月を盗む


男達の浮き足立つ様を、まんまるい満月がうっすらと照らし出す夜の事。

尾形は一人、他の建物より一等大きな屋敷にいた。立派な木造の建物が二棟も連なるこの屋敷は、あたり一帯で最も高級な娼館である。

何故尾形がこんな所にいるのかと言えば、ひとえに上司である鶴見のすすめである。何故娼館、しかも高級娼館なのだ。と疑問には思ったものの、人の金で常世の春が楽しめるとあればそんなに悪い気はしなかった。所詮人の金である。

もちろん行かないという選択肢もあったのだが、尾形は単純に娼館の噂が気になったのだ。町ではまことしやかに囁かれている。

この娼館の最も高い人間は、なんと男娼だと言うではないか。
しかし、その男娼は人前に姿を現すことはなく、客を選び、そして姿を見せるという。まさに雲の上のような話なのだ。しかも”あの”中尉殿が入れ込んでいる。

果たして、噂と中尉殿の審美眼は嘘か誠か。この目でたしかめてやろうじゃないか、と身体検査を受けようやく中へとおされた尾形は意気込んでいた。

しずしずと三歩ほど先を歩く案内役の背を見ながら、尾形は先が見えないほど長い廊下を歩く。少し上を見上げれば、金箔のはられた光り輝く天井に大輪の花々が描かれ、足元をてらすようにいくつものランプがつられている。
よくよく見てみればそのランプもまるいガラスで覆われており、表面には草花が描かれている。

金を持つと細工にこだわりだすのは不思議な現象だ。しかしおかげで暗いはずの足元もよく見える。艶やかな床板が、淡い光でつるりと光っていた。

そんな長い廊下を通り抜け、ようやくたどり着いたのは意外にも朱色一色の単純なふすまだった。廊下は贅をつくしていたというのに、どうしてだろうか。「それでは失礼致します」と案内役の男は来た道を戻り、そこには尾形だけが残される。

「……」

ひとまず行かねば何も話しは始まらない。果たしてこの先に何が待ち受けているのか。柄にもなく緊張しているのか、少しだけ心臓が痛む。心を落ち着けるように「ふぅ」と息を吐いてから、その襖に手をかける。

その先が見えるよりも先に、尾形の鼻腔を甘い香りがくすぐった。一体なんの香りだろう、妙に甘ったるく。でも嫌いではない。香りに誘われるように襖の縁を一歩踏み越えた。

「ようこそおいでくださいました」

心地よく響く、凛としたすっきりとした声だった。尾形が声に視線をあげると、開く襖を待ち構えていたように一人。三つ指を突いてふかぶかと頭を下げていた。豪華な廊下とは打って変わっていたって普通の和室の中央に座していた男は、決まり文句の言葉を紡ぎながらゆっくりと顔をあげる。

この時代の男にしては少し長い、ぬれた鴉のような美しい黒髪の間から対比的な白い肌が見える。

「私、本日お相手を勤めさせて頂きますナマエと申します。どうぞよしなに」

ゆるりと微笑むナマエに、尾形は獲物を見つけた猫のように目を大きく見開いた。中尉殿が入れあげているというから来てみれば、たしかにその気持ちも理解できる。何故娼婦ではなく男娼なのか、なんて質問はこの男の前には愚問中の愚問なのだろう。

彼の前には性など関係ないほどのまばゆい美しさがあった。きりっとした瞳に、美しい弧を描く柳眉。顔の中央にスッと通る鼻筋。ゆるく微笑む唇は愛らしさを持っている。頬はかわいらしい桃色。

とても細かい刺繍の施された金襴緞子に身を包んではいるが、その豪華絢爛さに負けない。むしろ完全に着こなす美しさを彼は持ち合わせていた。

例えるならば天の使いのようだ。

この時尾形は目の前の圧倒的な美しさに昔に聞いたかぐや姫の物語を思い出していた。聞いた時はなんてしょうもない話かと思ったが、今はかぐや姫を見たときの男達の気分がとてもよく分かった。

何をしてでも手に入れたいと思うほどの輝き。それがまさに目の前にいるのだ。物語ではありもしない金の枝や火ネズミの毛皮を要求されていたが、ここは違う。

一時ですら金をつみ、選ばれたものだけが言葉を交わし、身体を交わらせることができるのだ。そのためならば何だって安いものに感じてしまい、男に会う事を許されたということ事態がとてつもない自己肯定感で満たされるのだ。

