03


*Side Masamune

美しい桜の木の下で、小十郎と会話する幸を見ながら、静かに杯を傾ける。
先程までは前田の風来坊と会話していたが、小十郎も小十郎で幸に助けられたと話していたから、気になったんだろう。恐らく。

だが、やはり、あいつとの戦いは心が燃える。
うずいてうずいて、しかたねぇ、あいつをねじ伏せられたらどれだけいいか。

日の光の下でははじめて見た幸の装束は、今まで赤をまとっていたあいつとは裏腹に、黒。
しかも露出はないくせに、その体の可動域のせいでずり上がった衣だとか、なびいた瞬間にいっしゅんみえるうなじだとかがたまんねぇ。

さっさと、石田のやつを説き伏せて、龍の懐にいれちまいてぇがそう簡単に言えるもんでもねぇだろう。
そんなこたぁわかってる。


そんなときだ。
笛の音。

このタイミングで、笛?とその方向を見れば、ふわりと、布が待った。


「うぉ!粋だねぇ!!」


荒くれものの伊達の中で笛を嗜むのは小十郎くらいだ。だからこそ、その笛の音が小十郎のものだとすぐにわかったが、ここに前田がいるとすればあの舞い手はと考えて、視線が釘付けになる。

風に流れる花と共に、ふわり、ふわりと彼女の体が宙に浮く。
まるでいつか風とともにながれてしまうんじゃないかとぞくりとしてしまうが、彼女の影はしっかりとそこにある。
素足が地を蹴り、まとった半透明な布はそのままに、舞い散る花弁をおって手が延びる。

幼子が必死に追いかけるように、けれど幼稚ではなく。
その足取りはおぼつかないのに、その目はしっかりと光に向かって手を伸ばしていた。


「うん、やっぱり舞わせるなら女の子、だね!」
「…」
「ん?おーい、独眼竜?」


あぁ、綺麗だ。
赤に近い茶の瞳がまっすぐに目的に向けられるそのさまが、その細く白い指が花弁と戯れるのが、甘栗色の髪が風に踊るのが

けれど、そこにあいつらしい笑顔が、ない

こういうところで実感しちまうんだ。オレがやった、取り戻せない罪というのが。



音がやむ。
誰の声も上がらない。それこそ魅入っていたというのが正しいのだろう。
誰かが、言った。

その姿はまさしく天界の女人だと。
あぁその言葉に間違いはない。特別な人間ではなく、美しい人間はすぐそばにいた。
遠くにいたのに魂を引き合い、出会った女だった。

立ち上がる。
もう一度、風来坊がオレを呼んだが関係ねぇ。

刀を抜いて、呆然と桜を見上げる幸に切りかかる。
殺す気はない、立回りだ。

ひらりと宙に逃げてオレの剣をかわした彼女に、口許があがる。
その瞳がやっとオレを写して、こてりと小首をかしげた。


『私はあなたにてはあげていないぞ』
「あぁそうだな。オレとも一曲踊ってくれねぇか、Lover。」
『ら?』
「はは、その意味はまだ知らなくていいぜ。姫虎どの。」


『姫虎?』とさらに理解ができないと言ったように瞬いた幸にふたたび袈裟切りを見舞う。
あっさり前避けされ、そのまま後方に飛んで、懐から小刀を抜いた。

その刀には見覚えがありすぎた。
座って俺たちをみている小十郎を見れば一度だけ頷いていて、あぁ、なるほどなと。


「Sorry、殺し合いじゃねぇ。いいか、これはさっきと同じ舞いだ。目はそらすな。」
『…立回りですか』
『Year、そういうこった。いくぞ?』


花が散る。花が散る、花が、散る。


190220

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