相変わらずのあれた山道を進んでいく。
片割れにいるのは、いつもの小十郎じゃない。真田幸村だ。
少々不安ではあるが、戦ったからこそわかる。この男は大丈夫だと。
『真田。気合入れていけ、特別なPatryだからな。』
「うむ!!わが心、暑く燃ゆる!いざ、本能寺へ、全力で赴かん!」
ちと空回りな気もするが、それでいい。
きっと半分はカラ元気だ。そんなこと、いやでもわかる。
私だって、あの日、いろんなものを喪ったあの戦いであそこまで落ちた。それでも、ここまで来れたのは喝を入れてくれた成実や小十郎のおかげだ、
こいつの周りに、それをできるのはあの猿飛佐助という忍だが、そこまで熱血という風には見えなかった。他人の事情に私が突っ込んでいいものかとは思ったが、この男をあそこでしぼませるには惜しいと思った。
だから、焚きつけた。
それだけのことだ。
「政宗殿。」
『…何?』
「貴殿は強うござるな。一体、その眼に何を見ているのでござろう、たった一つ違うだけの女子と某と、何が違うのか、某は知りとうございます。」
名を呼ばれる。返せば告げられた。
ちらりと真田をみたが、こちらをみているわけではない。先ほどまでの私と同じようにただまっすぐと本能寺までの道のりを睨みつけている。
『強くないわよ。私は。』
「…貴殿よりより弱い某は、みじめになりますな。」
『ふふ、アンタと私、何が違うとしたら、そうね、この戦いが終わったらそういうのも含めて、話しましょう?そこではただの、私と真田よ。』
そう、強くはない。
私と真田と、何が違うとすれば、それはおそらく
『(喪ったものの多さ、喪うことへの恐れの強さ、自分の背にかかる命の量、目的の違い、視野の違い、まぁ、いろいろあるわね、)』
国主としての私と、国主に仕える一人とじゃ感覚が違う。
おそらく、それを言うのであれば、言葉を交わさずとも真意を読み取ってくれるただ一人の男に聞いたほうがきっと、真田は伸びるだろう。
酒でも飲みかわすのがきっと一番だ。
その前に、やるべきことはやらねばならないが。
願望をかなえるためには、この国に巣食う魔王を果たすことがまずの先決だ。
その先に、奥州、しいては日ノ本の明日が通ずるのだから。
*Side Kojyuro
「ほんと、あのお姫様、女にしとくにゃもったいないね。」
ぽつりと猿飛が言った言葉に、彼女が真田を連れて消えた武田の門構えを振り返る。
忍のくせに、とは思ったが、実際そうだ。
「あぁ、それにあと十数年早くお生まれになっていたら、魔王に引けをとらねぇお方だったろうよ。」
神童といわれた幼子に会ったのはもう十年以上も前だ。
その時から彼女の目はずっとずっと先を見つめていたことを知っている。
右目を喪ったことで、あの場所から逃げ出そうとしたところで、目覚めた雷の婆娑羅は彼女にとってはひどく首を絞めるものになっただろう。
それでも、あの方は下を向かず、ただ天に向けて顔を上げる。
日の光にその瞳を細め、微笑むのは、おそらく「なにか」が確定しているからだ。だからこそ、「女」という器はひどく厄介なことに変わりはない。
故に、守らねばと思う。
彼女の背を、願いを、想いを。
「猿飛、準備しろ。」
「ほんっと、伊達軍ってどこまで大将の思いをくみ取るのがうまいんだか。」
刀を腰にさし、歩きだす。
あまりすぐに追っても意味がねぇ、だが、遅すぎてもいけねぇ。
彼女の背を守るために、俺は、俺たちは伊達軍ではなくなったのだから。
「小十郎様!!!」
ばたばたと駆け寄ってくるのは、文七郎だ。その後ろには佐馬助や良直、孫兵衛もいる。
彼らの背側、武田の広い庭に、さまざまな家紋をなびかせて揃う軍。
上杉、浅井、徳川、武田…
それは魔王に踏みにじられた想いを持つ者たちの証。
その中に、蒼…伊達も混ざる。
「俺たちゃいつだって準備は出来てます!!」
やつらの目に宿るのは、ただ一つだ。
「目指すは山城国、本能寺!!政宗様と真田幸村の後詰に向かう!!織田の兵隊どもを残らず蹴散らすぜ!」
そう、日ノ本を纏めるのであれば、こうでいい。
20190708