ありもしない物を求められるわけではなく一時でも、手が届く分かぐや姫よりたちがわるいと思う。

尾形は一瞬彼自身に、そして漂う香りに気が遠くなりそうだったがハッと意識を取り戻しては後ろ手に襖を閉めた。縁を踏まないよう気をつけながら、畳の上をゆけばまだ新しいのだろうか。

甘い香りに紛れてほんのり井草のにおいがする。スンと鼻を鳴らすと、「もし匂いが気になるようでしたら、線香を下げますよ」とナマエは言った。

部屋の中央には随分質のよさそうな布団が一式敷かれ、脇に線香を燃やす線香皿があった。線香皿は部屋に唯一ともされたランプの明かりできらりと光る。皿の上で燃えるお香は既に先端が灰になっていた。

遊女は客が部屋にやってきてからの時間を線香で計測すると言う。燃え尽きればまた一本もやし、燃やした本数で時間をはかるのだ。この規則がまさか高級男娼にもあるのかと疑問に思った。

「私は一晩に一人しか招きませんから、時間は気にせず香を楽しんでいただければと思ったのですが」
「…そのままでいい」
「かしこまりました」

涼やかな顔をしながら、さぞ重たいだろう美しい着物を連れて立ち上がったナマエは「さぁ奥へどうぞ」と尾形を更に奥へと案内した。至って普通の和室に見えるが、やはり高級男娼のいる部屋だけあってあちこちに細かい細工がされている。

尾形が案内されたのは一枚の絵のような、細かい彫刻が掘られた木枠の障子に面した卓だ。こちらは黒一色の漆塗りで、指で触れればすぐに跡がつく事は容易に予想がついた。上には朱塗りの盆。有田焼の立派な陶器の御猪口と瓶が置かれている。

豪華な廊下とは違い、シンプルながら手のかかった職人芸が光る一品ばかりだ。案内されるがままに座ると、尾形の横へ寄り添うようにナマエが座る。

「お食事は済まされてきましたか?」
「あぁ、」
「それは残念。呼べばおいしいお料理もありましたのに。ではお酒はどうですか?」

重たそうな着物の間からするりと白魚のような手が伸びて、瓶を手にとる。たぷん、と音がするのだから瓶の中にはそれなりに高い酒がなみなみ入っている事が分かる。そしてここでおちょこを持てば、美しい男がお酌をしてくれるという事だ。

「酒は嫌いじゃないが、あんたほどの人を抱くっていうのに、酔っちゃざまぁねぇだろ」

酔うのも楽しいだろうが、今はまだシラフのままお前を楽しみたい。独り言のようにぽつりと言った言葉を拾ったナマエは、酒瓶を片手ににんまりと笑い、やがて耐えられなくなったというように声をあげて笑った。

「俺の手酌を断った人は初めてだ。皆注げばしこたま酒を飲んで潰れるっていうのに」
「…なんだ。普通に喋れるんだな」
「おっと失礼。つい、ね」

ふいに見えた素の姿は、その年齢に見合った笑顔と言葉づかいだ。さっきのやわく微笑む姿は儚げで美しく、浮世離れしていると思ったが尾形にはよっぽどこの飾らない笑顔の方がいいと思った。

「今日はそれでいろ」
「ふふふ、酔狂なお客様だ。なぁ、本当に酒はいいのか?おいしいのに」
「お前は飲むのか?」
「お前じゃなくてナマエ。まぁそれなりにたしなませてもらってるよ」
「ならお前が俺の代わりに飲んでくれ」
「それなら一杯」

とくとくと御猪口にそそぎ、酒に口をつける様はまるで神聖な儀式を見ているような気分だった。こくり、こくり。控え目に動く喉。たったそれだけだと言うのに妙に色っぽい。注がれた酒を飲みほして、ナマエが御猪口をようやく水平に戻し、「はぁ」と酒の混じった吐息をはきだすと、その潤った唇に少し乾燥した唇が重なった。

