冬。そんな季節がやってきた。
秋とはまた違う寒さを誘う風。枯れ葉なんてものはもう一枚も残っていない。
そしていつの間にか、青かった空は真っ白に変わっていた。
今年初めての雪はもうとっくに降り終わっている。落ちて行く度に消える。そんな雪などもう存在しない。歩けば歩くほど量が増していっているのではないだろうか。
そんな雪の上を除雪機なんかが通れば、スケート場でも作っているのではないだろうかと思うほどに地面は凍りついていた。

そんな中で、学校から帰宅する恋人同士が一組。



「なんか、数週間前の外が恋しいな……」
「そうか?俺はどちらかと言うとこっの方が良いけど。」
「なんか嫌なんだよ。ほら、滑るからハラハラするって言うかなんて言うかさ。」



そう。俺はそれが嫌なんだ。しっかりと足を踏み締めて、歩いている感覚がないと不安だ。それに、滑るのは怖いだろ?



「でも、滑って転ぶ時、恋人に支えてもらうとかそういうの憧れねえの?」
「恋人に支えてもらう……」



ふーん。何か有りそうで無さそうな話。ジャイアンはそういうのが好きなのか?転びそうになった時、恋人に支えてもらったりして甘い雰囲気を出したりしてみたいのか?

ジャイアンが言葉をキッカケに、何故かスネ夫が挙動不振に成り始める。
そんなスネ夫を見て、ジャイアンはただただ不思議に思うことしかできないでいた。

そうしている内に家への距離はどんどんと近づいていく。



「あ、家ついた……」
「ん。それじゃあ俺は帰るな。」
「え、」



もう少しだけここで話をできないものかと、スネ夫は呟いてみようとした。けれど。



「俺は仕事があるし、もうそろそろ帰らねえと。」
「あ、そっか……」



ジャイアンのそんな言葉に少し戸惑ってしまった。

そうだよな。ジャイアンだって、忙しいんだよな。いつも俺に構ってられるわけじゃないんだよな。

ごくりと唾を飲み込み、今やるしかない。スネ夫はそう思った。
それから拳を少し握ると、じゃあ明日な。と言って去って行くジャイアンへ、



「待って……!」



そう声を掛け、ツルッと足を滑らせようとしたとき、想定外の出来事が起きた。本当に足が滑ってしまった。まあそっちの方がスネ夫には都合がいい。



「うあっ……!」
「スネ夫?」



トサッと音を立て、スネ夫の小さな体は綺麗にジャイアンの体に収まる。
そしてそれから、何故か一瞬沈黙状態になってしまった。



「えっと……ご、ごめん!」
「いや、別に。」



沈黙どころか、二人とも目を合わせずにただただ抱き合っているというなんとも恥ずかしい状態なわけで。



「その……もう、大丈夫だからっ」
「あ、わりぃ……。」



いや。目を合わせられないのでは無く、ただスネ夫が俯いているだけだった。
やってしまった。どうしよう。という言葉がスネ夫の脳内でグルグルと循環している。



「えっと、本当にごめん……!」



そう赤面しながら言って、スネ夫は自分の馬鹿でかい家へ駆け込んでいってしまった。ジャイアンはただそれを呆然と見つめているだけ。数秒経った後、ようやく帰るという言葉が頭に浮かんだのだろう。
軽くクスリと笑ってからスネ夫の家を微笑しながら見つめると、ジャイアンは反対方向へ足を進める。



「あいつも、可愛いことするな。」



そう小さな声で呟いたのは、スネ夫には内緒。







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