ただひたすらのび太が睨みつけるのは横に座る出木杉。 中間テストが終わった今、テストを返されるのを皆待ち遠しく思っていた。 はずなのに、のび太は周りと違和感のありすぎる表情をしている。 あまり話したこともない女子の隣にのび太。そして間を空けて出木杉。 既にテストを受け取った出木杉の周りには男女がたくさん集まっていた。 すごーい、すげーなどの声が聞こえる中のび太は自分の名前が呼ばれるのを待つ。 「野比!」 「あ、はいっ」 担任に名前を呼ばれテストを取りに行った。 もちろん今回のテストも残念な数字が上に大きく書かれている。 高校生ともなれば昔よりマシになるだろうと考えていた自分が馬鹿みたいだ。 そんなことを思いながら自分の席に着く。 「出木杉さん、また満点を取ったの?」 「ああ、頑張って勉強したおかげだよ」 隣で繰り広げられる会話。 のび太には静香と出木杉の周りから花が飛んでいるようにも見えていた。 その光景をいらいらしているのび太はしかめっ面をして二人を睨んでいる。 何でもかんでも出木杉ばっかだ。 頭がいいのも出木杉。運動ができるのも出木杉。しずかんちゃんと話をしているのも出木杉。 だから出木杉は好きじゃない。べつに嫌いって言っているわけじゃないけど。 結論を言うと、のび太は妬んでいる。 何でもできてしまう出木杉に嫉妬していた。 「僕は0点なのにどうして出木杉は100点なんだ…」 もし自分も満点を取れるような奴だったならとのび太は心の中で嘆く。 はあ、とため息を一つ吐き、机の上にうつ伏せ状態で真っ直ぐ前を見た。 みんな楽しそうにテストの見せ合いっこをしている。 「はあ…」 またため息を吐いて静香たちのほうに目を遣った。 じーっと顔を顰めて見ても出木杉はにこにこと爽やかな笑顔を見せながら話している。 「あ、のび太」 にかっと歯を見せながらのび太に振り返った。 小学生だった頃とは違う雰囲気たちにのび太はまた顔を顰める。 いつの間にか出木杉は身長も高くなり格好よくなってしまっていた。 中学校に入ってからはのび太のことを野比くんではなくのび太と呼ぶようにもなり、のび太の中では更に出木杉が苦手人物へと化していく。 「何だよ…」 「いや、俺のことずっと見てたから」 「僕はお前のことを見てなんかない!」 のび太はむきになってそう言い返した。 本当はずっと見ていたが、それは何となく悔しくて嘘を吐く。 少しするとまた隣からは静香と出木杉の笑い声が聞こえてきた。 やっぱりとっても気になるから、のび太はゆっくりと顔を顰めたままちらりと横を盗み見る。 「ほら、やっぱり見てる」 「うぅ」 横を一瞬だけでも見たいだけだったのに、ぱちりと合った視線。 出木杉は眉を少し下げ可愛らしく笑った。 「出木杉を見てたわけじゃない!」 これは本当のことだ。 のび太はただ静香と出木杉が話をしている場面を見ていたわけで出木杉を見ていたわけではない。 「可愛いなあ、もう」 呆れたようにまた笑う出木杉にのび太は少し顔が赤くなった。 可愛いなんて言われたことがなかったから。 “可愛くなんてない” そう言おうとしたが声が出てこなくなって、のび太は赤い顔を見られまいと机の上に顔をうずめる。 少ししてからまた隣から聞こえてくる声に、顔をもう一度顰めた。 (顔を顰めた本当の理由は) |