「!」

唐突の口づけにナマエはわずかに目を見開いたが、性急な唇に応えるように薄く口を開いた。口内を味わうように舌が蹂躙する。ぴちゃ。ぴちゃと響く水音が二人の間に響く。

「ハッ、たしかにうまいな」
「酒の味が見たいのなら、飲めばよいのに」
「それじゃあはつまらないだろう」

何度も角度を変えて口づけたせいか、尾形の撫で付けられた前髪が乱れた。額にかかるようにしだれた一房の髪を後ろに流しながら、ハンと鼻で笑う。ぺろりと唇を舐めてみると、まだほんのりと彼の口づけでうつった酒の味がした。
ただ飲むよりもこの味わい方の方がよっぽど趣があると思う。艶やかな唇を、ほっそりとした指で撫でるナマエは酔ったわけでもないのに顔をわずかに赤らめた。

「こっちに来い」

引き寄せられるままに、筋肉のついたその胸へと枝垂れかかる。軍人だけあって、鍛えられたその身体はやはりときめくものがあった。

「あんたの名前はなんて言うんだ?」
「百之助。今夜お前を抱く男の名だ」
「百之助……、うん。良い名前だ」

そう素直に名前を褒めると、尾形は何も言わずにそっと甘い香りを放つ美しい黒髪に口づけを落とした。


**


結局二人はその後酒を飲む事はなく、部屋の中央に敷かれた褥へとなだれこんだ。

たっぷりと羽毛の入った肌触りの良い布団の上に、細い身体を押し倒すと白の布地に美しい着物はよく映えた。なるほどこれは見事だ。四角い布団を額縁に、中に納まる彼は美しい。ごくりと唾を飲むほど艶やかだ。

刺繍の華やかな帯をほどき、襟元を肌蹴させると腕から着物の重さが伝わってくる。随分重たい着物を着せられているのだと少しだけ哀れに思った。艶やかな着物の下には、薄くにくづいた傷一つない身体が見える。

どこまでも美しいものは美しいのだと、尾形は剥いだ肌に触れた。上から下へと、這うように撫でる。それだけの事なのに、いやそれだけの事だからだろうか。妙に肌を撫でる指先に神経が集中してナマエはもどかしくなった。

顔から胸の中心、腹の上をもったいぶるようになぞる。じんわりと立ち上がる彼にはあえて無視して、先に太腿に触れた。足はほっそりとしていて、筋肉質な尾形とは違い触れればやわく、女のそれだ。

「くすぐったい」
「割に感じてるな」

そういう身体になってしまったのだから仕方ない。そう言いながら身をよじらせる。身体を広げる事も、そうなる事も未だに恥ずかしいようだ。

男娼や娼婦は身体を売る事が仕事なのだから、そういうもんだろうと尾形は思っていたが彼は違うらしい。

しかしそういう所がまた客を煽るに違いない。本当なのか、嘘なのか、見抜く術はなかったがそんな事は関係なくなるくらい心にぐっとくるものがある。
これがわざとなら、彼はよっぽどの罪作りだ。

尾形は自分の軍衣を脱いだ。彼のものとは違って質素で軽く、自分でも笑ってしまうほどだった。おかげで適当に丸めて放り投げると、それなりに遠くに飛んでいった。
現れた裸体にナマエはぽつりと「すごい」と呟く。鍛え上げられた筋肉が淡いランプの光に照らされて、白い身体の上に美しい凹凸の影を作る。彫刻のような身体だ。そして視線をおのずと下に下げると、ぱっと目をそらした。

「なんだ、期待してんのか」
「…してない」
「どうだかな」

クックッと笑いながら尾形は寝そべるナマエへとおおいかぶさり、再び口づけた。ぴったりとつけた唇からは、時折熱い吐息が漏れる。全くこんな事は日常茶飯事だろうに、一生懸命答えようと口を開くナマエが愛しくなる。

おずおずと絡められた舌に、強く吸い付きながら少しだけ意地悪をしたくなった。しっかりと口内を犯しながらも、気取られぬように胸の頂へと手を伸ばす。
まだ触れられていないというのに、ぷくりと立ち上がっているつぼみを指の腹でキュッとつまんでやるとふさがれた口からくぐもった声が聞こえてきた。

舌を絡められ、言葉にならない声をあげるその姿は生娘のようで、背筋がゾクゾクする。そのまま指の腹でこねたり、爪でひっかいてやると尾形の下でナマエの足が動いた。膝と膝をすりあわせるようにもじもじしている。

