きながら、その群衆に蒼が加わった。そのなかにはもちろん、麒麟もいる。
ただじっと、その男の声を聞いて、みつめる姿に、彼女の横で馬を並走させていた政宗はどこかつまらないと思いながらも、彼もまた家康に目を向けた。


「力を示したものだけがのしあがり、生き残る。それが戦国だ。だがそれでは、いつになっても争いが終わらない!力のみに頼る者の滅びを我々は二度も見てきた。滅びを望んで力を振るう者など、ここにはいないはずだ!」


それは幼少から力に翻弄されて成長してきた家康だからこそ言えた言葉なのかもしれない。
守りたいと思ったときに、裏切られた彼の心なのかもしれない。ひとつひとつの言葉が、重みをもって、武将たちの心に刺さる。
おのれらだって、守りたいものはある。民、仲間、家族、土地、数えきれないほど。
広げたいとおもうものもあれば侵略され戦うものもいる。
だからこそ、ざわめきは広がっていく。

彼女もまた、その一人だった。
日の光を眩しいと目を細めてそして目を閉じた。

自分の本当に守りたい者とはなんだったのか。心のなかに問いかければ、浮かんでくるのは淡い炎。
そのなかの鳥かごに、紅の着物をまとった姫君が泣いている。


『私は…』


そんな彼女の後ろから、伊達軍とともにこの地に来た前だが馬を走らせた。群衆に前におどりでて、そのながい髪を風に踊らせて笑う。


「俺は加賀の前田慶次!兄さんがたの腕っぷし、何でそんなに強いか知ってるかい? いい人を守るためだ!生まれそだった故郷を、かけがえのない大事なものを奪われちまう、そんなのはもう、やめにしないか!」
「拙者、猿飛佐助と申すもの。甲斐武田が知将、武田信玄の代として、この場に馳せ参じた次第。拙者が守りたいもの、守りたかったもの、失ったもの、今も手にしたいもの、それは、拙者の主が求めたものは、等しく平和であった!」




『…さるとび、さすけ?』


ぽつりと、彼女の唇が動いた。
その音は誰の耳にも入ることはないのだが、それでも、彼女の脳裏に誰かが自分の背を守っていた記憶がある。けれどそれははっきりしない。靄がかかって確実には言えないのは、固まった心がそうさせている。


「てめぇは、どうする。」
『…私?』


その後ろ姿に、小十郎が声をかけた。首だけ振り返ってその言葉の真意を確認する。子供を見るようなそんな優しい色をした目を見て再び視線を前を見た。さまざまな武将たちが発言をした彼らの言葉に右往左往している。皆、死にたいわけじゃない。それは彼女だってわかっていた、それでも。


『私は…』






脳裏によぎる。
自分の醜い腕を優しくなでて言葉をくれた人の優しい表情を。
獲物を交えるときの、滾る心を、

咲き乱れた桜の中、振り返った袴姿の彼を…





2019.0602

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