「ふ、我慢できねぇって顔してるぞ」

唇を離して、顔を見ると顔は紅葉のように赤く、瞳はとろけたように目じりを下げていた。薄っすらと張られた涙の膜のせいか、ゆらゆらと輝く瞳は一段と美しかった。はふ、はふ、と乱れた息を整えるために上下する胸の頂は未だに尾形の指によって弄ばれ、その度にピクリと身体をはねさせる。

これのどこが期待していない顔だというのか。襲ってくれといわんばかりの仕上がりだ。まさかこの顔を見て興が乗らない男はいないだろう。

「あんたがそうさせたんだろ、」
「俺が悪いみたいな言い方だな」

ぐり、と親指でつぼみを悪戯につぶすと「んぁ、」とやらしい声をあげる。中々に愉快だ。「気持ち良いか?」と聞いて見れば、案の定彼は天邪鬼のように認めないのだから罰と称して頂を口に含んだ。
膨らんだそこを舌先でつついた後、乳輪ごと唇ではむはむと挟んでみると彼の身体は一段と熱くなる。

「いい加減素直になったらどうだ」
「俺は、素直だ、ぁっ」
「ずっとこのままでも、俺はいいが?」

歯をたててやわく噛むと、必死になって口を真っ直ぐに結んで耐える彼はいじらしかった。けれどそんなに噛んでいては、せっかくの美しい唇に傷がついてしまう。そっと指で唇に触れ、親指をぐっと差し込むと噛んではいけないと薄っすらと可愛い唇が開かれた。
そしてその指先で反対の頂をいじれば、こじあけられた口から耐えられずに漏れでた言葉にならない矯正が聞こえる。

「なぁナマエ。どうして欲しい?」

低く囁くような、といき混じりの声がナマエの鼓膜を震わせる。じんわりと脳の中に響く声は身体を痺れさせる薬のようだ。

「どう、ってあ」
「ここに欲しいか、」

きゅっと閉じられた後孔に親指を沈めると、ぐちゅりと卑猥な音が響いた。ほんの少しいれただけだというのに、その指を飲み込むようにぱくぱくと食いつく。

「それともこっちを先に楽にしたいか?」

けれど奥に入れるということはせず、むずがゆさだけを残して指は引き抜かれた。皮膚の厚い指先が、今度はふるふると震える立ち上がっている陰茎を一撫でする。

こちらも少しばかり、撫でてやればきっと乱れることだろう。尾形としては、彼が恥ずかしがってくれればそれが面白いのだから、答えなどどちらでもよかったのだが、ナマエは羞恥に赤く染まりながらぽつりと「…待って」と呟いた。

「百之助は、お客様だから、きもちよくならなきゃだめだ」

じ、と顎を引いて見つめる先にはたしかに尾形も苦しそうな逸物がそり立っている。同じ男同士なのだから見慣れているはずなのに、チラッと見た後にそーっと目をそらす仕草は生娘に似ている。

しかしそんな彼もまた男娼である。あまりにも初心ですっかり忘れてしまっていた。恥ずかしそうに、けれどしっかり言ってくるのだから彼は真面目な性分らしい。刺激に痺れる身体を布の海から起こし、尾形に布団の上へ座るように促した。

立場を入れ替えるように布団の上へと足を放り出して座ると曝け出された肌に触れる布はつるりとしたすべらかな肌触りだ。

改めて質の良さに感動していると、ナマエが身体をするりと尾形の足と足の間へ滑り込ませた。ちらりとのぞいた赤い舌が、今は不思議と挑発的に見える。

彼はほっそりとした指で耳にかかる髪をおさえると、もう片方の手で陰茎にそっと手を這わせた。ゆっくりとどこがイイのか探るようになで上げ、指の腹でこする。
そしてそうっとかわいらしい唇で亀頭に口付けをした。上目遣いをするように目だけで尾形を見るとすこうしだけ笑い、亀頭に口付けていた唇がやわく広がって陰茎を咥える。

「ッおまえ、」

あの唇が、いやらしい水音を立てながら己の陰茎を咥えるなどという絵図はガツンと頭を殴られたような衝撃だった。

きっと今までの客には彼を神聖視して手を出さなかった男達もいたはずだ。恥ずかしがる反応に少女のようだと言った男もだって。けれどこの姿は、同じ男のイイところを知り尽くしている男娼だ。

「ふ、んちゅっ…、ん、むっ」

熱い唾液が絡まり、すぼまった口が先端の形を確かめるように吸い付いてくる。裏筋を舌先で刺激されると思わず尾形の声も一瞬上ずった。
細い指が竿を上下に扱き、時折戯れるように陰嚢に触れる。ナマエの唇が上下する度にさらりと垂れた髪が肌に触れてくすぐったい。

「んっ…じゅっ…きもひぃれすか?」
「喋るな、」
「ふぁ、ん」

頬張るように口いっぱいに咥えたナマエは、舌先で鈴口を刺激した。それはかなり腰にクるものがある。このままでは口に出してしいそうだ。何も口内に出す事に罪悪感があるわけではないが、早々にぶちまけてしまうのは面白みがない。

尾形がやめさせようと頭へと手を伸ばすと、それよりも先に名残惜しむように唇がそうっと離れていった。しっかりと咥えられた陰茎はぬらりと光り、更に雄雄しくなっている。

「そのままでいて」

ナマエは立ち上がると横になっている尾形を跨いだ。そして首をもたげて様子を見る尾形に見せつけるかのように、足を開いて勃ちあがった陰茎を自ら広げた後孔に迎え入れた。

つぷり、と先端を数センチ咥え、ゆるり、ゆるりとその腰を自らおろす。空気を含む水音がすると「ん」と声が漏れた。

尾形が力を入れずとも、切っ先がナマエの中へと沈んでいく。時折熱い息をはいてそれでも全てをおさめようと羞恥にたえる姿にざわりと心が騒いだ。

「はっ…ん、ぁ」

カリ首がぎちぎちと壁を広げながら少しずつ奥へ割って入っていく。待っていたと言わんばかりに締め付ける中はひどく熱い。そして程なく進むとようやく彼の中へ尾形の全てがぴたりと入り込んだ。

見下ろす顔は苦しいのか眉がハの字を描いている。自分自身が入ったナマエの腹へとそっと触れると、あからさまにビクリと身体をゆらした。

「う、アぁッ!」
「くっ…」

ナマエが苦しいように、尾形もまた苦しかった。男娼である彼はここに咥える事など慣れているだろうに、尾形を締め付けて離さない。既に高ぶっている尾形には、その気持ちよさは毒だった。
我慢する事もできたが、ここは娼館である。本能の赴くまま、恐々と持ち上げられた腰のくびれを掴んでぐっと突き上げた。

「奉仕されるなんざ、じれったくて待ってられねぇ」
「ハッ、あ」

肉付きの薄い身体は軽く、跨られていようとも尾形が身体を貪るのにさした支障はなかった。強引に引き寄せた身体に杭を挿すように彼の中へと突き刺さる。ぎゅっと締まった入口もよかったが、ぐっと深く挿し込むと、その先にある壁に当たってそれはそれで気持ちが良かった。

「、あ、んん、それ、っいやだっ!!」
「イイの、間違いだろ」

首をそらせてうわ言のように喘ぎ声を漏らすナマエが尾形からはよく見える。金襴緞子に包まれていた白粉でも塗ったような白い肌を火照らせて、薄っすらと汗が輝く。

ぐずぐずにとろけたいやらしい顔をしている。喘ぐたびに口の端からわずかに涎がたれ、尾形が身体を揺さぶる度、その腰は快楽を求めて動いていた。

深々と咥え込んだまま、結合部をぐりぐりと円を描くように腰をくねらせると、前立腺に触れるのだろう。より一層甲高い声が聞こえ、尾形はニヤリと笑った。

「んふぅ、はーッ、」
「はッ、いい眺めだ」
「うぅ…ッんぁ!」

いじっていないナマエの陰茎からは、だらだらと大粒の我慢汁があふれ出ていた。これは愉快以外の何者でもない。リズミカルに上下する腰を砕くように打ち付けると、結合部からはぐちゅ、じゅぷ、と水音が聞こえてくる。

耳からもこの男娼を犯しているという現実を突きつけられ、尾形は素直に興奮していた。

「あッおっきくなった…ッ」
「くッ…、…!」

質量の増した陰茎に、息を詰まらせながらも嬉しそうに声をあげた。後孔に咥え込んだ竿はさらにみっちりと壁を押し広げる。ナマエがたまらなくなって前かがみになると、額からぽたりと汗が流れ落ちた。

苦しそうに息を荒げるその顔はあまり余裕がないように見える。尾形は覆いかぶさる細い背中へ腕を回してぐっと引き寄せた。

「ひッ」

勢いよく引っ張られた身体はよく鍛えられた胸板に抱きとめられた。同時に中でこすれ合っていた陰茎も当たる場所が変わり、尾形の腕の中でナマエがビクッと身体を震わせる。

イッたわけではなさそうだが、背を丸めてどうにかやり過ごそうとする身体は熱く、反射的に結合部がぎゅっと締められた。

尾形は悪戯に背中へと手を回すと、背中から尻へと手を這わせ、やわい二つの膨らみを持ち上げる。

「はぁ、」
「ッま、待って!あ“ッ」

制止の声は聞こえないふりをして、尾形は再び中を抉った。今までとは違う角度で違う場所へ当たるせいか陰茎に伝わる締め付けもまた変わり、荒い息を吐く。

いつのまにかいやらしい水音が、ぱちゅんぱちゅんと肌をぶつけ合う音へと変わっていた。もうどちらが腰を動かしているかなど分からない。

「ンっ、ふぁ、も、ダメッ」

容赦なく突き上げる竿に、ナマエは思わず尾形の胸に這わせていた指をぐっと立てた。幸いにも爪は短く肌に傷をつける事はなかったが、その力がもう限界が近い事を尾形に知らせていた。

「イッていいぞ」

耳元で囁くと、「うんッ」と素直にぐずぐずになった声で言うナマエに、彼はまた愉快そうに口の端を持ち上げた。最初の天の邪鬼はどこへやら。こちらを見る瞳はすっかりと蕩け切った、男娼そのものだ。

「うっ、ひゃく、ッあ、ひゃくのすけぇ、もっとッ」
「ッはぁ」
「あっ!ハァ、…ん、ちょうだい、ねぇ」

頬を赤く染めながら、だらしなく口を開けた姿は酷く扇情的で尾形もナマエの尻を掴んで更に乱暴に突き立てた。ギリギリまで抜くのをズルズル引き留め、うねる壁が気持ちいい。中でも彼の声が引きつる場所へ、溜まりに溜まった欲を穿つ。

「う、ッや、イッちゃ、ぅああぁアあッ!!」

ガツン。そこを一突きすると、ナマエの身体は大きく跳ねた。身体の奥から指先まで、電撃が走ったように痺れ、ビクビクと身体を揺らす。お互いの身体の間に挟まっていた彼の陰茎も、我慢ならずにどろり、どろりと白濁を吐き出した。
勢いのないそれを全てを出し切ろうと、自然に腰回りに力が入る。ぎゅっと太腿を締め付けると、陰茎を咥えていた後孔も活発にうねり、強く締まった。

「ふぁ…、あッ、はぁ、なんで、」
「はーッ…」

尾形の身体にしだれかかったまま、熱い吐息を吐き出すナマエはチカチカした視界の中でもたしかに自分の中に埋まる陰茎を感じていた。射精を促すように、絞り上げる壁が妙にハッキリと形を自分に伝えてくる。さっきと同じ、いやそれよりもまた大きくなっただろうか。

「ぁんッ」
「気が変わった」

眉間に皺をよせ、歯を食いしばる尾形は辛そうな顔をしている。それでも乱れた前髪を後ろに撫でつけ、笑うのだからやっぱりまだ余裕なのかもしれない。
イったばかりで小さな刺激にも激しく感じてしまう身体を無遠慮に突いて、彼の身体を抱きしめた。

「夜は、まだ長い。ふぅ…ッ、今日一晩あんたは俺のものなんだろう」
「あっ、はぁッ」
「付き合ってくれよ」


あの満月が降りるまで。

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かずの子様

リクエストありがとうございました。
『共犯声明主のifパロディ、高級男娼』という事で裏を書かせていただきました。かなり長くなってしまい申し訳ありません。
高級男娼と聞けばもちろんそういった事がお仕事になるのですが、共犯声明の主人公君は完全に染まってはいないだろうな、高級娼婦、男娼なら相手客人数も少ないかも…と色々妄想を張り巡らせてしまいました。
ifパロディ楽しいです!!(*'ω'*)

ありがとうございましたー!

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